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セクション09:お別れです

「な――」

 フィンガーはスタンガンをツルギの喉元に突き出してくる。

 車いすから動けないツルギに、スタンガンをかわす術などない。

 突然の事態に動揺する彼は、フィンガーの一撃を黙って享受するしかない。

 だが。

「ツルギッ!」

「え――!?」

 驚きは、誰のものだったか。

 スタンガンは、目の前に立ちはだかった何者かに遮られた。

 腕を止めようとした彼女が、腹でスタンガンの一撃を代わりに受けたのだ。

「う、く――」

「ス、ストーム……!?」

 ツルギは、絶句した。

 スタンガンの電撃により崩れ落ちたのは、ストームだった。

 そんな彼女を見て、フィンガーは右腕を突き出したまま愕然としている。

「おい、ストーム! ストームッ! 大丈夫かっ!」

 ツルギは、慌ててうずくまったまま動かないストームの様子を確かめる。

「え、えへへ……ちょっと、失敗しちゃった……」

 ストームはぎこちなくながらも振り向いて、笑みを浮かべた。

 その姿を見て、ツルギはようやく胸をなで下ろした。

 スタンガンは、基本的には相手を痺れさせて動けなくするものだが、下手をすれば気絶したり、命を落としたりする可能性もある。

 まさかの事があったらどうしようと思ってしまい、本当に心臓に悪かった。

 直後。

「な――何やってるんだよフィンガーッ!」

 チーターが怒りの声を上げた。

 沈黙したままのフィンガーの右手首を掴むと、握っていたスタンガンが手から滑り落ち、乾いた音を立てて道の上に落ちた。

「スタンガンなんて物騒なもので暴力なんて、犯罪だぞ! こんなの姫様が知ったら、煙たがれる所の話じゃ済まないだろ!」

 その一言は、フィンガーを明らかに動揺させた。

「姫様に気に入られたいからって、何してもいいのか! そんなだから、アンタは姫様にずっと煙たがられっぱなしなんだよ!」

「……」

 チーターの主張を前に、フィンガーは、黙り込んでしまう。

「もういい! アンタみたいな奴に無理やり協力させられたアタイがバカだったよ! アンタなんかとは絶交だ! 教官に言いつけてやる!」

 チーターは落ちたスタンガンを拾うと、まっすぐ校舎へと向かって駆け出した。

 フィンガーは、そんな彼女を止めようとはせず、ただ茫然と立ち尽くしていた。

 ツルギもストームも声をかける事ができず、しばしの沈黙が場を支配する。

「娘・息子達よーっ! 大変よーっ!」

 ふと、ゼノビアの声がした。

 振り向くと、明らかに慌てた様子でこちらに駆け寄ってくるゼノビアの姿が見えた。

「……あれ、みんな一体どうしたの?」

「い、いや、何でもありません」

 やって来るや否や、ゼノビアは一同の様子がおかしい事に気付いたので、ツルギはごまかしながら、ストームの脇を抱えて立ち上がらせた。

 ストーム自身も痺れがある程度治まったのか、何とか立ち上がる事ができた。

「それより、どうしたんですか?」

「姫様の機体が、消息を絶ったのよ!」

「な、何だって!?」

 ゼノビアの報告に、ツルギもストームも――そして、沈黙していたフィンガーも驚きを隠せなかった。


     * * *


 空はどんよりと暗く厚い雲に覆われている。

 駐機場(エプロン)が騒がしい。

 慌ただしく動く整備士達の中を、フライトスーツ姿のミステールが歩いて行く。

 その表情は、どこか重苦しい。

「ミステール先輩!」

 そんな彼女に、ツルギはストームと共に急いで駆け寄り声をかけた。

 ちなみに、フィンガーはいない。

「ツルギ」

「ミミが消息を絶ったって、本当ですか……?」

 念を押して、聞いてみる。

 この話は誤報じゃないか、という僅かな期待を抱いて。

「……ああ、本当だ」

 だがそれは、ミステールの重く開いた口であっさりと否定した。

 そのまま、彼女は説明を続ける。

「私は姫の僚機として空中給油の練習に付き添う予定だったんだけど、離陸してすぐの事だった。姫の機体は何の予告もなく急に主翼下の増漕を投棄し、アフターバーナーに点火して急加速、音速を突破したんだ。何をする気なのか全くわからなくてね、不覚にも私は彼女を見失ってしまったんだ。増漕を積んでいて音速を出せなかった事もあってね。機影は私の機体のレーダーからも、管制レーダーからもロストしてしまった。そして彼女は最後に言ったんだ――」

「最後にって、何を?」

「『ここでお別れです、ミステール。今の私を追わないでください』とね。どこか悲しそうな声だったよ……」

 ツルギは戦慄した。

 自分の元へ届いた手紙と扇子。

 そして、ミステールへ残した最後の言葉。

 これで、全ての点は繋がった。

「今頃彼女は、領空を外れて大西洋の真ん中だ。一体何がしたくてそんな事を――」

「そうか、だからあんな事をしたんだ、ミミは……!」

「あんな事って、何か心当たりがあるのかい?」

「実は、今朝僕の所に手紙と、前に僕からあげた扇子が贈られてきたんです。手紙には、『この扇子は、お返しします。今までありがとう、さようなら』と書かれていて――」

 ミステールの疑問に答える形で、ツルギは今朝の出来事を説明する。

「何だって!? という事は、まさか――」

「ミミは――大西洋に身を投げるつもりなんです……!」

 ツルギは、受け入れがたい結論を重苦しくも口にした。

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