セクション02:王女の誇り
フィンガーは、先日「生徒会と姫様のウィングマンを辞める」と宣言して以来、ミミの前に姿を見せていないのだという。しかもミミが電話をしてみても、繋がらないという徹底ぶり。
ミミを騙したせいで事件が起きてしまったのが、余程ショックだったのか。
追試までまだ時間があるので、ツルギ達は早速探してみる事にした。
最初は部屋にいるのかと思い調べてみたが、既に留守だった。
そこで、バズ・ラーム兄妹と別れ、手分けして探してみる事にした。
何度か聞き込みをした後、ツルギ達が辿り着いた場所は――
「ゼノビアさんが言うには、この広場に行くのを見たって言うけど――」
ストームに車いすを押されながら、ツルギは広場を見回す。
今日は追試のない生徒にとってはほぼ休日だからか、歩いたり会話をしたりしている生徒の姿がちらほらと見受けられる。
そんな中――木陰にあるベンチに、フィンガーの姿があった。
「いた!」
真っ先に見つけたのはミミ。
すぐさま駆け出した彼女の後を、ツルギとストームが追う。
「フィンガー! 探しましたよ!」
ミミの声が、うつむき気味で座っていたフィンガーに届いた。
目の前にやってきたミミと目が合い、どこか気まずそうな表情を浮かべるフィンガー。
「ひ、姫様……」
「もう追試の時間ですよ! すぐに戻りましょう!」
「……何言ってるんですか。私はもう、姫様のウィングマンじゃないんですよ」
目を逸らして、フィンガーは言う。
自分はもうよそ者だから、関係ないと。
「姫様にウソを吹き込んで騙そうとする信用ならない人となんて、一緒に飛びたくもないでしょう? だからいいんです。ウィングマンには、もっといい人を選んでください」
言いたい事はそれで全てなのか、再び顔をうつむける。
沈黙が、2人の間を支配する。
ストームもツルギも、それに干渉するつもりはない。
緩やかに風が吹き、ミミの金髪を揺らす。
直後、ようやくミミが口を開いた。
「……そう。ですが、それで本当に償いになると思っているのですか?」
「え?」
フィンガーが、驚いて顔を上げる。
「私から見れば、辞める事で罪から逃れようとしているようにも見えますが?」
「そ、そんな事はありません! 私は、辞める事で反省の意志を――」
「本当に反省したいのなら、働きで償おうとは思わないのですか?」
「働いて、償う……?」
ミミはこほん、と軽く咳払いをしてから、腕を組み凛とした表情で告げた。
「生徒会会長として命令します。フィンガー、生徒会もアイス2のポジションも、勝手に辞める事は認めません。ただちに復帰しなさい」
正面からそう言われ、フィンガーは怯み、戸惑い始めた。
目を逸らしながら、抵抗を続ける。
「で、ですが、こんな、姫様を裏切るような人を、信用できるんですか――?」
「そうですね。あなたはいつも過剰な行動ばかりして、私を何度も困らせていましたね。そこは認めます」
「な、なら――」
「ですが、あなたの事を『信用ならない人』なんて一言も言った覚えはありませんよ?」
「え――」
フィンガーの見開かれた目が、ミミに向けられる。
するとミミは組んでいた腕を解き、
「信用しているからこそ、勝手に辞めてもらっては困るのです」
穏やかな笑みを見せながら、手を差し伸べた。
途端、言葉を失うフィンガー。
その手が、ゆっくりとミミの手に伸びる。
ミミはその手をしっかりと取り、フィンガーを立ち上がらせた瞬間。
「ひ――姫様ああああああっ!」
フィンガーは声を上げて、ミミに思いきり抱き着いた。
「やりますやりますがんばりますっ! 精一杯働いて償わせてもらいますっ! このフィンガー、この恩をずっと忘れませんっ!」
予期せぬ行動に、ミミは僅かに戸惑っていたが、
「……ええ、期待していますよ」
自らも、そっとフィンガーの背中を抱き締めた。
それを見守っていたストームとツルギは、静かに顔を見合わせた。
よかったね、と。
* * *
そして、遂に追試の時間が来た。
太陽が照らす駐機場の下、ミミが乗る事になる専用のミラージュの前に参加者が集結した。
ブラストチームの、ツルギ、ストーム、バズ、ラーム。
