ぽっちゃり3
恨めしげな父さまの視線を振り切りやって来た裏の林。
我が家は幾分小さいが土地は広く、裏の林は人手が入らず、かといって危険な魔物もいない。
薬草、雑草生え放題取り放題の3歳の私には丁度良い。
祖父母に頂いた作業着と小さなスコップとカバンを持ちサクサクすすむ。
今日の目標は基本的な薬草集めだ。
まずは、グリーンライフ・レッドライフ。
グリーンライフは、体力系回復薬大体に入っている薬草で、そこら辺に雑草みたいに生えている。
レッドライフは、グリーンライフの亜種で魔力回復薬に大体入っている。
この2種は、前世のシソにそっくりだった。
更にあったら嬉しいのは、ブルーバームとオレンジバーム。
グリーンやレッドが下級回復薬ならブルーとオレンジを混ぜたのは中級回復薬なるんだ。
色の名前の薬草は下級~上級までのベースになる。
だいたいは群生していて発見しやすいのだ。
あちこちで見つかるので、2・3個は株で、残りは葉っぱを少し採集した。
「こんなところかな~?」
意外にあっさり採集がすみ、辺りを見渡す。
一人納得して、地面に手を付きゆっくり魔力を流す。
「薬草、ありがとうございます。
また、お願いいたします!」
周りでチラホラ光る精霊にお礼を言いつつ、魔力で大地を活性化させると精霊がキラキラ私の周りを飛び始めた。
『愛し子、愛し子、ありがとう』
チートまではいかないが、希少な緑属性の私は生まれた頃から精霊が見えて、彼らに愛し子と呼ばれていた。
適正外の精霊も話す位には仲が良い。
曰く、精霊使いに向いているらしいが、過ぎた力はよくないし、精霊使いはかなり珍しい上に利用価値があるから国に囲われてしまう。
彼らを無理に使役するのは嫌だ。
国の言いなりになったら、彼らに何をさせるかわからない。
だから、私は精霊については誰にも言っていない。
時々一人になったら、彼らと遊ぶ位にしている。
『愛し子!愛し子!あのこを助けて!』
そこにいる精霊とほのぼのしていると奥から、焦った一人の精霊が飛んできた。
「ど、どうしたの?」
『この間加護をあげたこが、死んじゃう!』
精霊の焦り具合が伝染してメルフィリアも案内されるままに駆け出した。
方向は帰り道から僅かに横にそれていた。
たどり着いたそこにいたのは…
ぼろぼろになった、
「スライム?」
『そうだよ!
彼はスライム!
お願い助けて!』
精霊さん、なぜスライムに加護をあげたんです?
まぁ、精霊さんって気まぐれですしね。
とりあえず地面にボテっと落ちているズタボロなスライムさんを膝に抱えあげ、光属性の癒しを発動させた。
みるみるぼろぼろのスライムボディーが、プルンと艶々になった。
「これで、あとは目覚めるだけ」
『ありがとう!良かった!良かった!』
精霊さんは嬉しそうにくるくる飛び回った。
スライムさんが目覚めるまで暇なので、精霊さんに、スライムさんに加護をあげた経緯を聞くと、
『このこは、害虫を食べたり、草を食べても全部食べないし、肥料を出してくれるんだよ』
どうやら、このスライムさんはだいぶ環境に優しいスライムさんらしい。
他のスライムさんはそうじゃないみたい。
ぷ、ぷるぷる…
膝の上のスライムさんが目覚めたのかぷるぷる震え始めた。
『あ!起きた!』
「良かったね。精霊さんが私を呼んだんだわよ。
どこもおかしいとこは無い?」
『ぷ?ぷるぷる』
鳴き声もぷるぷるなんだね。
プルンと膝から降りると、触手を伸ばして精霊さんと遊び始めた。
「大丈夫そうだね。
それじゃあ精霊さん、私そろそろ帰るねぇ?」
足やお尻に付いた土を払い落として、荷物を持つと帰る方向に歩き出そうとした。
「あら??」
クンと引かれて見るとスライムさんの触手が服の裾を掴んでいた。
『ぷ、ぷぷぃ…』
『スライムが行かないで、だって!』
「で、でも、帰らないと…」
小さく震えるスライムさんに私も戸惑うと、精霊さんが閃いたようにヒラリと踊った。
『そうだ!テイムしたら良いよ!
そしたら、愛し子とずっと一緒だよ?』
『ぷぷゆ?』
「テイム?」
『うん。従魔契約。
このこ、万能スライムだからちょっと戦闘向きじゃないけど…』
万能スライム、というかただのスライムだけどね。
スライム種でも、弱いどこにでもいるスライムだ。
だけど…
下で精霊さんにテイムについて聞いているのか、ぷるぷるモニモニしている。
…かわいい。
少しグリーンがかったゼリーボディー。
ビーズのような円らな黒い目。
すごくかわいい。
意を決してしゃがむと、スライムさんを抱き上げた。
「私も戦いは苦手なの。
草花が好きなんだ。
私と一緒に来る?」
『ぷ、ぷぷぅ!!』
むちむちと柔らかいスライムボディーがピタリとくっついて、嬉しそうにぷるぷる震えた。
「私、メルフィリア。メルフィリア・ロード。
あなたは、フルゥ。フルゥね!」
『ぷぅ!』
名前をつけるとフルゥが光り、私の腕が熱くなった。
見ると蔦が腕に巻き付いた様な模様が出来ていた。
『うん。テイム出来たみたいだね。
テイムは魔従に認められて、名前をつけると出来るんだよ!
じゃぁ、フルゥにはもう少し加護をあげる!
ちょっと待ってね!』
精霊さんは嬉しそうに頷くとフェアリーリングを作り仲間を呼んだ。
フェアリーリングから出てきたのは、各属性の精霊王様だった。
「精霊王様!!」
『ふふふ。こんにちは、メル。
今日は精霊の頼みを聞いてくださってありがとうございます。
さて、そこのスライムでしたね?』
普段の力を抑えた下級精霊の様な小さな姿ではなく、正式な大人の人間サイズで現れた。
力そのもの、まして各属性のトップが現れた事に怯え震えるフルゥ。
精霊王様も気にせずフルゥに手を乗せた。
『ふむ。
知性はまだ幼いですが、優しい子ですね。
愛し子を好きだという、感情も強い…
…フルゥ、貴方は愛し子の為に命を捨てる覚悟はありますか?』
『ぷ、ぷぷぅ!!』
私は口を挟める雰囲気ではなく、精霊王様が怖くても必死に頷くフルゥに精霊王様も頷いた。
『分かりました。
では、フルゥに加護を与えましょう。
愛し子もフルゥと意思の疎通が出来るようにしてあげましょうね』
精霊王様が優しく笑うと、いくつもの光りがフルゥと私の中に入っていった。
『フルゥには、防御、治癒、空間、重力の加護を。
愛し子には従魔と意思疎通の術を。
フルゥ、愛し子を頼みましたよ?』
精霊王様はもう一度フルゥと私を撫でると、呼んだ精霊さんと一緒にフェアリーリングから帰っていった。
本当に精霊さんは自由だ。
「さて、フルゥ、私達も帰ろ?」
『うん!かえるー』
さっきまでぷるぷる聞こえていた鳴き声がちゃんと言葉に理解出来る。
聞こえる音はぷるぷるだけどね。
「ふふふ!帰ったらみんなを紹介するね!」
『しょうかいー!』
フルゥを抱っこしてお家に向かって歩き出した。