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108 式部会にて

「ようこそ、式部会へ!」


 ベニート卿はそういってドアを開ける。

 出迎えてくれたのは満面の笑みで両腕を広げる紫苑さんだった。

「はははっ、ようきた、ようきた!」


「ごめんね瀧音君。せっかく来てもらったのに二人しかいなくて」

 俺とななみが入室するとベニート卿はドアを閉めながら、申し訳なさそうにそういった。

「まあ式部会はこれが基本じゃな。まあ呼べば来てくれるやつもおるが、今日は無理のようじゃった」


 確かにゲームではこの二人と絡むことが多かった。あとの二人は……いずれ会うことになるだろう。


「代わりにモニカ会長が来たがってたんだけどね」

「卿よ、今後のことも話し合うから、式部会のみでの歓迎すると決めておったじゃろ! いらぬいらぬ。まあ、あやつは興味があれば呼ばれもしないのに来るからのう……」

「確かに急に来てもおかしくはないね。でも後日合同歓迎パーティを開くから、我慢してくれる可能性もあるよ」


 俺は紫苑さんが引いてくれた椅子に着席する。ななみは座るのを固辞した。

 紫苑さんは対面へ回ると、茶の準備を始めたようだった。ななみはすぐさま彼女のそばへ行くと手伝いを始める。いや、仕事を奪ったようだ。紫苑さんがこちらに来て着席する。

 

 目の前のテーブルの上には、やけにこった作りの木箱が置かれている。中には色鮮やかな和紙に包まれた菓子が置かれていた。間違いなく高級品であろう。


「本当は食堂を押さえたかったんだけどねぇ、まだ公表前だから」

「いえ、ここまでしていただけて感無量ですよ」


「のう、堅い堅い堅いっ! ここでは家族と思って話せ! そうじゃのぅ、妾の事は紫苑でよい! ななみ殿もな」

 そういってななみはお茶を出しながら頷く。

「承知しました。紫苑様。ただ、私めに敬称は不要でございます」

「では紫苑さん、と呼ばせていただきます。俺のことは呼び捨てで構いません」

 今までずっと紫苑さんと呼んでいたので、ほかの呼び方をしろと言われても少し困るが。


 まだ堅いのう……とつぶやく紫苑さん。

「わらわは瀧音と呼ばせてもらおうかの……いやまて、こうにしよう」

 次会う時の反応が楽しみじゃ、と紫苑さんは笑う。


「僕のことはベニートで良いかなぁ。妹も学園生だし」

 い、妹ね……。いや彼女も嫁認定するぐらい好きなんだが、自分に降りかかるとなると……。

「妹さんと混同してしまいそうですしね。分かりました、ベニート卿」


 ベニート卿はうんうん頷くと、茶を出したななみに礼を言う。

「ななみさん、ありがとう」

 敬称はいらないと言われても、必ずしっかり敬称をつけるベニート卿だが、そこがまたベニート卿らしい。ゲームでも敬称をつけないのは妹だけだったはずだ。まあ式部会として演技するときはわざと外してたかもしれないが、そこら辺の細かいところは覚えていない。

 

「さて、そろそろ本題に入ろうか」

「式部会に関してじゃな」

「式部会の裏の役割は知っているようだけど、具体的に何をするか? 聞いて驚かないでね……」

 ベニート卿はそういってキリッ、と真剣な表情を浮かべると


「実は…………ほっとんどなんもしないんだよねぇ!」

 なんて言い、すぐさま表情を崩して笑いだす。その横に座る紫苑さんも爆笑だ。


「人ってのは面白いことにね、一度とてつもなく嫌われてしまえば、大抵の行動が苛立つように感じるみたいなんだよねぇ」

「じゃのう、身に染みたわ、はっはっはっ!」

「そうなれば、よっぽどのことが無い限り好感に変わらないし、あとは自由さ」

「稀に学生たちを煽る事もあるがのう」

「まあそれで彼らのやる気が補填できるなら、僕がいくらでも煽ってあげるよ。そうだ、瀧音君。君には不要な心配なんだろうけど、一応聞いておきたいことがあるんだ」

「なんでしょうか?」

 うんうんと、頷きベニート卿は話を続ける。

 

「君は耐えられるかい?」

「耐えられる、ですか?」

「うん、そうそう。君はすでに学園で非常に注目される生徒だ。その見た目しかり、友好関係しかり、能力しかり。元々負寄りの感情をぶつけられていたとは思う」

 まあリュディの件の時も、視線はあったな。まあ、特に気にしていなかったが。

 

「だけど、それと比じゃないぐらい悪意にさらされる可能性がある」

「妾たちが入会する以前より、式部会は活動しておる。そしてずっと、ずぅぅぅっっと悪意をため込んできたのじゃ」

「だからこそ僕らは『宿敵』なんだ。君は今なら戻ることができる。だけど入会すれば後には引けない。あとは卒業まで宿敵だ」

 

 そんなのはわかり切っていた。

「聞くまでも……ないでしょう。これから、よろしくお願いします」

「ほう、そうかそうか! ……ななみはどうじゃ? 気が変わったりせんか?」

「お誘いは非常に光栄ではございますが、わたくしはご主人様のメイド以外に仕事を増やすつもりはありませんので」


 ななみはどうあっても式部会入りしないらしい。まあ俺が式部会の仕事をするのに彼女はついてくるから、ほぼ式部会に入っているようなものであろうが。

「それにしても良いんですか? ななみがここに居ても」


「ああ、構わないよ。ななみさんが持つカードがあるからね。場合によっては僕の式部卿よりも強い力を持つし」

 普段なら「ふっふーん」とばかりに俺にカードを見せびらかしていたであろうななみだが、今日近くにいるのは先輩やリュディではなく、紫苑さんとベニート卿だ。


 しかし、なんでそんなの持たせたんだろうね……。まあ毬乃さんだから俺のフォローの為に持たせたんだろうが……あの人ってけっこう過保護だし。おかげで毬乃さんには足を向けて寝られない。


