セクション10:王女捜索命令
「……そうか、事情は把握した」
格納庫の中。
駆けつけたフロスティは、一同から事情を聴いてうなずいた。
「しかし、なぜ自殺ごときに戦闘機を使うのだ。もっといろいろな方法があるだろうに」
「姫が乗っていた機体は、新たに用意されたばかりの専用機でした。まさか、彼女の栄光でもあるそれと一緒に葬ろうとしているのでは――?」
「……全く、1機何千万ドルもする戦闘機を道連れにしようとするとは、はた迷惑な奴だな。普通自殺するなら周りに迷惑が掛からない手段を選ぶと思うんだが」
ミステールの推測を聞いたフロスティは皮肉る。
その言葉は、ミミの親族が聞いたらクレームの1つでも来そうな問題発言ではないか、とツルギは思ってしまう。
「それはともかく、この国のVIPが失踪となれば、黙って見過ごす訳にはいかない。現在海軍と連携を取り、捜索を行う事になったが、範囲が範囲だ、我々にも捜索の協力要請が来ている。ここには、似たような戦闘機失踪事件を自ら志願して解決した人物が役1名いるからな」
フロスティの冷たい視線が、ツルギに向いた。
えっ、とツルギは少し驚いたが。
「そっか! ツルギはあの時、あたしを探して助けてくれたもんね!」
ストームは、すぐ当たり前の事だと納得していた。
「上が、貴様の実績を買ってご指名したものだ。ヘマはできないぞ」
「は、はい! 了解です!」
突然の事に戸惑いながらも、慌てて敬礼をしつつ答えるツルギ。
自分とて、ミミの事が心配な身だ。自力で探し出せると自惚れてはいないが、指名されたとなれば引き受けたい。
「待ってください! ウィ・ハブ・コントロール号は、まだ整備中です!」
「心配するな、伍長。既に別の機体を割り当てしてある」
割り込んできたゼノビアの指摘に、冷静に答えるフロスティ。
「ただ、飛行の状況から推測すると、前回のように飛んでいる状態で見つける事は厳しいだろう。仮に飛行状態で見つけたとしても、ここまで帰れる保証はない」
だが、不安な事も口にした。
ミラージュは、ストライクイーグルよりも小型のため燃料搭載量が少ない。ましてや、増漕を投棄してしまっていては、もはや内部燃料のみ。飛べる範囲はかなり限られてしまう。
最悪、既に燃料切れで墜落している可能性だってあるという事だ。
「給油機は、手配できないんですか?」
「残念だが、今は飛ばせない状態にあるそうだ」
「そう、ですか……」
という事は、救難信号を拾えるだけでもよしとするべきか、とツルギが考えていると。
「あら、こっちでも用意できるわよフロスティ」
フロスティの背後から、別の女性の声がした。
「フェザー」
「給油機としての仕事は、この子にやらせてもらうわ」
そこにいたのは、フェザーだった。
彼女の緩い口調で紹介されたのは。
「フィンガー……」
ツルギが、その名をつぶやく。
隣でやや顔をうつむけている彼女は、やや気まずそうな顔色をしている。
「……どういう事だフェザー」
フロスティの疑い深い視線が、フェザーに向けられる。
「あら、どういう事って?」
「とぼけるな。フィンガーは先程スタンガンで問題行動を起こしたばかりだろう。まだ処分も決まっていない状況で、大事な任務を任せる訳には行かない」
「だからこそ、よ」
フロスティの冷静な指摘にも、笑みを見せつつ緩い口調で答えるフェザー。
「……何?」
「彼女はこの一件以外にも、いろいろ陰で悪巧みをしていたらしいけれど、それは全部姫様を思っての事。それが悪い方向に働いたなら、この子に責任を取らせるのが一番でなくて?」
「悪巧み……!? どういう事なんだ!? それに、スタンガンで問題行動って――」
2人の会話を聞いて、冷静なミステールが目を白黒させている。
彼女は、まだフィンガーが何を起こしたのかを知らない。
「ごめんなさい。本当です、副会長」
フィンガーが、顔をうつむけたまま申し訳なさそうに白状した。
「私は姫様に信頼されたくて……でも姫様に好かれているそいつの事が、気に食わなくて……何とか仲違いさせて引き剥がそうとしたんです……」
僅かに視線をツルギに向けながら、フィンガーは告白する。
「きっと姫様は、その事がショックだったんです。それに戦技テストの成績も加わって、あんな事に――だから、せめて罪償いがしたいんです」
「……そんな理屈が、通じると思っているのか? お前の代わりなど、いくらでもいるぞ」
それでも、フロスティは容赦ない。
だが。
「ファングだったら、きっとこうすると思うけど?」
フェザーの指摘で、フロスティは僅かに顔を緩めた。
そして、しばし考えた後。
「……わかった。参加を許可しよう」
フィンガーに許可を与えた。
すると、フィンガーはすぐに顔を上げ、
「ありがとうございます!」
ここに来て初めて、力が宿った声を上げた。
「捜索可能時間は30分だ。それ以上経っても見つからなければ、海軍に探してもらうしかない。一刻を争う事態だ、すぐに準備しろ」
「ウィルコ!」
「了解。じゃ行こう、ストーム」
ツルギは、ストームと共にフライトへの準備に取り掛かるべく格納庫を後にする。
そんな中で。
「フィンガー……事情はわかった。詳しい話は後で聞くけど――姫を頼むぞ」
「はい!」
ミステールが、肩に手を置きつつフィンガーを激励していた。




