102 月宮殿
2019/5/17 2回目
今日も仕事だし外からチュンチュン聞こえるけれど構わねぇ、あと1回更新します。
ツクヨミ学園月宮殿は基本的に三会メンバーしか入ることのできない、特殊な場所である。一部フロアは許可を得た一般生徒も入ることはできる。しかしその月宮殿の奥にまで進むことができるのは、三会メンバーと一部の教師だけだ。
もちろん見たことも行ったこともない。ゲームでは何度も行く場所ではあったのだが。いきなり行けと言われても、迷わず行けるか怪しい。だからこそ案内を申し出てくれたのだろう。
「お待たせしました、先輩」
「いや、五分前じゃないか。私もつい先ほど来たところだ……それで」
先輩の視線はななみにいく。
当然の疑問である。だって俺ですら驚いたもの。
「絶対に参ります」
「らしいんですよ、しかも毬乃さんの許可を得てるっていう……」
俺がそういうと、ななみは胸の谷間に手を入れ学園の紋章の入ったカードを引き抜く。
……お前どうしてそこに入れていた? しかもとるときわざと俺に谷間見せつけたよな。アニメとかにあるお色気キャラのマネなんかしなくてもいいんだぞ? ただ、すごくエロくて最高だった。
「ははは……なら問題はないか。まあ私もいるし、大丈夫であろう。早速だが向かおうか」
苦笑する先輩の後をついて、俺とななみは転移魔法陣の中へ入った。
そこは小さな宮殿とでも呼べばいいだろうか。
白と青をベースとしたロココ調の建物に、美しい花々が咲き誇る庭があり、それの中心には噴水が置かれ、近くには白いテーブルと椅子が設置されている。
先に花邑家に来ていたおかげで、さほどの驚きはなかったものの、一般生徒が来たら圧倒されるに違いない。
先輩に促されるがまま、俺とななみは宮殿内に足を踏み入れた。きらびやかな装飾の施された廊下を歩きながら、小さく深呼吸する。そして両手を握っては開き握っては開き、少しでも体に入った余分な力を抜いていく。
少し歩いて、先輩は学園の紋章が描かれた大きなドアの前で止まった。
俺はもう一度深呼吸をしていると、ふいに肩をたたかれる。反射的に振り向くと、俺のほっぺたに小さな痛みが走った。
どうやらななみの指が俺のほほに食い込んでいるらしい。
「ふふん」
勝ち誇った笑みを浮かべるななみに、思わず苦笑する。
「瀧音」
ななみへ何かを言う前に、今度は先輩に呼ばれそちらを振り向く。
するとどうだろうか、頬に小さな痛みがあるではないか。どうやら先輩の指が俺のほっぺたに食いこんでいるらしい。
「先輩もですか……」
もう、笑うしかなかった。
正直に言えば少し緊張していた。この場所の雰囲気と、これから起こるであろうことを想像して。だから二人の行動は本当にありがたかった。
「すまない、ついやってしまった」
「しかたないですね、今回ばかりは許しましょう」
緊張をほぐしてもらったというのに、何たる言い草だろうか。
ははは、と先輩と二人で笑う。ななみは声こそ出していないが、誇らしげな笑顔を浮かべていた。
それからすこしして先輩は「行くか」と声をかけてきた。
俺が頷くと、先輩はドアを開ける。
部屋には、すでに主要メンバーがそろっているようだった。
正面には生徒会会長モニカ・メルツェーデス・フォン・メビウス、そして副会長のフランツィスカ・エッダ・フォン・グナイゼナウ。
左手側には風紀会隊長、聖女ステファーニア・スカリオーネ。
右手側には、式部会式部卿ベニート・エヴァンジェリスタ、そして式部大輔の姫宮紫苑。また彼女たちの背には生徒会、風紀会、式部会の紋章が描かれた壁がある。
彼女らは席に座ったまま、じっと俺を見つめる。
先輩がステフ聖女の横へ立つと、モニカ会長は立ち上がった。
「こんにちは、瀧音幸助君それと……」
「幸助ご主人様に忠実であり至高の美少女メイド、ななみです」
「……ななみさんね」
すっとななみはポケットから学園の紋章が描かれたカードを取り出す。それを見たベニート卿がひゅうと口笛を吹いた。
「なるほどね、さすが花邑家のメイドということか」
「申し上げますが、わたくしは花邑家に仕えておりません。私は瀧音幸助様に仕えるメイドです。花邑毬乃とかいうババアに対しての忠誠はありません」
胸からカードを取り出さなくてほっとしていたが、なんというか結構なことを口走ってないかな。
それを聞いたベニート卿や紫苑さんが声を上げて笑う。グナイゼナウ副会長は苦笑だ。会長や聖女は興味深そうに見ている。
「ほほ、面白い従者を連れておるのう、おぬし三会に興味はないか?」
「全くございません。ご主人様が居るところが私の居るところ。それだけでございます」
「なるほどのう、あいわかった。ならば瀧音幸助を引き込めば、おぬしも来るということじゃな。もともとほしかった人材がさらにほしい人材になってしもうたの」
ははは、と笑う紫苑さん。ゲームでもこの世界でも変わらず陽気な人だ。
「ななみのことはそれくらいにして話を進めませんか?」
先輩が会長に向かってそういうと会長は頷く。
「そうね。改めてこんにちは。初めましてでよいかしら。生徒会会長のモニカ・メルツェーデス・フォン・メビウスよ。モニカでいいわ」
会長がそういうと、隣に立つフランがくいっと眼鏡を上げる。
「副会長のフランツィスカ・エッダ・フォン・グナイゼナウです。フランで構いません」
「続いては私たちですわね」
俺が左に視線を向けると聖女と目があう。彼女は立ち上がりにっこり笑うと小さく礼をした。
「ごきげんよう、風紀会隊長のステファーニア・スカリオーネですわ」
「不要だろうが一応、水守雪音、副隊長だ」
先輩がそういうと、今度は右手側から声がする。
「次は僕の番だね。式部会で式部卿を務めているベニートさ、よろしくね瀧音君」
「ふふ、妾が式部会の式部大輔である姫宮紫苑じゃ」
「初めまして、瀧音幸助です、そしてななみです」
「ええ、よろしくね。さて、瀧音幸助君。あなたがこの場に来たということは、三会に入会する意思があるという解釈で間違いはないかしら?」
もちろんだと頷く。先輩からもらった手紙にもそれはしっかり書かれていた。入会する意思があるなら来いと。
生徒会長はそれを見て頷く。
「そう、良かったわ。あなたについて雪音から聞いていたの。三会の役割の説明は必要……かしら? もちろん学園内の風紀を守る風紀会だとか、学園祭や魔法大会なんかのイベントを計画実行する生徒会だとか、監査や不信任案を出す式部会だとか、表の役割ではない方よ」
「もちろん……不要です」
「そう、なら説明は省いて問うわ、風紀会も、式部会も、もちろん生徒会もあなたを欲している。いえ……はっきり言っておきましょう」
そういうといったん言葉を区切り、小さく息をつく。そしてまるで肉食獣が獲物を見るような鋭い目つきで俺を睨んだ。
「私はあなたに興味がある。雪音がそこまで入れ込むあなたに」