セクション03:緊張
駐機場に並んだミラージュ達に接続された、外部電源が動き始める。
エンジン始動の準備が整った機体へ、一同は次々と乗り込んでいく。
もちろんツルギも、ストームに抱えられてイーグルの後席へ座る。
だが、その前に。
「ストーム」
「ん?」
「今日はボランティアだけど、頼むな」
「……もちろんっ!」
久しぶりに、発進前のキスをそっと交わす。
ほんの僅かの間唇を重ね合わせただけであったが、それでもツルギにとっては充分なもの。
こうすると改めて、ストームと一緒に飛ぶ事を実感できる。
互いに顔を合わせて笑みながら、そんな事を思ってしまうツルギ。
「うーん、いいわねえ青春って……いや、2人のはもう青春の域を超えちゃってるか」
そして、ゼノビアが見ていた事に気付き、一気に顔中を熱くしてしまうのであった。
駐機場にタービン音が響き始めた。
外部電源からの電力を受けエンジンを始動したミラージュから、電源コードが整備士の手で外される。
『姫にチーター。わかっていると思うけど、これで失敗したらもうミラージュには乗れなくなるからね』
『ううっ、プレッシャーをかけないでくださいよ……』
コックピットに座るミミは、どこか緊張気味だ。
ミステールの忠告を聞いただけで、機体チェックの手が止まってしまっている。
『大丈夫です! 姫様は私が必ず合格させますから、どうか大船に乗った気分で!』
『そのプレッシャーをかけた人は、誰だと思ってるんですか……』
そんなミミとフィンガーのやり取りには、思わず苦笑してしまう。
ミミがこういう大舞台で緊張した様子を見たのが、久々だったからかもしれない。
『姫さん、随分テンパってるみてえだな。大丈夫なのか?』
『まあ、私達は私達でサポートしていくしかありません』
話を聞いていたバズが、そんなやり取りをしている。
その間に、滑走路への移動許可が出た。
「ツルギ、移動許可出たよ!」
ストームが、くるりと振り向いて報告する。
「よし、それじゃあ行こう」
「その前に、アレやってよ久々に!」
「アレ……? そうか、アレか」
ストームの提案を受けて、ツルギははたと思い出した。
そういえば、ミミの一件でギクシャクしていた時から、全然やっていなかったと。
「ストーム、ユー・ハブ・コントロール」
久々に、口にする言葉。
「アイ・ハブ・コントロール!」
それを受けて、ストームが元気よく答える。
2人を空へと繋ぐ合言葉。
『さあ我が娘・息子達よ、思いっきり飛んでおいで!』
「それじゃブラスト1、行ってきまーす!」
ゼノビアのハンドシグナルを送ると、エンジンが唸りを上げ、ウィ・ハブ・コントロール号ゆっくりと移動を始めた。
右に曲がって滑走路へと向かう時に、敬礼したゼノビアにツルギも敬礼で答える。
バズ・ラーム機も後に続いて滑走路へと向かう。
次は、アイスチームの番だ。
『ア――アイス1、離陸に向きゃいます、あ』
だが、緊張からか口がうまく回らず、言葉を噛んでしまうミミ。
それに気付いて、あたふたと
『しっかりするんだ、姫。こういう時こそ落ち着こう』
『そうっすよね! 弱音を吐いちゃダメだ! 全力でやるっす!』
『ええ! スルーズ家に栄光があらん事を!』
『う、うう……改めてアイス1、離陸に向かいます』
とっさにメンバー達にフォローを入れられたミミは、恥ずかしさからか顔をうつむけたまま機体を動かし始めた。
さすがにツルギも、大丈夫なのかと不安になってくる。
バズがこっそりと笑っていた事については、言わないでおこうと決めたのだった。
そして、4機のミラージュと2機のイーグルは滑走路から離陸していく。
勇ましくアフターバーナーの炎を伸ばしながら、1機ずつ滑走して。
だがそれに反して、ミミは緊張のせいか号令に覇気がなく、普段の落ち着きを失っていた。
そんなミミをよそに、ストームは相変わらず元気に声を上げながらウィ・ハブ・コントロール号を力強く離陸させたのだった。
「かなり緊張しちゃってたけど、さてどうなるのかしらね……そのままじゃ、最大のライバルに勝てないわよ?」
そんな6機の軌跡を見送りながら、フェザーはそんな事をつぶやいていた。
* * *
離陸して間もなく、最初にして最大の難関が立ちはだかる。
上空を周回するボイジャーからの、空中給油である。
既にウィ・ハブ・コントロール号は給油を終え、ブームの下へと向かったバズ・ラーム機が、ブーマーのユーリアが操作するブームとしっかりと接続されたのを見届ける。
『ふう、接続成功です。ところで皆さん、今朝のテレビ見ました? あのシーザー王子に熱愛発覚ってニュース――』
「いや、今その話は止めた方がいい、ユーリア」
ユーリアが切り出した話題を、すぐに止めるツルギ。
アイスチームも、既に空中給油を始めている。
だが、ミミの機体だけが、一行に給油の位置に着く気配がないのだ。
既に右翼のチーター機は接続を成功させ、左翼のミステール機は給油を終えて離脱していく。
『姫、次どうぞ』
『い、いえ――フィンガー、先に行ってください』
『え? でもここは姫様が――』
『い、いいですから! これは命令です!』
『……りょ、了解』
結局フィンガーに道を譲り、まだ給油に入らない。
だがその直後、チーター機がホースを切り離し、右翼から離れ始めた。
『姫様! 今開いたっすよ!』
『え!?』
途端、動揺の声を上げるミミ。
そのまま沈黙。
自分の番が回ってきたにも関わらず、ミミ機は給油の位置につこうとしない。ただ、右翼から伸びるホースをにらむだけで。
『お、落ち着くのです、フローラ……い、一度、できたじゃないですか……』
挙句、そんな事をつぶやき始めている。
さすがに見ていられなくなったツルギは、声をかけた。
「ミミ、大丈夫か?」
「この間と同じ感覚でやればいいんだよ! もしかして、忘れちゃった?」
ストームも、それに続く。
だが、ミミは。
『……ダ、ダメなんです……! 何だか、後がないって思うと怖くて……手が、手が震えて止まらない――!』
助けを求めるように、涙ぐむ声を上げる。
ミミ機の主翼の舵は、僅かに振動していた。




