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111 月宮殿風紀会にて

2019/07/20 1回目


 月宮殿でしておきたいことは二つ。うち優先度が高いベニート卿へのお願いをさらりと終わらせ、紫苑さん含む二人と別れると、次にむかうのは風紀会である。


「じゃあ俺は行くからな、頑張れよ!」

 風紀会まで案内してくれた彼にお礼を言うと、気にするなと背中をたたかれる。

「そうだ、ベニートを見ていて思ったが……式部会はつらい。何かあったら俺に言え」

 なんて格好いい言葉を残し、きびすを返し出口へ向かっていく。

 

 彼は一応マジエロで仲間になってくれる男キャラである。ボディビルダーと見間違えそうな筋肉を持つ3年生で、優しく正義感にあふれ頼りがいがあるため、紳士淑女達の間では兄貴と呼ばれいた先輩だ。


 しかし強いかと言えば決してそうではない。

 筋肉質な見た目通り攻撃力や体力の伸びは良いが、それ以外が微妙である。また攻撃の伸びが良いと言っても男性キャラの中では、だ。

 

 接近特化のヒロインに遠く及ばない。また壁をやって貰おうにも『くっころ』さんや瀧音の盾モードにすら及ばない。


 一応お気に入りのキャラなのだが、悲しいことに使いどころがないんだよな。

 むしろ男性で使えるキャラを探す方が難しい。主人公はともかくとして、それなりに優遇されているのはベニート卿、そしてあいつらぐらいなものだろう。


 一応、瀧音もある意味で優遇されている。癖はあるものの間違いなく一般男キャラより強い。相手にチート武器さえなければ、一部のメインヒロイン級ともやり合える強さはあった。相手との距離が離れているといったこちらが不利な状態からの戦闘は、考えるだけでも嫌になるが。

 

「よし、行くか」

 兄貴がいなくなるのを確認して、後ろに控えていたななみに頷く。そしてコンコンとドアをノックした。

 それから3秒もせず先輩の声が聞こえ、ドアを開ける。

 

 案内された部屋の中にいたのは聖女と先輩とリュディだった。

 入室した俺を見てステフ聖女の目はすっと細くなる。そしてあからさまにため息をついた。

「ああ、あなたね。ごきげんよう。何もないところですけどどうぞ」

 普段の猫を被る聖女とはかけ離れた、心底どうでも良さそうで素っ気ない対応だ。


 俺が先輩に目を向けると、ほらここに座れと椅子を引いてくれた。ななみは立っていようとしたが、話が長くなる可能性もあったので座ってもらう。

 

「ありがとうございます」

「一応言っておくわ。式部少輔への就任おめでとう、がんばんなさい将来の式部卿」

「ありがとうございます。自身には身に余る大役かと存じますが、名に恥じないよう精一杯勤め上げたいと思います」


「……」

 両目を見開き、驚きの表情を浮かべるステフ聖女。

「どうかされたんですか?」


「瀧音はこういう奴です。ああ、瀧音。ここではあまり堅くならなくて大丈夫だ」


 先輩の言葉で聖女が驚いている理由がなんとなくだが察せられた。俺の見た目はゲームの瀧音と同じように制服を崩して着ているし、式部会入りする前からメイドを連れている上に悪評ばかりの野郎だ。そりゃあふざけた奴だと思われても仕方がない。しかし出てきた言葉は丁寧だったと。

 一応元社会人だ。こういった場ではなるべく敬語は使うさ。それに聖女と腰を落ち着けて話すのは初めてだし。


「はぁ、式部会も安泰ね」

「もったいないお言葉です」


「まあそれは良いわ。それで、ちょっと言いたいことがあるの」

「言いたいことですか?」

「こちらの足を引っ張るような行為はしないでいただけない?」

 声に重さが乗っかったといえば良いのか、その言葉にはずしりとくる圧力があった。魔力でも込めているのだろうか。


「火消しを行うのは生徒会と風紀会なの。あなた方式部会はそれはもう好きなように行動しているようだけど、こちらにも配慮していただきたいわ」

「確かに以前の行動で、学園ダンジョンで規制しなければならなくなったことは謝ります。ただ今後は大きく動く際には相談いたしますのでご安心ください」

「ま、分かってんならいいのよ。それにしても……」

 

 そう言って少し意外そうにまじまじと見てくる聖女。

 ファンクラブがあるくらいだ。ステフ聖女は美人である。まあエロゲにおいて大抵の登場人物はみんな可愛くて綺麗であるのだが。

 そんな聖女にこう見られるのは、なんだか少し恥ずかしいというか興奮するというか。


「あなたは今の私を見て何も思わないの?」

「思う? ああ、聖女様は素敵な女性ですよね。普段はおしとやかで素敵ですけど、今は美しさの中に強さが見えて、より素敵に見えますね。ああ、質問はどう思うかでしたか? そうですね聖女様の新たな一面が見られて、うれしく思います」


 俺の言葉は想像の斜め上だったのだろうか。ステフ聖女は大きくため息をつくと、こめかみに手をあてる。

「………………あなたはベニートみたいなことを言うのね」

 さすがはベニート卿と言わざるを得ない。俺は彼女について知っているから軽口をたたけるのであって、ベニート卿はどうだ? よくもまあそんなことが言えた物だ。場合によっては絶対零度の視線でヒヤッヒヤにさらされかねないって言うのに。

