セクション12:私は自分勝手
機体を確認する。
尾翼に書かれているのは金色の不死鳥が描かれた王旗。
そして、コックピットにいるパイロットは紫色のヘルメットを被り、そこから長い金髪を覗かせている。
間違いなくミミだ。
「よし、僕が声をかけてみる」
ツルギは右下のコンソールで無線の周波数を合わせ、呼びかける。
「ミミ! ミミ! 聞こえるか!」
すると、うつむいていたミミの顔が、ゆっくりと起き上がった。
そして、ゆっくりと顔がこちらに向く。
『……ツル、ギ?』
力のない彼女の声と共に聞こえるのは、甲高い警報音。
それが燃料の警告音だという事に、すぐに気付く。もはや燃料はかなり消費しているようだ。
『なぜ、なぜここに……?』
「話は後だ! どうしてこんな事をするんだ! すぐ帰ろう!」
すると、ミミは顔を戻し、
『もう、遅いですよ……帰れるだけの燃料は、もうありません……』
とっくに覚悟を決めているとばかりに、そう言った。
「そ、それなら心配ない! 今から――」
『それに、王族失格な私に、戻る意味なんてありませんから……』
「……失格って、どういう事だよ?」
ツルギは、思わず問うていた。
ミミは再び顔をうつむけ、語り始める。
『全てはシーザーの言う通りです。私は、やはり自分勝手なんだと思います……昔から私は、自分の事は自分で決めたくて、自分の事を人にとやかく言われたくなくて……だから、親に逆らいたくて、ここで飛んでいたんだと思います……』
「ミミ……」
『私だって、曲がりなりにも王族の1人ですから、それなりに自信はあったんですよ……自分の道くらい、自分で作れるって……夢に向けた勉強だって、あなたとの恋だって、負ける気はありませんでした……でも、でも私は、負けてしまった……』
「負けたなんて、そんな――」
『自分の事を自分で決めるって事は、人の話も聞かないし、人の気持ちも考えないって事なんですよ……適性が低いって忠告を無視して飛んだから、いつまでも空中給油ができないし、あなたの事だって、ストームがいるあなたの気持ちも考えずに、想い続けていた……その反動が、帰ってきたんですよ、今……そう、私はただ、自分の主張を押しつけていただけでした……世界は私を中心に回ってるって、どこかで思ってたんでしょうね……』
『姫様――!』
「静かに!」
口を挟みかけたフィンガーを、ストームが制止する。
ツルギは、話を続ける。
「そんな事に気付けたなら、なんで――」
『そんな人間に、王が務まると思いますか……? 務まらないでしょう……? 民の事を考えなければならないのですから……結局私は、生まれる場所を間違えたんです……私は、王族になんて生まれなければよかったんです……!』
「……っ!」
ミミの声が、次第に感情を帯びて震えてくる。
自嘲してばかりで、こちらの話を聞いてくれないミミに、次第に苛立ちが募ってくる。
『だから、もう放っておいてください……! このまま、私を海の底に落とさせてください! 私の決心を、鈍らせないでください! 私はもう――』
「いい加減にしろよっ!」
ツルギは、遂に我慢できず声を荒らげた。
ミミが、僅かに怯む。
ツルギはマスクを外し、自由になった口で感情に任せるまま訴える。
「大体そんな事、どうしてもっと早く言わなかったんだ! 僕にでも、生徒会のみんなにでも話せばよかったじゃないか! みんな心配してたんだぞ!」
『心配するのは、当然ですよ……! 私は王族ですから。でも――!』
「でも、何だよ! 何が不安なんだよ!」
『私は、周りに迷惑をかけていたんですよ! もちろん、あなたにだって――』
「ああ、迷惑だ! 確かに迷惑かけてる! そこは認めるよ!」
『なら、なぜ――?』
「でも、今そうやって勝手にいなくなろうとしてる事自体が、もっと迷惑になってるって事がわからないのか!」
ツルギの叫びが、遂にミミを黙らせた。
とうとう息切れしてしまったツルギは、息を整えてから再開する。
「自分勝手な自分が、嫌なんだろ……? なら、自分勝手にいなくなるのは、やめてくれ……それから、悩みを全部1人で抱え込むのも、やめてくれ……話なら、後でいくらでも聞いてやるから……それくらいの迷惑なら、買ってやるから……」
会話が止まる。
燃料の警告音だけが、しばし響き続ける。
そして、ミミが再び口を開く。
『わかりました……でも、1つだけ聞かせてください』
「何だ?」
『なぜ、そこまで必死になるのですか……? あなたの一番大切な人は、ストームなのでしょう……? 私を助ける義理なんて、どこにもないでしょう……? 敵に塩を送る、というものですか……? それとも――』
どうしてこんな時にもその話を持ち出すんだ、と思ってしまう。
やはりフィンガーに吹き込まれた話の事は、かなり引きずっているようだ。
だから、ツルギはこう答えた。
「確かに、僕はストームが一番好きだ。でも、ミミの事を嫌いになってなんかない。今でも大事な――友達だ。助ける義理なんて、あって当然だよ」
『ツルギ……』
少し言葉に迷ったが、自分の気持ちははっきりと伝えられた。
好きの反対は嫌いとは限らない。
そうフェザーに教えられたからこそ、胸を張って言えた言葉だった。
「……じゃ、帰ろう。フィンガー、頼む」
さて、もたもたしている時間はない。
こうやって話している間にも、燃料は減ってしまっている。
ツルギの呼びかけで、フィンガー機がミミ機の前に出る。
『一体、何を……?』
『帰るための空中給油です、姫様』
『空中、給油!?』
状況を知ったミミが、動揺の声を出す。
この状況を打開するための唯一の手。
だがそれを、ミミがうまくこなせる保証はない。
『こ、ここで私ができるかどうかわからないって事を、やれという事ですか?』
『大丈夫です! 私が、必ず成功するようにサポートします!』
『で、でも――』
フィンガーの決意にも、ミミは不安を隠せない。
その間、ツルギはピース・アイと連絡を取る。
「ピース・アイ。これから空中給油を始めるけど――」
『はい、何でしょう?』
「海軍に応援を要請してくれ。万が一の事があっても、すぐミミを助けられるように」
『了解です!』
これで、準備は整った。
ツルギは、ミミを安心させるために告げる。
「大丈夫。もし失敗しても死ぬ事はないし、僕も文句は言わない。ダメ元でやってみよう」
『ツルギ……』
「今は前みたいに、逃げる事ができない。落ちるか落ちないかの2択だ。どうせ落ちるなら、最後まで戦い抜いてから落ちた方がいいって、僕は思う」
『……』
ミミが、息を呑んだのがわかった。
「そうだよ、最後まであきらめちゃダメ!」
と、ストーム。
『やりましょうよ、姫様!』
と、フィンガー。
そして、ミミは。
『わかりました、やりましょう……!』
崖っぷちの状況下で、一度も成功した事がない空中給油に挑む事を決意した。




