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110 姫宮紫苑

すいません、ギャグ展開にならなかった……。

 あたりを見回したななみは、小さく息をつく。


「ご覧くださいご主人様。下等生物・・・・の群れがこちらを見ていますよ」

 正式に入会発表が行われたからだろうか。以前より注目されているような気がするが、あまり変わってないような気もする。元々注目集めてたからなぁ。てか。

 

「おーい、デフォルト設定解除されてないぞ?」


 それにしても懐かしいなその言葉。初めて会った時は俺以外を下等生物で呼ぼうとしていたんだよな。てか下等生物なんて言葉を実際に使う人を、漫画やアニメ以外に初めてみたぜ。


「いえ、一般の方々にはもちろん使用しません。ただ下等生物には下等生物と申し上げてるだけです。私にとってご主人様を見下したり敵対するものはすべて下等生物ですが……?」


「えっ何言ってるの当然だよね、的な反応やめてくれる? 本音を言うと、俺のことを思ってくれることは嬉しいんだが」

 まあ下等生物だけを強調して言ってるから、悪意を集めるためにわざと言ってるのだろう……多分。


「致し方ありませんね……気をつけます。では、本題に戻しましょう。ご主人様は現在注目されております。これはチャンスです。自撮り棒を準備しておきました」


「いろいろぶっ飛んだな。そんで、どうしてここで自撮り棒がでてくるんですかね?」

 この場に不必要なアイテムであることこの上ない。


「彼らを背景に記念写真でも撮りましょう」

 撮影後SNSにアップするまであるな。てかアーティストのライブじゃねえんだぞ。

 そして自撮り棒だからおまえも写る前提かな? まあどうせなら二人で写りたいけれど。しかしよくよく考えてみると。


「まあ、観衆を煽る目的には有用そうだな」

「ご主人様は普通とひと味違うというところを見せつけるチャンスです」

「単純に変人で落ち着きそうだ。まあ俺のキャラに合ってるのかもしれないな」


 スッとななみは自撮り棒を取り出す。本当にもってたのか。それにしても、なぜこの自撮り棒には『NANAMI LOVE』という文字が印字されてるんだろうね。君、俺の出してる給料をくっっっっっだらないことに使ってないかな? 

 

「うぬ。誰かと思えば、幸助ではないか」

 

 突然後ろから声をかけられ俺とななみは振り向く。そこに居たのは制服のせの字もない和服美女、紫苑さんだった。

 ただでさえ注目を集めていたというのに、注目度はさらに上がったような気がする。


 紫苑さんはこちらに来ると、鼻に扇子を当てながらわざとらしく眉をひそめる。

「それにしてもここは臭いのう。虫けら共のにおいがするわ」

 

 ななみ並に言葉が悪いわ。『虫けら』だなんて、まるで敵の強キャラっぽいことを言うんだな。まあ一般生徒から見たら敵キャラ扱いだし、紫苑さんはメインヒロイン級の強キャラだから分相応といえるのだろうが。それにしても虫けらの臭いって何だろう。


 紫苑さんも実際にそんな匂いがあると思ってないし、もちろん演技で言っているのだろう。紫苑さんは理由なく貶す人ではない。聞けば「どんな匂いじゃろな。妾も知らんぞ、わっはっはっは」だなんて笑うに違いない。


 この人ってかなり適当にしゃべるんだよなぁ。

 

 紫苑さんはななみの自撮り棒を見ると、

「ほお、ななみ。面白い物を持っているではないか」

 と言って笑う。


「どうせなら自撮り棒などではなく、しっかりとした記念撮影でもしようぞ」

 と、視線を学園校舎に向けてスマホを取り出した。


 わざわざ集まっている人々の元へ歩くと「ほら記念撮影をするんじゃ、そこをどけい」と場所を空けさせる。さすがに彼らを背景にはしないようだが、よけろ、ここを歩くな、といわれれば腹も立つことだろう。


 場所が出来るとすぐにななみが反応し「では私が撮影しましょう」と申し出る。俺は動き出そうとしたななみの手を取り首を振った。


「いや、ななみも写ろうか」

 どうせ撮影するならみんな一緒で良いじゃないか。自撮り棒もあるのだし。

 ななみはあたりの反応を見て、うれしそうに微笑むと身を寄せる。ななみファンがいたのか、それとも俺が女性とイチャイチャしていること自体が嫌なのか、怒りの視線が少し増えた気がした。

 

 ななみの意図に気がついたのだろう、紫苑さんもわっはっはと笑う。

「そうじゃな、写れ写れ。そもそもじゃが、ななみが撮影せんでもそこら辺のやつにやらせれば良いんじゃ。ちょうどいい奴もいるしの」

 そんな話をしていて、ふと思う。

「どうせなら式部会全員で記念撮影したいですね」

「じゃの。まあ集まるのは希じゃからな……。式部会の一年枠が埋まったらあやつらにも声をかけてみるか」


 紫苑さんはそそくさと逃げようとしている二年生を狙って呼び止めると、彼女にスマホを持たせる。左に紫苑さん右にななみ。そして真ん中が俺。三人で武器を構えたりなど何枚も写真を撮ると、ようやく紫苑さんは彼女を解放した。

