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セクション14:扇子の絆

 僅かに雲が切れ、白い光芒が差し込み始めた空の下、2機のミラージュと1機のイーグルはファインズへと着陸した。

 駐機場(エプロン)には騒ぎを聞きつけた複数の生徒達でごった返しており、ミミの機体が駐機するや否や、一直線に周りへ集まってきた。

 姫様、ご無事でしたか、と何度も叫び続ける生徒達を、整備士達がレッドカーペットの縁を守る警備員のごとく押し留める光景には、地上へ下りたミミも目を丸くしていた。

「ミミ」

 そんな彼女の元へ、ツルギはゆっくりと車いすを進める。

 声に気付いて、彼女が気付いて顔を向ける。

 面と向かって対面するのは、偉く久しぶりに感じて少し緊張した。

「ツルギ」

「その――まずはこれ」

 ツルギは、懐から扇子を取り出し、本来の持ち主であるミミに差し出した。

 それと見たミミは僅かに戸惑い、顔を逸らした。

「……い、いけません」

「いけませんって、どうして……?」

「ツルギは、私よりストームの方が大事なのでしょう……? 私は、これをもらった事がきっかけであなたへの思いを自覚しました。これが手元にあったら、私はまたあなたに迷惑な思いを――」

 どうしてそこまで遠慮するんだ、とツルギは思ってしまう。

 そこまでして、ミミは自分との関係をリセットしたいのだろうか。

 なら――

「じゃあ僕も、あの将棋盤を捨てなきゃいけないって事なのか?」

「……え?」

 その問いかけに、ミミが驚いて顔を戻した。

 かつて、ツルギがミミにこの扇子をプレゼントするきっかけとなった、彼女からの感謝の印。このスルーズではほとんど手に入らないそれは、今でも大切にしている。

「あの将棋盤、とても役に立ってるから、手放したくはないんだけど――」

「ま、まだ、持っていたんですか……? てっきり、もう手放したものだと――」

「どうして。捨てる理由なんてどこにもないぞ? 手に入れる事さえ一苦労なものなんだから」

「で、でも、あなたはストームと――」

 そうか、とツルギは気付いた。

 どうやらミミは、過去に付き合った異性と関わりのある品は捨てなければならないとでも思っているようだ。

 だから、ツルギは言った。

「言ったじゃないか。ミミは今でも大切な友達だって」

 途端、ミミは黙り込んでしまう。

「だから、別に持っててもいいんだ。それは、ミミが一番似合うと思うし」

「い、一番似合う……?」

「だって、ミミはその――きれいだから。ストームよりも。そこは、認めるから」

 ちょっと言うのは恥ずかしくなり、僅かに目を逸らしながら言う。

 僅かに息を呑むミミ。

 変な事言っちゃったかな、とツルギは少し不安になったが。

「そ、そうですか……そんなに、言うなら――」

 ミミは、そっとツルギの手から扇子を受け取った。

 久しぶりに、彼女の手によって開かれる扇子。

 やはり、この紫を基調とした柄の扇子を開く姿が、ミミには一番似合う。

「――でも、いいのですか?」

「いいのですかって、何が?」

「私はストームよりきれい、なんて聞いたら、あの女キレるかもしれませんよ?」

「え? い、いや、それは――」

 だが、予想外の質問に、ツルギは動揺してしまった。

 どう答えようか迷っていると。

「平気だよっ!」

 いきなり背後から、ストームの声がした。

 そして、不意に背後から腕が伸びてくる。

「ツルギはあたしの事、かわいいって言ってくれるもん! ね!」

「わっ!? こ、こらっ! 離れろっ!」

 不意打ちで現れたストームに抱き着かれ、ツルギは慌てて手をじたばたさせる。

 その光景を見たミミは、呆れたようにため息をついている。

「悔しいですけど、借りができてしまいましたね、ストーム……」

 扇子を仰ぎながら目を逸らし、そんな事をつぶやくミミ。

「姫!」

 ふと、声がした。

 やってきたのは、ミステールとチーターだ。

「ミステール、チーター……その、ごめんなさい。私の気の迷いで、皆さんに迷惑をかけてしまいました……」

 2人と対面するや否や、ミミは、僅かに目を逸らしながらも謝る。

 すると、ミステールは無言でミミをそっと抱き寄せた。

「え……?」

「そんな事はいい。姫が無事でいられて何よりだよ」

「そ、そうっすよ! もし死んじゃったらこれからどうやって生きて行けばいいんだと――」

 ミステールの優しい言葉に、チーターも泣きながら続く。

 2人の暖かい出迎えが予想外だったのか、ミミは抱かれたまましばし言葉を失っていた。

「チーター、それはいくら何でも大げさでは――」

「大げさじゃありませんっ!」

 ようやく口が開いた時、同じく機体から降りてきたフィンガーが駆け寄ってきた。

 ミミはミステールから離れて、彼女と向かい合う。

 フィンガーは姿勢を正し、ミミをしっかり正面に見据えて話す。

「この場を借りて謝らせてください! 姫様にあいつが――ツルギが悪口を言っていたというのは、全部ウソだったんですっ!」

「ウソ……?」

 その単語に、目を白黒させるミミ。

「はい! どうしても姫様に気に入られたいがためにそんな事を吹き込んで――」

「き、気に入られたくてって――」

「ですが、こんな事になるなんて、思いもしなかったんです! ですから、今回の事件の責任は全部自分にあります! せめてものの罪償いにと今回空中給油母機として参加しましたが、これで罪償いができたなんてこれっぽっちも思っていません! ですから、本日を持って生徒会も姫様のウィングマンも辞めさせていただきます!」

「え、ええ!?」

 一方的告げられたフィンガーの宣言に、ミミは状況が飲み込めず戸惑うばかり。

「さようなら! 今までありがとうございましたっ!」

 フィンガーは最後にそう挨拶して、逃げるようにミミの前を後にした。

「ちょ、ちょっと、フィンガー!?」

「……余程懲りたみたいだね。詳しい説明は後で私がするよ、姫」

 唖然とするミミの肩に、ミステールがそっと手を置く。

 ミミはただ、どこか早歩きで去っていくフィンガーの後ろ姿を見送る事しかできない。

「ねえ、これで一件落着、なのかな?」

「さ、さあ……」

 それは、抱き着いたままのストームとツルギも同じであった。


 フライト3:終

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