セクション04:浮気疑惑!?
「きゃっ!」
直後。
どん、と鈍い音がしたと思うと、急に唇の感触が消えた。
一瞬何が起きたのかツルギにはわからなかったが、気が付くと目の前にミミの姿はなかった。
「え?」
見ると、ミミはいつの間にか地面に倒れていた。
「な、何なのですかいきなり――?」
「またツルギが嫌がってるのに、キスしてる!」
ミミの問いに答えたのは、いつの間にか隣にいた少女。
先程まで図書室で居眠りしていたはずのパートナー、ストームだった。
「ストーム!」
「ツルギ、大丈夫だった?」
ツルギに対して、得意げにウインクして見せるストーム。
「と、とりあえず助かった……」
とはいえ、一体どうしてストームは自分がミミとここで話している事を知ったのだろうか。
その事を聞こうとした矢先。
「ツルギが本当にキスしたい相手は、あたしだけだもんね!」
「え――」
完全によける隙もなく、ツルギの唇はストームのそれによって再び塞がれた。
んー、というストームの声。
一瞬で終わったものの、ツルギの顔を熱するのには充分な威力があった。
「こ、こら! きゅ、急に、キスなんて――!」
「口直しだよ、口直し!」
つい文句を言ってしまうが、ストームは笑ってそう言うばかり。
「む――」
その笑顔には何も反論できない。
全く。これだから、ストームには敵わない――
「お、おのれ……っ! 私の前で堂々と……っ!」
と。
顔を戻すと、悔しがりながら立ち上がるミミの姿が。
「ストーム……! 私は今、ツルギと大事な話を――」
言いかけたミミであったが。
急に背後から何者かの手が伸び、一瞬で羽交い絞めにされてしまった。
「校舎の裏に呼び出すなんて、どう見ても密会以外の何物でもないですよ姫様……!」
背後から顔を覗かせる、茶髪の少女。
それは、ツルギも見知ったミミのパートナーであった。
「フィ、フィンガー!? なぜここに――!?」
「それはもちろん、後を付けていたからですよ……! 最近の姫様は妙に挙動不審でしたからねえ……!」
生徒会の書記、フィンガー。
ミミの事を過剰なまでに慕っている彼女がこの場にいた事に、ミミだけでなくツルギも驚いていた。
「ですが、立場は弁えてくださいね姫様! スルーズ家の血を、どこの馬の骨とも知らぬ輩に汚させてはなりません!」
「な、何を言うのです! 誰と恋しようと、私の勝手でしょう!」
羽交い絞めした状態のまま、口論を始めるミミとフィンガー。
「さあストーム、今の内にそいつを連れてって!」
「ウィルコ!」
フィンガーが催促すると、早速ストームが車いすのハンドルを握った。
「え、ちょっと待って――」
いきなり退場するのか、とツルギが戸惑っている間に、徒競走のごときスタートダッシュで、車いすが加速した。
ツルギの背中が一瞬めり込む。
「ちょ、待ちなさいストーム!」
「せ、生徒会の件はちゃんと考えておくからー!」
とりあえず手を振りながら、それだけ言っておく。
「姫様! あのジャップにはもう相手がいるのですからあきらめてください!」
「あ、あなたに言われる筋合いはありません! それを決めるのは私ですっ!」
ミミとフィンガーの口論は、次第に小さくなっていった。
* * *
「ははははは! そんな事があったのか!」
夜の食堂。
ツルギの向かい側に座っているバズが、話を聞いた途端大笑いした。
「そ、そんな事って、他人事みたいに――」
「羨ましいなあ、ストームって相手がいても未だモテモテだもんな! 姫さんと言い、カローネちゃんと言い……俺もそんな風に――」
かちゃん、と大げさに食器を置く音がバズの隣でした。
そこには、食事の手を止め冷たい視線をバズに向けている妹、ラームが。
「兄、さん……?」
「い――いや、何でもねえ」
ははははは、と苦笑いしてラームから目を逸らすバズ。
あまりにも兄妹のそれとは思えないやりとりだが、それもそもはず。
この2人には、元々血の繋がりがない。
そしてラームは、義理の兄たるバズに思いを寄せているのだ。
最近は、とある出来事がきっかけでラームは『罰ゲーム』という形で兄を恋人としてつき合わせている。そのせいで、バズはこれまでのような軽率な行動ができなくなってしまっている。
兄妹にしてこんな関係というのを見せられると、ツルギも苦笑するしかない。
「ねえツルギ」
と。
今度はツルギの隣に座るストームが聞いてきた。
「最近『ツルギは姫様と浮気してる』なんて噂聞いたんだけど――」
「え――!?」
予期せぬ話題に、ツルギは背筋に寒気を感じた。
そう言えば思い出した。
図書室前でカローネと話していた時、周りの生徒達が何か話していたのを。
――おかげで、私もすっかりツルギの『浮気相手』扱いなのですよ!
そして、そんなミミの言葉を。
いつの間に自分には、そんな噂が――?
「そんな訳ないよね?」
ストームは笑って続ける。
それが当然と思っているように。
「あ――当たり前じゃないか! ぼ、僕は浮気とか、そんな事疑われるような事断じてしてないぞ、うん、断じて!」
まさか疑われているのか、と思ったツルギは慌てて否定する。
「だよねー! ツルギがそんな事する訳ないもんね! ……でも、じゃあ姫様はどうしてツルギにあんなアタックしてばかりいるのかな?」
ストームは、そんな事まで聞いてくる。
恋人同士となってから、未だストームが嫉妬するような姿を見た事はないが、こうもストレートに聞かれると嫉妬しているのかと思って動揺してしまう。
「姫さんはな、ツルギが初めて告白された相手なんだよ」
と。
そこでバズの思わぬ横やりが入り、動揺はさらに増した。
一番知られたくない事であったが故に。
「ちょ、バズ――!」
「えっ、それって本当なの!?」
途端、ストームの青い目が見開かれた。
疑っている。少なくともツルギには、ストームの透き通った瞳がそう見えてしまった。
「え、いや、それは、その――」
目を泳がせる。
これは、どうやって打開すればいいのか。
どうすればいいかわからず、戸惑っている内に。
「その話、詳しく聞かせてくれないかしら?」
更に、その話に首を突っ込む者まで現れてしまった。
驚いて、テーブルの横に顔を向ける。
そこに仁王立ちしていたのは、あの時ミミを足止めしてくれたフィンガーであった。