セクション05:敵が来ない?
『こちらピース・アイ。間もなく戦闘空域に到達します。皆さん、準備してください!』
ピース・アイが、本番の時が迫っている事を告げた。
今の内に、武装を再確認。
本試の時と同じ、対艦ミサイル・ハープーンが主翼下に2発。どちらも異常なし。
『こちらアルタイル。成果確認の準備は既にできている。いつでも攻撃してよいぞ』
本試に続き成果確認を担当するアンネリーゼも、既に準備を整えているようだ。
『今度もまた1機足りぬようだが、大丈夫なのかね?』
だが、そんな彼女の余計な一言で、場の空気が一瞬冷たくなった。
アイスチームは今回も、ミミという重鎮を欠いている。
もしミミが空中給油に失敗すれば、アイスチームの4機が戦技テストで揃う事は、遂に叶わなくなってしまう。
だが。
『アイス3よりアルタイルへ。心配はいらない。訳あって後から合流する』
ミステールが、堂々と答えた。ミミは後で追いつくと。
『……そうか、ならよいが』
『何だよ、その「来なかったらどうするのかね?」って言いたそうな物言いは! アンネリーゼちゃんも冷たすぎだぜ!』
アンネリーゼの返答に、バズが不満そうに反論する。
『ならば、ただ成果で示すのみだね。ではみんな、ここにいない姫のためにも気を引き締めて行こう』
それでも、ミステールは冷静だった。
彼女もまた、信じているのだろう。ミミはあの空中給油を必ず成功させて追いついて来ると。
「そうですね」
ツルギも同感する。
彼女の事を信じるのなら、ここで不安に駆られている場合ではない。
自分が信じた通りに、今行動するまでだ。
『戦闘空域に到達しました。皆さん、作戦開始です! がんばってくださいね!』
そして、ピース・アイがいつも通りの声で作戦開始を告げた。
その合図で、アイスチームが素早く散開する。
『アイス4、ミュージックオン』
一番遠くへ離れたチーター機がケイモン電子戦ポッドによる電波妨害を開始。
残りの2機は、ブラストチームを守る態勢になる。
この援護を受けつつ、ブラストチームは対艦ミサイルの発射ポイントへと向かう。
無論、このまま素直に発射ポイントまで通してくれる気など相手にない。
なぜなら――
「それにしても、今日来る仮想敵機って誰なのかな?」
ふとストームが、そんな疑問を口にした。
『さあ、フロスティ教官かな?』
ラームは、自信がなさそうに推測する。
フェザーがなぜ今日の仮想敵役が誰なのかを隠しているのかはわからない。
なら彼女が言ったように、誰が来てもいいよう心して、ツルギはレーダー画面をにらむ。
画面には、未だ敵影は映っていない。
『あいつもあいつで嫌な相手だけどな……あのタイガーシャークって奴?』
バズがお喋りに加わっている間も、敵は画面上に姿を見せない。
おかしい。
手筈通りなら、もう迎撃に現れてもいいはずだ。
「ピース・アイ。そっちで敵影らしき機体は確認していないか?」
『え? はい、こちらでも何も捉えていませんが……?』
念のためピース・アイに確認を取るが、やはりそう帰ってきた。
ウェッジテイルのレーダーとは、既にデータリンクで繋がっている。向こう側で不審な機影を探知すれば、こちらにも情報が伝わる。
つまり今は、本当に敵がいないという事になる。
『ははっ、まさか脅かしておいて敵はなしか? だったら幸運だな。機体に不調でも出て飛べなくなったんじゃねえのか?』
『兄さん、油断しちゃダメですよ!』
早くも力を抜き始めるバズを注意するラーム。
本当に、敵は来ないのだろうか。
何か、嫌な予感がする。
罠か、それとも――
『あっ! よく見たらこれ、マリタイムモードじゃない!』
と。
ピース・アイが、衝撃的な事実を口にした。
「えっ!?」
『やだ、すみません! すぐ切り替えます!』
彼女の致命的なミスに、誰もが驚いた。
レーダーには、探知する目標に合わせていくつかのモードがある。
その中でマリタイムモードは、海上にいる艦船を探知するためのモードだ。
その間は、空にいる飛行機を探知できない。
つまり、自分達は今までずっと、無防備な姿を晒していた事になる――
『――あっ、いけない!』
ピース・アイが何かに気付いた直後、警告音が鳴り響いた。
ロックオン警報。敵は既にこちらを捉えている。
「ロックオンされてる!? どこ!?」
ストームが、慌てて周囲を見回す。
ツルギはすぐに、ディスプレイの表示を切り替える。
電子戦画面で、自身を捉えているレーダーがどこにあるのかを表示。
すると、その反応は自機とほぼ重なっていた。
「まさか――」
ツルギは空を見上げる。
眩しく地上を照らす太陽。
その中に、1機の戦闘機の機影が――
『花火の中に突っ込むでぇ! うぉああああああああっ!』
聞き覚えのある声と共に、急降下してくる。
「全機ブレイク!」
とっさに、ツルギは叫んだ。
全機が、編隊を解いて散開。
その間を、敵機は一瞬で通り抜けて行った。
「みんな無事か!?」
『こちらブラスト2、大丈夫』
ツルギの呼びかけに、ラームが答えた。
『アイス3、チェック!』
『2!』
『4!』
ミステールも点呼をかけて、アイスチーム全機の無事を確認した。
「ねえ、今の声、もしかして――」
ストームが、そんな事をつぶやく。
そしてツルギは、見下ろして先程の機影を確認する。
急降下した勢いを利用し、ジェットコースターのように急上昇して再び向かってきているのが見えた。
「間違いない、あれは――!」
そのシルエットは、ヘルヴォル社の仮想敵機ではない。
ましてや、超音速機でもない。
本試でも姿を現し、自分達を救ってくれたかつての友軍――
「シーハリアーだ!」
ツルギは初めて、今回の敵がスルーズ海軍である事を認識した。
そして、目の前の機体に乗っているのは。
『いっちょ勝負や! エイミィィィィィィィッ!』
海軍分校の候補生、ビクセンその人だという事も。




