インフライト3
スルーズ空軍航空学園海軍分校は、海軍航空隊唯一の航空基地、セネットにある。
海軍基地らしく沿岸部にあるこの基地のゲートから、2人の少年少女が姿を現した。
金髪の少年はロック、水色の髪の少女はビクセンである。
今はちょうど昼時。
他の多くの生徒達と同じように、2人もまた昼食に向かおうとしているのだ。
「今日は期末テスト突破祝いにピザを食べに行くぞ、ビクセン」
「え、ほんまに!?」
ピザ、という単語を聞いて、ビクセンが目を輝かせる。
ロックは、そんなビクセンに微笑んで続ける。
「ああ。僕が奢るから、遠慮せずビクセンの好きなものを頼んでいいぞ」
「お、奢り……お、おーきにシーザー様! 遠慮なくごちそうになりまひょっ!」
まるで子供のようにはしゃぐビクセンを連れて、通りへと出て行くロック。
「あーあ、王子またあの女とおでかけか……」
「仕方ないわよ、王子の『お気に入り』だもの」
「くーっ、なんであんな女なんかがお気に入りなの……っ!」
そんな2人を、ゲートの裏から複数の女子生徒が悔しそうに見つめていた。
2人は、基地の前にあるピザ屋に入ると、窓際の席に座り早速ピザを注文した。
テーブルの前に並べられたのは、大きなサイズのピザが3枚と、サイドメニューのフライドポテト。
あまりにも年頃の少女の手に余るようなそれを、ビクセンは迷いなく口に頬張った。
「うーん、やっぱこの店のマルガリータ最高やー!」
「よくもこんな大きいのを頼んだな……後で腹壊すなよ」
「前から、これくらいおっきいピザ食べたいって思ってたんやー、ああ幸せ……」
ゆっくりと食べるロックとは裏腹に、隣のビクセンはぱくぱくと食が進む。
そんな姿を見て、ロックも表情が緩んでいる。
「ともあれ、これで後期からは晴れて艦上デビューだ。空母――いや、強襲揚陸艦サングリーズでの実習に、遂に取り組める訳だ」
「はあ、夢の空母着艦まであと少し……これも全部、シーザー様のおかげや……ウチ、シーザー様と出会ってなかったら、こんな事にならへんかったかも……」
上目で天井を見つつ、そんな事をつぶやくビクセン。
「何言ってるんだ。それだけ力があったって事じゃないか」
「そ、そやけど――ウチ、コックピット入るといつも暴走するし……そんなウチを、わざわざお気に入りって言ってくだはったシーザー様のお力があってこその――」
「わざわざなものか。好きだからお気に入りに決まっているだろう?」
「へへ、そやね。ウチもシーザー様が好きで――って、ええ――!?」
途端、フライドポテトを頬張ろうとしたビクセンの手が止まった。
口に入れるはずだったポテトが、手から皿の上へ零れ落ちる。
「シ、シーザー様、今、好きって――!?」
「あれだけ勇猛に飛んでくれた方が、安心して背中を任せられるものだよ。君の実力は、充分なくらい信頼してるさ」
ずい、と顔を近づけるロック。
その碧眼に間近で見られ、一気に頬を染めるビクセン。
逃げられない。奥に座ってしまったために、ビクセンは追い込まれてしまっている。
ロックの手が、そっとビクセンの頭を撫でる。
「それでいて、普段はこれだけ可憐なのだからね――リューリ」
ファーストネームで呼ばれ、さらに頬の赤みが増していく。
彼がビクセンをファーストネームで呼ぶのは、私的な時だけ。
「か、可憐――!? な、何を言うて――!?」
恥ずかしさのあまり思わず目を逸らしてしまったビクセンの顎に、そっと手が回される。
唯一逃れようとした視線さえ、彼は逃がそうとしない。
「だから僕は、君の事が好きだよ」
「ちょ、ちょ、ちょ、ち、近い、近いです、シーザー様――っ!」
透き通った碧眼で、間近から見つめられる。
動揺のあまり、目を閉じて声を出す事しかできず、固まってしまった手を痙攣させるしかできないビクセン。
そんな時、携帯電話の着信音が鳴った。
「ん? 何だ?」
ロックは顔を戻し、懐からスマートフォンを取り出す。
ようやく離れてくれた事で、ビクセンはふう、と安心したように息を吐いた。
「もしもし――はい、はい――わかりました。今外出中ですが、なるべく早急に済ませて戻ります」
そんな事を話して、通話は終わった。
「ちょっとふざけすぎたな。急用が入った」
「え、急用?」
「さっさとこれを片付けて学園に戻るぞ」
ロックは先程までの大胆不敵な行動を忘れたように、食事に戻る。
それをしばしぼんやりと眺めていたビクセンであったが。
「どうした? 食べられないのか?」
「い、いえ! 全然、平気やで!」
ロックに問われて、慌てて自身も食事に戻ったのだった。




