109 瀧音幸助④
6/23 21時に1話更新してます。まだの方はそちらから。
リュディ視点 短い。
風紀会の格式張った入会式を終えたのは、午後授業が終わり学生達が帰路に就く頃だった。
「わざわざすまなかったな、リュディ。色々と驚いただろう」
「事前に幸助から多少聞いていましたが……それでも驚きました」
幸助に聞いていた通りだった。対立をしていたと思っていた三会は、内部では和気あいあいとしているらしい。そして一番多く敵を作り嫌われているであろう式部卿こそ、三会で一番のムードメーカーだとか。
学園寮へ向かっているのであろう生徒たちを横目に、先輩は小さくため息をつく。
「今年の新入生は大変だな……」
「そうなのですか?」
「ああ、大変だよ。同じ学年……比較対象にソロで四十層を攻略し、そして三会入会する奴が居るんだぞ?」
思わず苦笑する。
「そうですね」
フフッ、と雪音さんも笑う。
「まるで台風が直撃したまま、停滞しているようだ」
あいつはまた何かを起こすだろうな、なんて言っていたけど、雪音さんはまんざらでもなさそうだった。
「おかげで一学年の空気が昨年とまったく違う。あいつは式部会に入会もしたし、これからいつでも注目の的になるだろうな」
確かに、注目の的になるのは確実だろう。それも悪い意味で。
自分よりも下だと思っていた彼が、内心で馬鹿にしていた彼が、授業を基本放棄し学園にも真面目に来ない彼が、一年生だけでなく上級生にも出来ないことをしたのだ。
そして幸助は、私たちにこそ大変だったと本音を吐露したが、それ以外には冗談めかしてしか言っていない。
だから現在の対外評価は『不気味な実力者』のようになっていると思う。ダンジョンソロ四十層は彼を少し見直すきっかけになったであろう。
しかし式部会入りすることは、見直しをして少しだけ良くなった評価が打ち消され、さらに嫌われることに拍車をかけることになる。
しかし幸助は今回もそれを意に介さない。確信をもって言える。
私が原因の時もそうだった。学園生の噂や小さな誹謗中傷は、幸助にとって逆風だと思っていた。普通の人ならばその風で道を逸れ、躓き、そこから一歩も進めないどころか、どこかに隠れざるをえなかったり、押し戻されることだってあるのではないだろうか。
しかし幸助は違う。
幸助にとってそんなものはどこ吹く風だった。ななみが来てからは、学園生たちの反応を楽しんでいるようにも見えた。
むしろ逆に風を利用して、鳥のように大空へはばたく、そんな印象さえ受けた。
いや、幸助はすでに羽ばたいているのだ。そんな彼に私達は可能性という翼を貰った。
「幸助は……すごいわね。私も頑張らなきゃ」
「……私から言わせればすごいのはリュディもだ」
「私も、ですか?」
「比較対象が瀧音ではな、そう思ってしまうだろうが……そもそもリュディも三会に入会したんだぞ」
そういって先輩はツクヨミトラベラーを見つめる。
「時間だ、掲示板を見に行こう。そろそろ正式に発表される頃だ」
私は頷く。そして掲示板へ向かって歩き出した。
掲示板の前には帰宅途中の人々が足を止め、画面を見ていた。
近くにいた三人の女生徒は目を見開き、口を半開きにして、ぼうっと掲示板を見ていた。制服についているブローチを見るに、彼女たちは三年生であろう。
彼女たちのうち一人がつぶやく。
「嘘、でしょう?」
「……この時期に任命だなんて、聞いたことないわ」
掲示板を見上げたまま、そんなことを呟く。
視線を外し、掲示板を見つめる。
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下記の者を式部会 副会長職「式部少輔」に任命する。
1年 瀧音 幸助
式部会 式部卿 ベニート・エヴァンジェリスタ
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「ちょ、ちょっと」
ふいに一人の女性が驚いた声音で叫ぶ。彼女はツクヨミトラベラーを手に持ち、慌てた様子で隣の女性の肩をゆすっていた。
「ちょっと、ツクヨミトラベラー見て」
「なに、どうせ式部会の事でしょう」
「そうなんだけど違う。瀧音……君……があの花邑家って」
話を聞いた私はツクヨミトラベラーを取り出すと、届いていた速報ニュースを開く。
雪音さんは私の横から画面をのぞき込んできた。
--ツクヨミニュース速報--
速報!
式部会 ベニート・エヴァンジェリスタ卿が
一年の瀧音幸助君を副会長職「式部少輔」に任命したとのことです。
花邑龍炎閣下のひ孫であり、花邑はつみ教授のはとこである瀧音幸助君ですが、
先日ツクヨミダンジョンを一週間でソロ四十層攻略という新記録で達成したため、
その功績を鑑みての任命かと思われます。
ツクヨミ魔法学園新聞では、瀧音幸助君のインタビューも予定しています。
気になる方はツクヨミ学園新聞をよろしくお願いします!
ツクヨミ魔法学園新聞
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次は修行パートかギャグパートになる……多分。