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103 月宮殿②

2019/5/17 三回目



「私はあなたに興味がある。雪音がそこまで入れ込むあなたに」


 その言葉と同時に、ぞわり、と体に冷たいものが走る。

 まるで静電気があたりを埋め尽くしているかのようだった。あたりの空気が痛かった。それだけではない。まるでここだけ急激に気温が下がったように寒く、体が一度ぶるりと震えた。

 またあふれ出る魔力の影響か、彼女の周りが陽炎のように揺らめいており、そのせいか体がぶれて見えた。

 

 モニカ会長は腕を組み、鋭い目つきでこちらを睨む。

 

 それだけではなかった。

 

 それにかぶせるように紫苑さんから魔力と魔法がこちらに向けられていた。漆黒の煙が紫苑さんから発現し、彼女の周りをふわふわと漂っている。それはゆっくり足元へ流れ、やがてこちらへ向かってゆっくりと、ゆっくりと床を侵食するように伸びてくる。

 紫苑さんは目じりを下げながらこちらを見ていた。紫苑さんは好奇心からモニカ会長に乗ったのだろう。

 モニカ会長ほどではないにしろ、大きな魔力が俺に向かっていた。

 

 また、今度は反対側からも力を感じる。これは先輩のようだった。

 しかしその魔力は俺に向けられているものではない気がした。もしかしたら向けていたのかもしれない。だけど、なんとなく先輩の魔力は俺を包み込んで、守っているような、そんな気がした。

 そしてお前たちは何をやっているんだと、モニカ会長と紫苑さんに言っているような、そんな気もした。


 薙刀に手を添え、冷たい目で紫苑さんを見つめる先輩。

 するとこちらへゆっくり近づいていた黒煙は引っ込んだが、魔力はこちらに向けられたままだった。


 紫苑さんが自身の武器である扇子を開き、口元を隠す。彼女のことだ。あの扇子の下は満面の笑みに違いない。

 


「ふふっ、ふふふふふっ」

 そばに控えていた、ななみが笑う。

 皆の視線はななみに向かった。

 

「何がおかしいのかしら、ななみさん?」

 モニカ生徒会長がそういうと、ななみは笑ったまま答える。

「おかしすぎて、お腹がよじれそうでございます。この程度の魔力で威圧なんて、片腹痛いと申し上げましょう」


 そういってメイドらしくお辞儀カーテシーをすると俺を見つめる。

「そうですよね、ご主人様」


 まったく、お前は何をやってるんだ。


 俺に対しての期待を自身に集めたかと思いきや、その期待を増長させ、俺に戻して来やがったぜ。お前内心じゃ笑い転げてないか?

 だけど、俺はこういう燃える状況は嫌いじゃない。むしろよく煽ったと褒めようじゃないか。


 ななみにお膳立てしてもらったのだ、ここは決めなければならない。


「はぁ~」

 これ見よがしにため息をつき、肩をすくめる。

 そして自身に身体強化をかけて、ストールにこれ以上ないくらい魔力を込めて、いつでも殴り掛かれるようにして、わざとらしく片側の口角を上げてやった。


 さあ、モニカ会長が期待している以上の回答をしてやろうではないか。


 まだ魔力を送り続ける。まだ送り続ける。送り続ける。自身を抑えることなんてせず、体の中にある異常なまでの魔力をただただ込め込めて込めて。そしてそれでもなお余りある魔力を空気中へばらまいていく。この部屋を満たすつもりで。


 反応は様々だった。

 驚愕の表情を浮かべているフラン副会長。

 魔力を霧散させ、「ふふふ、はっはっはっはっは」なんて、高笑いをする紫苑さん。

 驚いてはいるがしっかり杖に手をかけ、いつでも行動を起こせそうなステフ隊長。

 笑顔ではあるがその視線は鋭く、身体強化を切らさないベニート卿。

 なんだか誇らしげな水守先輩。


 そして、悠然と立ちこちらを見据えるモニカ生徒会長。

 彼女は目を閉じ、小さく息を吐く。そしてゆっくり目を開けると魔力を霧散させ、こちらをじっと見つめてきた。

 それを見て俺も魔力を霧散させ、会長の言葉を待った。

 

「いいわね。あなた、本当に良いわ……!」

 

 会長は満面の笑みを浮かべ俺の前へ向かって歩いてくる。そして頭二つ分ぐらいまで俺のそばに来ると首を振って髪を払い、じっと見つめてきた。


 近くで見るとよくわかる。

 ファンクラブができて当然だ。美しい、あまりにも美しい。顔のパーツ一つ一つがすべて芸術品で、それらが最高の場所に配置されることによって、そのすべての要素が調和し何倍にも増して美しく見えた。


「瀧音幸助君。生徒会、どうかしら?」

 コクリと息をのむ。俺が何かを言う前に、右手側から声が聞こえた。

「モニカ会長、ここでの勧誘は無しだったはずじゃないかい?」

 そういうのはベニート卿だった。彼はこちらを向きながら、見事なイケメンスマイルを浮かべていた。俺と目が合うと、彼はウインクする。そして。


「ねえ瀧音君、式部会なんてどうだい? 申し訳ないけど君のことを少し調べさせてもらった。それでね、僕は君が自由を求めているように見えたんだ」

 まあ、自由にさせてもらえるのはうれしいですね、と返答をすると、ベニート卿は笑顔で頷く。

「確かに式部会の裏の役割を考えれば、周りの目は気になるかもしれない。でもね、式部会で君は自由に行動できるし、なにより今なら紫苑ちゃんが付いてくるんだよ!」


「ふはははは、ベニート卿よ、妾はおまけか! なに、こ奴が入るなら考えてやらんでもないな」

「おい、紫苑。冗談は置いておけ」

 珍しく先輩が眉根をひそめ、不機嫌そうにそういう。


「雪音、彼が大切なのはわかりましたから、落ち着きなさい。瀧音様。うちの雪音があなたに入ってもらいたいそうですわ……そして私も今ここで非常に興味を持ちました」

「ちょっと皆さん落ち着いてください。結局全会が勧誘しているように見受けられます。勧誘はなしで一発勝負と話していたではありませんか」

 フラン副会長がそういうと、皆はそれぞれ別の表情を浮かべながら口をつぐむ。


 

「そうね、ここまでにしましょうか」

 モニカ会長は踵を返し歩き出す。

「珍しいことです、三会すべてがこんなに欲するなんて」

 フラン副会長がそういっている間に、モニカ生徒会長は元居た場所へ戻る。そして皆に目配せをした。

 

「瀧音幸助。あなたに問いましょう」


 モニカ生徒会長がそういうと、各会の副会長が壁に描かれた紋章に手を触れる。

 それを見た聖女ステファーニアが口を開いた。 


「『正義』であり『模範』の風紀会」

 風紀会の紋章が光り輝き、水守先輩と聖女ステファーニアがその前に立つ。

 

「『模範』であり『目標』の生徒会」

 モニカ会長はそういうと、光り輝く生徒会の紋章の前に立つ。その横にはフラン副会長が。


「『目標』であり『宿敵』の式部会」

 ベニート卿はそういって、式部会の紋章の前に立つ紫苑さんの横へ並ぶ。


「どれを、選ぶ?」

 光る紋章を背景に、モニカ会長は俺に問いかけた。



「俺が入会したいのは……」

 聞かれるまでもなかった。そこに入ることを前提で行動してきた。

 だから、悩むまでもなかった。入るのは、もちろん……。


「式部会」


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