「そもそもじゃ。式部会は生徒会や風紀会と違って、色々特殊じゃしの。専属メイド一人居るくらい歯牙にもかけんて」

「むしろそれでわざと怒りを買うのもいいかもしれないね。なんだかもう実践しているような気もするけど」


 そうですね、と頷く。

 ななみは入会以前から俺の目的を知っていた事もあって、わざと煽っていた節がある。ただ一番の理由は反応が楽しいからだと思う。


「さて、瀧音君の入会公表なんだけど、どうしよっか。明日にでもしちゃう? 大丈夫?」

「ええ、問題ないですね」

 今日のうちにクラスメイトへの根回しは済ませた。式部会の瀧音幸助となっても、大丈夫だろう。多分。

「なら掲示板で掲示かの」

「だねぇ……あとは新聞に煽ってもらうのもありだね。そういえば瀧音君、君は花邑家の者だってことはわざと非公開にしているのかい?」

「いえ、そういうわけではないですけど……聞かれないから答えてないだけですね」


 なるほどね、とベニート卿はつぶやく。目を閉じて腕を組み何やら思案していたが、やがて片目をパチリと開けるとにっこり笑う。

「じゃあそれを大きく公表していいかな? 君が思っている以上に君が花邑家の一員であることが知られてないみたいだからね」

「ええ、構いませんよ」

「じゃな。妾も雪音に聞かされるまで知らなかったしの」


 あまり口外していないとはいえ、隠してもいなかったんだが、予想以上に知られてないらしい。

「瀧音君のことは、なるべく自然に公表したいね」

「なればツクヨミ学園新聞にでも頼むかの?」

「それがいいね。彼女たちなら任せられる。ああ、ごめんねいろいろ話を進めちゃって」

「いえ、大丈夫です。察していましたから」


 すでに裏事情は大体知っているから。学園新聞が三会とズブズブだってことも知っている。

「うん、なら彼女たちには僕から言っておくよ。それにしても、久しぶりに式部会の仕事をしてる気分だね。はははは」

「じゃな、最近は表立っての行動はしておらんな。こっそり生徒会、風紀会らのヘルプに行ってはいたがの。そういえばお主の四十層攻略で風紀会と生徒会が大変そうじゃったぞ」


「ええ、先輩には謝りました……」

「なに、あ奴にこそ謝る必要ないわい。お主への入れ込み具合が凄まじいからの、それくらいの事はいくらでもやってやる、という風じゃったわ。まあ聖女がめんどくさそうにしてたが、いつもの事じゃしの」


 ははは、と笑っておく。

 紫苑さんはふとなにかを思い出したのか、「おお、そうじゃ」と手をたたいた。

「そういえば風紀会にも一人入るらしいのう。大物が」

「ええ、リュディですね。先輩や本人から聞きました」


「へぇ……」

 と、ベニート先輩はつぶやくと、ニヤリと笑った。

「何じゃ、卿よ? そんなにニヤニヤしおって」

「いや、ね。思ったことがあったんだよ。まあ水守副隊長が宣言した時から、少し思ってたんだけど確信に変わったってところかな……フフッ」

「……普通に不気味じゃぞ。いったい何があったんじゃ?」


「内緒にしておこうかな、ねえ瀧音君」

「なんでしょう?」

「僕はね、君に聞いてみたいことがあるんだ」

「聞いてみたいことですか?」

「ああ、そうさ。君が知る限りで構わない。一年生で三会に入会できそうな有望な生徒って誰だろうか?」


 はて、と思案する。その質問にはいくつも名前を出せる。

 実力だけならカトリナ、性格も含めていいんちょ、実力も狡猾さも併せ持つ結花。あの獣人族の子や、ベニート卿の妹もそうだ。

 

 しかしだ。

「注目してる人は、実は大勢いますが、その中でも一人すごいのが居ますよ」

 でも一番はどう考えてもアイツだ。

 

「紫苑さんもベニート卿も、この名前は覚えておいてください。ポテンシャルだけで見れば、モニカ会長並みです」

 三強である先輩、初代聖女にも負けていない。

「……お主以外に、そんな化け物がおるのか?」

「……とても気になるね」

 化け物扱いされてるのか、俺は。


「ええ、絶対に駆け上がってくるはずです。現在も多少目立ってはいますが、これからもっと声望を集めることでしょう」

「気になってしょうがないの……。いったい誰じゃ」

 彼の魔族討伐はツクヨミ学園新聞でも取り上げられたから、

「生徒会はもとより、式部会でも名前は聞いたことがあるはず」


 それは近接戦闘も、遠距離魔法も、覚えるスキルも、成長力も、すべてが優遇されたマジカル★エクスプローラーの主人公。

「聖伊織」



式部会ほんっと楽しそうだなぁ…。

ちなみに式部会はベニート卿、紫苑さん以外に二年生一人、三年生一人の二人います。

片方はすぐ出す予定ですけど、もう片方はいつでるか……。

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