ある大学生達のクリスマス(ノンフィクション完全コメディー)
「じゃあ、プレゼント交換会しまーす!!」
「「「いぇーーーい!!!!」」」
田舎の小屋に集まった四人の大学生。
主催者は最初に勢いよく開幕の言葉を発した「トキ」だ。そこを上座として丸いテーブルを四人で囲んでいる。トキの右側から、「お猿」「おじさん」「お尻」と座っている。勿論全員本名ではなくあだ名だ。
宣誓されたプレゼント交換会。それは性なる…ゴホン。聖なるクリスマスの日に恋人がいない悲しい者達同士で行われる傷舐め会である。ちなみに全員当然のように非リア充。しかし当人達は寂しいなんて全く思っていないのだ。ほ、ほんとに思っていないのだ!!決してうらやましいなど!!うらやましい。
「じゃあまずプレゼントを買いに行きます!」
「「「了解」」」
普通、プレゼント交換会と言ったら各自が思い思いの品を持ち寄り、音楽に合わせてプレゼントを回し合い交換するというものだが、この集まりでは少し違う。集まったその日に同じ店(100均)に行き、誰が一番「役に立つものをプレゼント出来るか」ということを競い合う意味合いも持っている.
他愛ない会話をしながら店に向かう四人。田舎ということもあり、道中には肥料のどぎつい匂いをかましてくる畑があったり、クヌギの木が何本も生えていたり。冬であることにも関わらずそのクヌギの木を蹴り、カブトムシがいないか確かめる辺り非常に田舎である。とても平和的。ちなみに降ってきたのはミノムシであった。無念。
そうこうしながら歩いているうちに店に着いた。百均と言えばみんなお馴染みのダイ○ーだ。
「各自自分が選んだプレゼントが他の人に見えないようにね」
「だったらいっそのこと袋も一緒に買わない?そのままだと持って帰るとき不便だし」
「それは名案、ただし言った限り絶対持って帰れよ?」
「持って帰らない奴とかいるわけないでしょ、人様からのプレゼントよ?そんなことすれば人間性が問われるわ。」
小屋の持ち主「おじさん」の持って帰れよ忠告に真顔で答えたのは「トキ」だ。言う通りである。人から貰ったプレゼントを捨てるなんて言語道断だ。信用を損ねる事態を招きかねない。
「言ったからね? 絶対よ?」
「トキ前科あるからね、信用しちゃダメよ」
トキの全力の真顔にニヤニヤと企みの表情を浮かべるお尻。ちなみにお尻も前科持ちだ。人様からのプレゼントを易々と置き去りにしていく姿は最早悪魔ですら驚嘆のあまり失神するレベルであった。
そんなお尻とトキの視線による鍔迫り合いの間に入ったお猿が口を開く。お猿は普段は特に害はない……がしかし、時々とんでもないことをやらかしてくる人物だ。ちなみにおじさんも同様である。逆にトキとお尻は常に害しか為さないことで有名だ。
「じゃあ早速買いに行きますか」
「賛成、早く買わないと結局買わずに終わるとかわんちゃんあるし」
「おっけー」
おじさんの提案にお尻とお猿が快諾の意を示す。トキは未だに真顔を続けているが、口元がぷるぷる震えているところを見ると笑いを堪えているのが丸わかりだ。
「トキもう笑ってるし絶対何か企んでるわ」
「まぁ、まだわからないから」
「おじさんはトキに甘いんだよぉ、絶対やらかすってあの顔~」
「なるようになるって、いつもみたいに」
「「それもそうか」」
お猿とお尻の納得を以て事前相談は終了。ということで早速店内を巡り始めた四人……と思いきやトキが開幕ダッシュ。なるだけ人のプレゼントを見ないように気を遣ったんだろうね…とは勿論ならない。
「「「あいつ、やばい(確信)」」」
そう言ってその後を追いかける三人。だが、トキは店内だというのにも関わらず爆走し三人の視界から既に消えていた。
「「「これはやられた…」」」
こうなるとトキは止められないし止まらない。流石に三人も見えなくなったトキを探し出すほど空気が読めない訳ではない。トキがそういう行動に出るなら…と三人も互いに別々の方向に自分の求める「役に立つもの」を探しに旅に出ようとした……
――その時だった。
「「「「ちょ、待てや!!」」」
三人のドハマり声が店内に響く。声が向けられた先には―
大きなポリバケツとモップを携えたトキの姿があった。
