セクション11:負けた理由
「夢が、ない……?」
「夢は不満足からしか生まれません。発展は不満足なくしては成立しません。だからこそ夢には、現状を打破する力があるのです。現状に満足している人間の力など、たかが知れているのですよ。そう、今のあなたのように」
「今の僕は、たかが知れている……!?」
ロックの目が見開かれる。
「そもそも、運命なんてものはまやかしです。未来は、他の誰でもなく自分自身の手で作っていくものなのです。それがいいものであれ、悪いものであれ、ね。先程あなたは『適性』という言葉を使っていましたが、その適性だって、その気になれば後でいくらでも作れるものなんですよ。彼女は、それをまさに証明してみせた。対してあなたは、運命という言葉に酔うあまり、それを言い逃れにして精進する事を怠った。果たして本当に強いのはどちらでしょうね?」
「そ、それは――」
「例えば、ここにダイヤモンドの原石があるとしましょうか。そのままでもそれなりに輝きはしますが、より美しく輝く宝石になるには、相応に磨かなければなりません。そうして初めて、誰もが憧れる『貴石の王様』になるんですよ。なのにあなたは磨かないまま、ただダイヤモンドだというだけで満足してしまっている。本当にもったいないです。私の価値観からすれば――中途半端なんですよ、あなたは」
「……!」
その言葉で、とうとうロックは黙り込んでしまった。
彼の顔が、ゆっくりと力を失うようにうつむけられていく。
「わかりましたか。あなたは誰かが敷いたレールの上を何も考えずに進んでいるだけです。そのままでは、いずれあなたの思う通りの所に行けず行き詰まってしまうでしょう。この敗北は、きっとその警告です。変な所へ迷い込みたくなければ、今の内に行き先をちゃんと決めておきなさい」
最後にそう言って、フェザーはロックの前から去っていく。
直後、ロックの体はビクセンの肩から滑り落ちるように崩れ落ち、力なく膝をついた。
「シ、シーザー様!?」
がっくりと肩を落とすロックを見て、動揺するビクセン。
「そんな……僕が……中途半端、なんて……!」
ロックの声が震え始める。
王子としての凛とした姿は、既に崩れ始めていた。
「嘘だ……嘘だ……こんなの嘘だあああああっ!」
そして遂に、自ら顔をコンクリート舗装に伏せて泣き叫び始めた。
周囲の人目など、一切構わずに。
それだけ、彼の衝撃は大きかったのだろう。
ミミ達は、そんな彼の姿を黙って見守るしかない。
「……シーザー様」
そんな中、彼にそっと声をかけたのはビクセンだった。
「顔、上げて」
そっと背を撫でた彼女の声に応えるように、ロックはゆっくりと顔を上げた。
「済まない、リューリ……王子ともあろう僕が、なんて無様な――」
涙を流しながら、情けない言葉を口するロック。
だがそれを言い終わる前に、彼の口は塞がれた。
不意に近づいた、ビクセンの唇によって。
「大丈夫や。シーザー様には、ウチがいるから」
唇を離したビクセンは、ロックの頬をそっと撫でながら慰める。
「リュー、リ……?」
「ウチはシーザー様の事、全然失望しとらんよ。今日の負けは、ウチが油断しとったせいもあるから、シーザー様のせいだなんて全然思ってへん。悔しいのは、ウチも同じや」
「でも、僕は――」
「だから、教官はんが言うてた通りに、努力して強くなろう? ウチはどんな事があってもシーザー様の味方や、いつでもいっぱい力になるで」
笑みを見せるビクセン。
それを見たロックも、ようやく表情が緩み始めた。
「まさか、君に慰められるなんてな……」
「何言うとるんや。男の子を励ますのは、女の子の大事な仕事やで?」
そう言って、優しくロックを抱き締めるビクセン。
ロックは僅かに目を見開いたが。
「……ありがとう」
すぐに目を閉じて、彼女の背中に手を回す。
ミミも含む周囲が戸惑っているのも、まるで気にしない抱擁。
それを数秒間続けた後、ロックはビクセンから離れ、ゆっくりと立ち上がった。
疲弊しきっているはずの、自らの足で。
そして、腕で拭いた目で姉をにらみつけ、指差しながら言い放つ。
「フローラ、今日の所は負けを認めてやる。だが、次はこうは行かないからな。覚えておけよ!」
その捨て台詞には、普段通りの力が戻っていた。
そして、自らの足で歩き出す。隣を行くビクセンと共に。
「見せびらかしてくれるじゃないですか……」
その背中を見送るミミは、どこか不満そうにつぶやいた。
こうして、王子と王女が競う戦技テストは終わりを告げた。
だが、2人の王位継承を巡る戦いは、まだこれからも続くだろう――
ラストフライト:終




