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セクション06:自然体

「なんでここにいるの――?」

「というか、()()()()って――?」

 ストームとツルギは、順に疑問を口にする。

「ここ、実家なんです。休みの日は、こうやっていつも手伝ってるんですよ」

「実家?」

 そういえば、とツルギは思い出す。

 以前ここに来た時、娘が航空学園エリス分校に通っている、とウェイターから言われた事を。君と同じくらいの年なのに子供のようにかわいい娘、と言っていた事も。

 彼が言っていたのは、ユーリアの事だったのか。そう考えると、納得が行く。

「そうだったのか……まさか君の実家がカフェだったなんて思いもしなかったよ」

「じゃあ、『空の喫茶店』は実家仕込みだったって事なんだ?」

「えへ、そういう事になりますね」

 ストームと一緒に、その事実に感心するツルギ。

 だが、やはり気になるのはユーリアの服装だった。

「でも、その格好は……?」

「見ての通り、メイドですよ。うちの隠れた名物です」

 得意げにスカートの裾を持って広げてみせるユーリア。

 しかし、こんな恰好でウェイトレスをやるのは少し問題があるような気がするのは僕だけか、とツルギは思ってしまう。

「あ、そういえば日本じゃメイドって男の人に人気らしいですね?」

「え? ま、まあ、ね」

「え、じゃあ今度あたしもメイドの格好してみる?」

「い、いや、遠慮するよ……」

 なんでそんな話題になるんだ、と思いつつ、ツルギはユーリアとストームの話を聞き流す。

 すると、ユーリアが思い出したように話題を変えた。

「ところで、お2人はどうしてこの店に? あ、もしかしてデートですか?」

「うん、そうだよ!」

「こ、こらストームッ! そういうのは人前で堂々と言う事じゃ――!」

 ストレートに答えたストームの口を、ツルギは思わず塞ぎたくなった。

 いつもの事だが、なんでストームは場の空気を読まないのか、とつくづく思ってしまう。

「へえ、デートですかあ、いいなあ……あ、でもツルギさん、姫様と付き合っていたなんて話を聞きましたけど――」

 だが。

 ユーリアの衝撃的な言葉で、さらに動揺が増してしまう。

「な――なな、何言ってるんだ!? ぼ、僕は、決して、ミミと、そんな関係って訳じゃ――」

 うまく回らない頭で、何とか言葉を絞り出す。

 こんな所で、ストームに変な疑惑を持たせたくない。

 すると、ユーリアは。

「ですよねー。姫様とデートなんてしたら、今みたいに楽しくできなさそうですよねー」

 なぜか納得した様子で言った。

「た、楽しくできなさそうって、どうして……?」

「だって、絶対パパラッチに追いかけられるじゃないですか。そして、次の日の新聞とかにデカデカと乗るんですよ、『フローラ姫に熱愛発覚!?』って感じで」

「あ……」

 そこで、はたと気付いた。

 スルーズの誰もが知る有名人であるミミが街に出ようものなら、どんな事が起きるかを。

 以前このカフェにはミミも来たが、その時は変装していた。

 それが、何よりの証拠となる。

「パパラッチの魔の手から逃げ回りながらデートするって、大変そう……それで死んじゃった人もいますし、相当な愛と勇気がいるんでしょうね」

「た、確かに……」

 想像してみる。

 自分が仮にミミの事を好きだったとして、果たしてそんな事ができるのだろうか。

 答えはすぐに出た。

 そんな度胸はない。

 あの日――ミミに告白された次の日でさえ、広まった噂に怯んで付き合う事ができなかったくらいだから。

 やはり相手が高貴な存在である以上、どうしても親しき仲にも礼儀あり、と気を使ってしまうのだ。

「やっぱり付き合うなら、自然体で付き合える人がいいですよねー。そういう意味で、お2人はとてもお似合いだと思いますよ?」

「そ、そうなのか……」

「ありがと! ツルギ、あたし達褒められちゃったね!」

「あ、ああ、そうだね」

 少し照れながら、ツルギは考える。

 自然体で付き合える、か。

 それができない以上、自分にとってミミは、その程度の存在だったという事。

 なら、ストームは――?