 

「結構時間たったな」

 俺がそうつぶやくと、ななみは頷き時間を教えてくれる。

 もうすぐ午後授業が始まるからだろうか、あたりには人が居なくなっていた。この時間でもゆったりしている紫苑さんを見るに、午後授業は参加しないのだろうか。いや、紫苑さんだったら途中から授業を受けに行ってもおかしくはない。


 写真の転送をしていた紫苑さんは、誰も居ないのを確認して小さく笑う。

「おぬしらのおかげで助かったぞ。いずれやろうとしていたことを今できたわい」

 別のことを考えていたせいで、何のことだと一瞬頭をひねる。


「なに、あのむすめのことじゃ」

 どうやら先ほどの写真を撮ってくれた二年生のことらしい。

 

 紫苑さんは懐から巾着を取り出し、そこにスマホをしまいながら話を続ける。

「あやつは妾の知っている奴なんじゃが、人間関係でいろいろあったらしくての。妾が無理矢理つっかかることで同情を誘ったんじゃ。うまくいくと良いが」


 軽く説明を聞いて、なるほどと頷く。どうやら先ほどの女性は、何らかの悪意を向けられていたか、そうなりかけていたようだ。

「だからあの女性を撮影に回したんですね。……きっとうまくいきますよ」

 しかし紫苑さんが過剰に突っかかることで、先ほどの女性には同情を向けられるように仕向けた。

 そして代わりに自分には悪意を集め、彼女への悪意をこちらにそらさせると。


 なんとまあ、式部会らしい行動だ。


 場合によっては『式部会に狙われてるから彼女に近寄るのやめよう』などにも発展しそうだが、そうなった場合は生徒会らが保護するんだろう。うまくやれば生徒会の評判が上げられるかもしれない。


 ついでにだが、彼らは俺が式部会入りしたことをより実感できたはずだ。こういうのは文字で見るより実際にその光景を見た方が衝撃が伝わる。式部会の紫苑さんが表だって仲良くしてるんだ、そりゃ計り知れない衝撃を受けたであろう。


 そう考えれば生徒会の評判は上がり、式部会には都合良く、彼女は守られる。winwinwinだな。


「そうじゃな、悪意を集めることはきっとうまくいくじゃろ。なんせ妾は性悪女らしいからの……わっはっはっは!」

 紫苑さんは自虐的に言うが、はたしてそうだろうか。確かに紫苑さんは性悪女などと呼ばれているようだが、紫苑さんを知ってしまえば性悪女になんて見えるはずもない。むしろ知れば知るほど好きになる女性だと思う。


「ほんと、皆は見る目がないですよね。紫苑さん以上に素敵な女性を見つける方が困難だというのに」

 紫苑さんの竹を割ったような性格は非常に好きだし、実は他人思いな所もとても優しいところも好きだ。もちろんであるが、数十人いる嫁の一人である。


 先輩が紫苑さんと仲が良いのはこういう性格だからだろう。ただ人によっては結構な頻度で悪ノリするところが玉に瑕と思うかもしれない。だけどそれはそれで紫苑さんらしくて良いと俺は思う。


「なんじゃ、急におべっかを使いおってからに。何も出てきやせんぞ」

「おっとすいません、思ったことが口から出ただけです。求めてるわけではないですよ」

「ほっ。なんとまあ口達者なやつじゃ」

 

 じゃが、と紫苑さんは話を続ける。

「言われて分かったことがあるの」

「なんですか?」

「普段罵られるばかりじゃから、たまにそう言われると良い気分になれる、とな」

 そう言ってニィッと笑う紫苑さんは、俺の背をポンとたたいた。


「わっはっはっはっは、気のつかえるかわゆい後輩が入ったようじゃの。そういえばおぬしの目的地は月宮殿かえ?」

「ええ、ベニート卿や先輩と今後の話をしておきたくて。後はリュディにも話をしておきたいんですよね」

 まあリュディと先輩は家でも良いんだけど。

「そうか、妾も月宮殿へ行く途中での。よし、いくぞ」


10日以降から更新頻度上がると思います、思います。


◇式部会(一学年2名 定員6名)元ネタは式部省。

 ・式部卿しきぶきょう(会長職) ベニート(3年生)

 ・大輔たいふ(副会長職)紫苑(2年生)

 ・少輔しょう(副会長職)幸助(1年生)

 ・大丞たいじょう3年生枠 実は……。

 ・小丞しょうじょう2年生枠 いつ出るかな?

 ・史生ししょう1年生枠 イベント次第で入会者が変わる。


  学年が上がると

   少輔→大輔→卿

   史生→小丞→大丞


  瀧音君は順調にいけば式部卿になるポジションです。来年は紫苑さんが式部卿。

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