アイスチームの、ミミ、フィンガー、ミステール、チーター。
フライトスーツを身に着け、ヘルメットを抱えた8人全員が、フェザー教官の指示に耳を傾けている。
「それでは、追試の内容を説明するわね――とは言っても、内容は本試と全く同じなんだけれどね。欠員もなし、天気も問題なし。しっかり全力を出せそうなコンディションね」
相変わらず緩い口調で説明をするフェザーに、うなずいたのはミステールだった。
「ええ。今度こそ全員で今生徒会最後のフライトができますね」
本試では全員揃ったフライトが実現できなかったミステールは、今回の追試をかなり意気込んでいるようだ。
「そういう意味でも、リベンジマッチっすね!」
「ああ。悔いのないように飛ぼう」
同調したチーターに、うなずくミステール。
「変わっている事と言えば、仮想敵役ね」
だが、フェザーが続けた言葉に、一同は少し驚いた。
「え、今回はフェザー教官が務めるんじゃないんですか?」
ツルギが代表して問う。
「残念ながら、ね。代わりに『スペシャルゲスト』にやらせるから、楽しみにしておいて」
「スペシャルゲスト……?」
フェザーの言葉に首を傾げるツルギ。
スペシャルゲストという事は、教官ではないという事だろうか。
「そういう訳で、どんな相手が来てもいいように備えておく事。私からは以上!」
しかし、結局『スペシャルゲスト』について説明がないまま、フェザーは話を切り上げ一同から下がってしまった。
「……そういう訳です、皆さん。私のために、とは言いません。気を引き締めて行きましょう」
代わりに、ミミが進行を引き継ぐ。
本試の時と違い、今回はちゃんとチームを引っ張るつもりのようだ。
「了解だ!」
「了解」
バズとラームが、揃って返事をする。
「で、何か質問は?」
ミミが問いかけると、チーターの鋭い視線がフィンガーに向けられた。
「フィンガー。あんたがどう反省したのか、しっかり見させてもらうからね」
そう告げるチーターの視線は冷たい。
あの時絶交だと言って以来、まだ関係は冷え切ったままのようだ。
「わかってる! そういう訳で皆さん、今回は即興ですが作戦名を考えてきました!」
するとフィンガーは、気合を入れた声でそんな事を告げた。
「さ、作戦名……?」
ミミが目を白黒させる。
「へえ、面白そう! 何それ?」
逆にストームは、興味深そうに尋ねる。
「はい。少しでも、これで気を引き締められたらって思いまして」
「ほう。で、その作戦名は?」
「はい、『王女の誇り』です!」
ミステールの問いに対し、フィンガーはぐっと両手で拳を作り、力強く告げた。
それを聞いた一同の反応はさまざま。
「フィ、フィンガー、それはちょっと大げさでは――」
「大げさじゃありませんよ! これは姫様のための追試なんですから! 姫様のプライドがかかっているんですよ!」
「一応アタイも落ちたんだけどな……」
戸惑うミミに力説するフィンガー、不満そうに口を挟むチーター。
「へえ、オペレーション・プライド・オブ・プリンセス……かっこいいじゃない!」
「確かにそうだが、ちょっと長くねえか?」
「じゃあ、POPって略する?」
「ピーオーピーって――まあ、『ポップ』て読んだら拍子抜けするか」
そして、2人で勝手に議論を進めるストームとバズ。
「ミ、ミステール! あなたも何か言ってくださいな!」
困り果てたミミが、ミステールに助け船を求める。
「私は悪くないと思うね」
だがミステールは、納得したようにうなずいている。
「僕も、こういうのはいいと思うけどな……」
ツルギも同調する。
ミミが言うほど大げさとは思わないし、これなら気を引き締められると思ったのだ。
「ツ、ツルギまで……!」
「賛成過半数、決まりだね。いい加減、腹をくくったらどうだい、姫?」
「う……」
とうとう観念したミミは、こほんと咳払いを1つして、告げた。
「……わかりました。では、始めましょう。オペレーション・POPを!」
恥ずかしさで少し頬を赤らめつつも、ミミは普段通りの声で一同へ告げた。
おーっ、と真っ先に声を上げ、右腕を突き上げたストームに、ツルギも釣られて右腕を突き上げていた。