「話が長くなっちゃいましたね。さて、ご注文は何に致しますか?」

「そうだ! えーっと――」

 ストームが、メニューを開いて注文を考え始める。

 そんな中で、ツルギはようやく迷いの答えに辿り着こうとしていた。


     * * *


 カフェ・ブリーズを後にしてから、またツルギはストームの手でいろいろな場所へ連れて行かれた。

 その中で、ストームが今まで以上に興味を惹かれた場所があった。

 意外にも、それは模型店。

 飛行機などのプラモデルなどを専門に扱う小さな店だったが、ストームがそれを見つけるや否やすぐにツルギを連れて飛び込んだ。

 お世辞にも広いとは言えない店舗の中で、ストームが見つけたのは。

「あった! ロイヤルフェニックスのテキサン!」

 大戦中に開発され、スルーズ空軍でもかつて使用されていたプロペラ練習機、T-6テキサンのプラモデルの箱だった。

 その機体にはスルーズ空軍の国籍マークが描かれ、見覚えのある派手な紫色のカラーリングをしている。

「これ、ロイヤルフェニックスなのか……?」

「うん! テキサンはね、ロイヤルフェニックスの最初の使用機体なんだよ!」

 ロイヤルフェニックス。

 ストームが憧れる、スルーズ空軍のアクロバットチーム。

 このテキサンから、ロイヤルフェニックスの歴史が始まったのか。

「あ、マジステールもある! これがテキサンの次で、この後ホークになったんだよ!」

 ストームは興奮気味に、次の箱を見つけてツルギに見せた。

 やはり、紫色のカラーリングが施された、ツバメを連想させる細いボディとV字型の尾翼が目立つレトロなジェット練習機、マジステール。これもかつてスルーズ空軍で使用されていたもので、ホークが配備されるまで長く使用されていたと聞いている。

「ほんと好きなんだな、ロイヤルフェニックス」

「うん! ビデオで見たけど、昔のロイヤルフェニックスもなかなかかっこいいんだよ!」

 ロイヤルフェニックスの過去機を前に目を輝かせるストームを見て、ツルギも思わず表情が緩んでしまう。

「あ、これ日本のイーグルじゃない?」

「え? あ、本当だ!」

 さらにストームは、次の箱を取り出す。

 その箱絵には、かつてツルギが憧れた日本のイーグルが確かに描かれていた。

「うわー、懐かしいなあ……」

「ツルギはこれが飛んでるのを見て、イーグルに乗りたいって思ったんでしょ?」

「はは、まあね。あれは、本当にかっこよかったなあ……」

「あたしも見てみたいなあ……そうだ、ネット動画で見てみよっか」

 会話が弾む。

 それにしても、変な話だ。

 こんな狭い模型店で、自分達の夢の原点について語り合うなんて。

 明らかに普通のデートではないが、それが楽しい。

 ――いや。

 ストームと一緒にいる事自体が、そもそも楽しい。

 それにツルギが気付くのに、そう時間はかからなかった。


     * * *


 日が傾き、赤く染まった空の下、2人は帰りのバスの中で揺られていた。

 散々歩き回った反動か、ストームは座席ですっかり寝息を立てている。

 そんな彼女に怪しい人が近づかないよう見張りつつ、ツルギは思った。

 やっぱり、僕はストームが好きだ。

 決して、ミミの代わりなんかじゃない。

 いつも明るくて元気いっぱいだから、その分いっぱい振り回されているが、そんな彼女の隣で自分は自然体でいられる。

 それが、何よりの証拠。

 この気持ちは、ミミの隣では得られない。

 考えてみれば、ストームはミミとは性格も見た目も全然違うのに、なぜ代わりなどと思っていたのだろうか。

 結局は、ただの杞憂だったのだ。

 決して嫌いではないミミとの付き合い方に、ちょっと戸惑っていただけで。

「今まで、何考えてたんだろうな……」

 首から下がったドリームキャッチャーを手に取って眺める。

 この2人の絆の証は、決して偽りのものではなかった。

 今日ストームとデートに行けて、本当に良かった。

 これで、自分自身の答えは得られた。

 後は――ストームがどう思っているかだけだ。

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