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セクション02:相変わらずモテモテ

「ねえ、ツルギ様」

「何?」

「今思い出したんだけど、次のテストってどんな科目やるのー?」

 図書室の入り口前。

 カローネからの差し入れを受け取ったツルギは、そんな質問をされていた。

「確か、戦闘機科のテストには何種類か科目があるんでしょー?」

「ああ、そうだね。大雑把に分ければ『空対空戦闘』と『空対地攻撃』の2つだけど、中はもっと細かいんだ。『空対空戦闘』は単純な模擬空中戦をやる『対戦闘機戦闘』と、標的(ドローン)に向かって実弾を撃つ『空対空射撃』。『空対地攻撃』は地上の目標に爆弾を落とす『空対地射爆撃』と、海の上にいる船を攻撃する『対艦攻撃』。あとは目的地まで正確に航法して向かう『戦闘航法』なんてものもあるな」

「うわあー、大変そー」

 カローネが感心して聞いている一方、ツルギは妙に視線が集まっているような気がした。

 しかも、何やら喋っている。さすがに全部聞き取れないが、ツルギには自分の事を喋っているような気がしていた。

「で、次のテストでやるのはその中のどれなのー?」

「次のは、『空対空戦闘』『対艦攻撃』『戦闘航法』の3つだね。これを、複数のチームが共同でやるんだ」

「いっぺんに3つもー!?」

 カローネが声を裏返す。

「一度のフライトで戦闘と攻撃を両方行うのが当たり前の時代だから、そうじゃないとやっていけないよ」

「はー、ファイターパイロット候補生って、ほんとーにエリートなんだねー……大変そうだけど、カローネは応援するからね、ツルギ様の事!」

「そ、それはどうも……」

 応援と言われると、少し照れてしまう。

 彼女が自分の熱烈なファンであるという事は、つい最近知った事だ。それを知って最初は戸惑ったものの、彼女の言葉に照れてしまうようになったという事は、良識を弁えてくれている人であると気付けたからだろうか。

「おーい、カローネ! もう出発する時間だぜー!」

 ふと、長女アリスの声が聞こえてきた。

 見れば、アリスがベルタを連れて入り口から出てきていた所だった。

「あっ、もーこんな時間! じゃ、カローネ行くね! テスト終わったら、またお話聞かせてねー!」

 ふと腕時計を確認したカローネは、手短に挨拶すると軽く手を上げてから姉達の元へ向かっていった。

「どうだカローネ、差し入れは渡せたのか?」

「うん、ばっちりー!」

「……それにしても大胆になったわね、カローネも」

「え、ベルタ姉ちゃんそれどういう事ー?」

 三姉妹はそんな会話をしながら図書室を離れていく。

 その背中をしばし見送った後、ツルギはテスト勉強の続きをやるべく車いすを動かした。

「さて、僕も勉強に――」

「よう! 相変わらずモテモテだなあ、ツルギ!」

 と。

 突然、心臓を大きく高鳴らせる言葉が、聞き慣れた声で背後から耳に入ってきた。

 振り向くと、そこにはプロレスラーと見違えるほどの体格を持った、色黒の巨漢がいた。

「バ、バズ――!」

「本命がいるって言うのに、他の女子と楽しそうにトークだなんて羨ましい限りだぜ!」

 ばしん、と力強く肩を叩いてくる友人――バズは、今日もからかうつもりかそんな事をしれっと言ってくる。

「た、楽しそう――? さ、さっき僕は君が想像するような話はしてないからな? ただテストの話をしていただけだからな?」

「そうかあ? 禁断の関係っていうのはそういう軽い気持ちから始まるんだぜ?」

 意地が悪そうに、にやにや笑うバズ。

 これ以上彼の冗談について行ったら、彼の思う壺になるだけだ。

 そう思ったツルギは、勉強をダシにして逃げる事にした。

「あ、ああそう……今君のジョークに付き合ってる時間はないからな。今休憩終わって、これからテストに戻る所なんだからな。じゃ――」

「先程のをジョークとして片付けるのですか、ツルギ?」

 が。

 その思惑は、別の聞き慣れた声にあっさりと止められてしまった。

 驚いて振り返ると、バズの背後に見知った少女の姿があった。

 腰まで届くほどの長い金髪と整った顔立ちは、それだけで周りの空気を一転させる不思議な力があった。そして制服の上から纏う紫のケープは、彼女が高貴な生まれである証。

 少女の名は、フローラ・メイ・スルーズ。

 スルーズ王国の王女にして、ミミというTAC(タック)ネームを持つファイターパイロット候補生。

 彼女は閉じた扇子を手にした腕を組み、その宝石のような碧眼で不機嫌そうにツルギをにらんでいる。

「ミ、ミミ!? ど、どうしたの?」

「あーあ、姫さんご立腹だぜー?」

 ツルギは少女――ミミの態度に少し怯む一方で、バズが何かつぶやいている。

「バズに案内されて来てみれば、あんな事をしていたなんて――まあ、その話はいいです。ツルギ、少し話したい事があるので少しお時間をいただけませんか?」

「話したい事、って?」

「生徒会活動についてです」

「生徒会活動?」

 その単語に、ツルギは少し驚いた。

 彼女は生徒会の会長を務めている。なので生徒会の話が彼女の口から出る事自体は不自然な事ではない。

 だがその伝達事項なら、普通生徒評議会で伝えるはずだ。

 という事は、自分が何か聞き逃してしまった事でもあったのだろうか。

 曲がりなりにもクラスの委員長である身として、それがあったら大変な事になりかねない。

「……わかった、行くよ」

「では行きましょうツルギ」

 ミミは相変わらず不機嫌そうな表情のまま、さりげなくツルギの背後に回り、無言で車いすのハンドルを握った。

 ツルギは少し戸惑ったが、ミミに車いすを押された経験はない訳ではないので、そのまま彼女に任せて移動してもらう事にした。

「バズ、案内ありがとうございました」

「いやいや、いいって事さ。困った事があったら、いつでも申し出てくれよ。姫さんのためなら、俺は姫さんの部屋にだって――」

「それだけはお断りします」

 バズとそんなやり取りをして、車いすを押していくミミ。

 図書室が遠ざかっていく中で。

「はあ、俺もあんな風になれたらなあ――」

「兄さんっ!」

「げっ、シルヴィ!?」

「私の見ていない所でまたナンパですか!? 罰ゲームの事、忘れたんですかっ!?」

「いや、違うって! 俺はただ姫さんを案内してあげただけで断じて――!」

「兄さんにとってはそれがナンパなんでしょう!?」

「いや、だから違うって!」

 残されたバズは、いつの間にかやって来ていたラームに怒り心頭の質問攻めに遭っていた。

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