 

 いやベニート卿は法国貴族だからこそある程度知っているのかもしれないな。彼女の境遇を知ればなんとかしてあげたくなるから。

 だからこそ彼はあの聖女イベントでこちらに付くのだろう。

 

 本来ならベニート卿は法国貴族という立場があるから、聖女イベントで敵になってしかるべきである。なのに彼は味方にいるし、むしろ生徒会長と並んで一番に協力を申し出るキャラだ。それでいて聖女に関して「恋愛感情はない」って言ってるんだよなぁ。本当にないのだろうか。

 

「……あなたと話していると、調子が狂うわ。それで用件は何?」

 聖女は大きなため息をつくと、そう言って話を変えた。

 

「ええ、ちょっと今後どのようにして学園内ですごそうか考えたんですけど……至った結論がちょっとアレなもので……。先に皆さんに宣言をしておこうかと思ったんです」

「アレ、ね? なにかしら」

「ええ、実は女性を口説きまくろうかと」


 空気が凍った。いや、わざと変に解釈できるようにそう言ったから、俺がわざとこの空間を生み出したと言って良いのだが。

 

「ねえ幸助、もう一度言ってくれない?」

「……私は口説きまくると聞こえたんだが……どういう真意だ?」

 リュディも先輩も、胡散臭いものを見るようなジト目だ。正直たまらない。

「具体的に言うと、三会関係者の女性を、特に先輩やリュディを口説きまくろうかな、と」

 まあ、口説いているように見せるというのが正しいのかもしれないが。

「……理由を聞かせてくれ」

 

「いやぁ自分を客観的に見ると、かわいいメイドを連れていながら、リュディにちょっかいをかける男に見られてると思うんですよ」

「ご主人様ったらかわいいメイドだなんて……今日はななみスペシャルBですね、爪楊枝とロープを用意しなければ」


「急に話に乗ってきたと思いきや、意味深な発言するのやめてくれる? ここだと勘違いする人出てくるから」

 主に聖女。すでにドン引きしてる。でもまあ、打合せ通りっちゃ打合せ通りなんだけど。

 ただ、割と真面目にななみスペシャルBってなんですかね。爪楊枝とロープを使ってナニをするんですかね。

 

「……ええと、ななみのボケはスルーして、真面目な話俺はそう見られてるんです。で、ふと思ったんです、逆にそれを利用すればと」

 もう、いっそのこと開き直ろう。とりあえず口説くキャラでいこう。という作戦である。


「これならずっとリュディや先輩のそばにいても、不自然じゃないんですよね。またコイツつきまとって口説いてるのかとか思わせておけば良いですし」

 聖女はあまり興味がなさそうな顔で、へえとつぶやく。

「まあ思ったより良い方法かもね……他者から見れば花邑家の者を無下に出来ない、雪音達は仕方なく関わってあげている雰囲気を出せる。彼女たちはかわいそう、瀧音幸助ウザい。でも何か問題が起きたらどうするのかしら?」


「だから口説くのを三会関係の人にしようかと思ってるんです。近くに風紀会や生徒会がいるのに行動を起こしたりしますか? 多少の抑止力になってくれるのではないでしょうか」


 なるほど、と先輩が言う。

「私達がそこにいるなら、場が盛り上がりすぎてしまっても『瀧音を注意』することで冷めさせることも出来そうだな……」


「ええ、これで怒りを買いながら、場をある程度制御出来る」

 何より先輩やリュディと一緒にいることが不自然じゃない。

 

 聖女はふと何かを思い出したかのように顔を上げる。

「ちょっと待ちなさい…………口説く対象って三会の女性メンバーっていったかしら?」

「ええ、ステファーニア様ファンクラブもございますし、生徒会長と並んで筆頭ですね。ああ、一緒に行動したいリュディや先輩を除いての筆頭ですが。任せてください。気分が良くなるぐらいに口説いて見せますから」


 聖女はとても嫌そうだった。



----


「瀧音」

 俺がななみと部屋を出たときだった。先輩が俺を呼び止めたのは。

 先輩はななみを気にしていたので一時的に離れて貰うように言うと、彼女は先輩の開けたドアから中へ入りリュディの所へ向かう。

 それを確認した先輩はこちらを向き、「そ、その」と歯切れ悪く何かを言う。ほんのり顔が赤い気がした。


「その、私を口説くことは必要か? リュディや隊長であればファンクラブもあるし二人とも美人だし。後はモニカ会長もか。私が口説かれても……」

 なんだそんなことかと、思わずため息をつく。


「何を言ってるんですか先輩。俺が先輩の良いところを上げたら朝になってるどころか、人間の一生では足りませんよ」

「君は一体どれだけ私を褒めるんだ!?」


「まあ多少誇張しましたけど、それでもつきることはないです。それくらい俺は先輩が素敵な人だと思ってますし、そんな先輩と冒険に行けたらなって思ってます」

「……瀧音」


「先輩、これからもよろしくお願いします」


聖女イベントは6章ぐらいですかね? かなり先ですのでゆっくりお待ちください。


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※聖女イベントは6章です
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