既に買う商品を決めていたのであろうトキは開幕ダッシュと共に商品を掃除用具コーナーから奪取。そして秒で帰ってきたところを三人に目撃されたのだ。
「あん!?まだ買いに行ってなかったのかい!!」
「「「不穏な動き見せるからだわ!!!」」」
こうしてトキのポリバケツ及びモップは返却され、平和にプレゼント交換会買い出しが始まった。
「ふぅ…これだけで疲れるってもう歳だよね…」
「何言ってんのさおじさん、俺らまだ20歳にもなってないのよ?」
「そりゃあそうだけど…とか言いつつお猿もダイ○ーと小屋の往復だけで肩で息してるじゃん」
「これはあれだよ、あのー、ストレッチマンの息を大きく吸ってー!の真似」
「ごめんちょっと何言ってるのかわかんない」
世間話にもならないような訳の分からない会話をしながら無事(?)に買い出しを終え、小屋に戻ってきた四人。ついにあれが始まってしまう。歴史が変えられる瞬間だ。
「じゃあ、始めますか」
そう切り出したのは、他の三人は小包程度の大きさなのに対してキャリーバッグもかくやと言うほどの大きさの紙バッグを持っているトキだ。「まって、何を買った」と言う質問は勿論してはいけない。それがこの交換会のルールだからである。
「プレゼント交換っていったらあれでしょ。あのーキャンプファイヤとかでよく流れる…キュウリホモミックス?」
「いやそれはわざとでしょ」
「面白くない。オクラホマミキサーね」
「制限時間五分とかで曲に合わせて回してみる?」
てへっ☆間違えちゃった☆と可愛らしい笑顔を見せるお猿を総員スルー。着々と曲の準備がされ、タイマーアプリのダウンロードも完了された。
「どっちに回す?」
「適当でいいんじゃない?反時計?」
「じゃあそれで」
「じゃあ押すよ~、スタート!」
おじさんの携帯から心地よいピアノ音のオクラホマミキサーが鳴り響く。トキの携帯の五分タイマーも動き出した。
音楽のリズムに合わせてプレゼントを回し続ける四人。一つのプレゼントのみ次の人に回されるスピードが異様に早い。何も言わずともわかるだろう。奴のブツである。
「俺絶対トキの持って帰りたくないんだけど」
「ばかお猿。俺もおじさんも同じ気持ちだわ」
「家に置いて帰るのだけはほんと勘弁してね」
「俺のプレゼントをなんだと思ってるのよ。貰えなかったことを後悔しても遅いからね、覚悟しとけ」
「「「貰った奴は間違いなく後悔するやろなぁ…」」」
「まぁでも案外役に立つものが入ってるかも」
「おじさん、それは淡い期待だよ。トキのあの顔見てみなよ。口角つり上がってるから」
「お猿、それは誤解。これは表情筋の運動。最近の若いもんはそんなこともわからんとね」
「その返しはほんとに雑…」
「いやでもね、俺はやっぱりお尻のが一番怪しいと思うんだよね」
「待ってトキ、そうやって俺に矛先を向けてくるのはほんとに良くない」
「二人とも前科持ちだからね。まともなのは俺とおじさんだけよ」
「いや猿こそ怪しいわ~、こういうときかましてくるやん」
「そんなことはない。俺は至って真面目。今日の服装なんて見てよ。黒一色。これは真面目さの塊」
「その判断基準がもう既に頭おかしいから帰って良いよ」
「うそ!?おじさん寝返り!? 味方消えた!?」
「「「そもそも全員が敵」」」
「プレゼント交換とは……」
なんだかんだ言いながら体感時間で大体四分が経過。その時、お尻がこんなことを言い出し、プレゼントの回転が一旦ストップした。
「このタイマーってさ…五分経ったら音とかでるの?」
「でないはずはない…はず。」
「えーちょっと不安なんだけど。終わってましたってオチが一番最悪よね」
「それなぁ、でも普通にタイマーっていうほどだから出るんじゃない? 出ない可能性があるとすればトキの携帯自体がマナーモードになってるとか?」
「わんちゃん。ちょっと確認する。…いや、大丈夫。マナーモードにはなってない」
「おー、なら大丈夫やね」
「でも一旦時間確認してみたら? 不安要素残るとやっぱね」
「そうね、確認してみるわ」
そうしてトキが携帯を手に取った。
――思えば、お尻があんな発言をしたときから運命は決まっていたのかもしれない…
ピピピピピピピピ!!!
「「「「あっ」」」」
グッドタイミングで鳴ったその音が交換終了を告げた。
全員が自分の両手で抱えているものに目を落とす。一番最初に声を上げたのは――お尻だ。
「もーーーー!!!言わなきゃよかったーーー!!!!」
「「「くっ…はははは!!!はっはっはっっは!!!!」」」」
お尻の両手にずっしりとその重量感、そして存在感を示す「奴のブツ」。
それを見て愉悦に浸り、甲高い笑い声をあげるトキ、おじさん、お猿の三人。しばらく笑った後におじさんがこう切り出した。
「まあお尻のは大トリでしょ、誰から行く?」
「じゃあ俺から」
名乗りを上げたのはトキだ。首謀sy…主催者らしく先陣を切る。
「これだれのだっけ?」
「俺の」
「くっ…ぷっ…お尻のかよっ、ふっふ…くっ…」
「俺結構役に立つもの買ったのに…」
「俺の大袋が役に立たないみたいに決めつけるのはよくない」
「「確かに」」
「おじさんとお猿もうこの大袋と関係ないからって調子乗ってやがる…くっそぉ…」
「それじゃ、開けますか」
トキがお尻からのプレゼントを勢いよく開く。お尻のいう役に立つもの…それは…
「「「手巻きセットってなんなのっ…くっそ…こんなっ…のでっ…」」」
肩をぷるぷると震わせる三人。それに対してお尻が反論する。
「え~、結構良くない?ご丁寧にしゃもじまで付けられてるんだから。」
「「「知らねーよっ!!」」」
「えぇ~…」
「ハイ次々、誰が行く?」
「はい!」
「おじさんいくか!」
「おじさんが持ってるプレゼントって誰の?」
「はーい」
「お猿かぁ…これは信頼度50%…」
「いや安心して、超役に立つ」
「ほんとにぃ?そこまで言うなら開けるよ」
「いけいけ!」
そうして開けられた袋から出てきたのは…
「「「なんでっ…なんでクリスマスプレゼントに肥料なのよっ…」」」
再び三人が肩をぷるぷる震わせる。何故かあげた側のお猿が甲高く「はっはっはっっは!!ははははは!!!」と笑っているがこの際ご愛敬。
「じゃああとはお猿やね」
「くっ…ふっ…あぁ、俺か。…ぷっ」
「「いつまで笑ってんのよ」」
「ふう…。落ち着いた。んで、俺の貰ったプレゼントは…おじさんのか」
「That’s right」
「発音が綺麗。じゃああけまーす」
そういってお猿が若干食い気味に袋を開ける。手巻きセット、肥料と続き栄えある大トリ前に降臨するプレゼント…それは―
「「「は?」」」
立方体だった。それはもう見事な立方体。よく積み木とかで使うあの立方体。しかもサイコロにするには大きすぎ、何かの支えに使うには小さすぎる…微妙に何にも使えない綺麗な立方体である。
「「「くっそっ…っっ…くふふふっっぷっくっ…っはっはっは!!!」」」
とうとう腹筋が崩壊した。クリスマスプレゼントとは一体なんなのだろうか…手巻きセット、肥料、そして立方体。この三コンボあのボスが待ち受けている。その事実だけで笑うには十分だった。
「「「なんなん立方体ってっっ!!」」」
「全ての辺の長さが等しい直方体…」
「「「そうっ…そういうことじゃっっ…ないっっ…!!」」」
「いやまあまってよ、まだ一つ残ってるんだから」
「…ふう。それもそうね。ラスボスが控えてるからね」
「確かに。あのパンドラの箱を開けてみないとわからない」
「よし。お尻、いこう」
「あーもーあけたくねぇー」
「あ、まって。中身見ないようにしてだそう」
「トキが言うならそういうことなんやろね。それでいこう」
「えーー…わかった…。」
そう言って中身を見ないようにしてパンドラの箱へ手を入れるお尻。がさがさといくつもの袋が擦れ合う音がする。
「「「何個買ったのよ!」」」
「6個くらい」
「「「流石に森生えるから」」」
「まあ出してみればわかる」
「じゃあ一個目取り出します」
そう言って1個目を取り出すお尻。取り出されたものを勢いよく机に叩きつけた!そこにあったのは…!
「「「まって当たりじゃない!?」」」
柿の種であった。あのお菓子の柿の種。柿の種が当たりという時点でこの交換会の民度がわかるだろう。
「ほらな?言ったろ?人のことをそうやって疑うからこういうことになんのよ」
「まじか、なんか申し訳ない」
「いやほんとに」
「まさか真面目にやってくるとは」
「俺をなんだと思ってんのよ…」
「じゃあ二つ目いくか!これは未来が明るいわ」
油断。人の心には絶対に存在する感情。それによって建てられたフラグはいとも容易く回収されるということをお尻は知らなかった…
バンッ!!
再び勢いよく卓上に投げ出されたものは―
―植物活力液だった。
「「はっ??」」
「ぶっっ!!!!」
訳が分からんと言った表情のお尻とお猿。そして何故か吹き出すおじさん。おじさんは「そういうことか…っっ…!!」と笑い転げている。
数秒経っても分からないでいるお尻とお猿を見かねたのか、おじさんはいきなりこんなことを言い出した。
「桃栗っ…三年…っっ」
「「ぶっっっっ!!!」」
ということは残るものはあれしかない。腹を抱えながらお尻は残ったものを全て机にぶちまけた!!
『かる~い 観葉植物の土 3L』×4
「「「「くっっっっそっっっ…っっっっ!!…!っっ!!」」」」
全員が全員呼吸困難になりそうなほど笑い転げる。
「柿の種をっっ…! どうやっっ! …どうやって発芽させろとっっ!!」
「「「言うなっっっ」」」
そこには、数分笑い続ける四人の大学生が存在した。
ちなみに余談であるが、トキは勿論手巻きセットをおじさんの小屋に置いていったそうである。
読了頂きありがとうございます。作者も大笑いしながら書いた作品です。初の短編ということで拙い点たくさんあったかと思いますが、笑って頂けたのなら作者は嬉しい限りです。