セクション05:ストームとデート
「という訳で、やってきましたー! ファインズ市ー!」
翌日。
バスから降りるや否や、青いカーディガン姿のストームは旅番組のレポーターのように声を上げた。
空は雲が7割程度と多いものの、久しぶりに晴れている。
だからか、車いすを押すストームも気分上々だ。
「……ねえツルギ、せっかく来たんだからもっと盛り上がって行こうよー」
「いや、相変わらず賑やかだなあって思ってさ」
「賑やかって、街の事?」
「ま、まあそれもそうだけど――」
自覚がないのか、と苦笑するツルギ。
この街に来るのは、父に呼び出された時以来だ。
ヨーロッパ風の建物が並ぶファインズ市の市街地は、都会と言えるほどの規模ではないが人や車はそれなりに多い。
「そんな事より、これからどこに行くのか決めているのか?」
「ん? 決めてないけど?」
ツルギが予定を聞いてみると、ストームは当たり前のように白紙だと答えた。
まさか、ツルギが決めてるんじゃないの、と言われるのではないかと危惧を抱きつつ、一応聞いてみる。
「おいおい、言い出しっぺはストームだろう……?」
「だって、ただ街をぶらぶら歩くのも楽しいじゃない?」
「え? まさか、行きたい所とか目星つけてないのか?」
「別に何も。思いつきであちこち行ってみるのも、探検みたいで結構楽しいよ?」
デートがまさか、行き当たりばったりの旅になるとは。
やっぱ僕が計画を立てておくべきだったかな、と少し不安になる。
「そ、そうなのか……なら、まずはどこに行くんだ?」
「えーっと……じゃ、あそこのブティックに行ってみよっか!」
ストームは街を見回して、真っ先に目に留まったブティックを指差した。
早速行ってみると、ショーウィンドウにはいくつもの華やかな服を来たマネキン人形が飾られている。
それを、ストームは興味深そうに観察している。
こういうかわいい服が気になる所はやっぱり女の子なんだな、とツルギは思う。
だが、困った。
自分には、ストームに服が似合うかどうか聞かれてうまく答えられる自信がない。そもそも、最近流行のファッションには疎い身なのだ。
とはいえ、ほとんど学園の制服やフライトスーツ姿しか見ていない身としては、ストームがいろいろな服を着てみる姿が見てみたい、とも思っている。
「入ってみよ!」
「ああ」
まあ、ちゃんと付き合ってあげようと考え、ツルギはストームと共にブティックへと入った。
だが、ツルギを待っていたのは予想外の展開だった。
確かにストームはかわいらしい服の数々に興味を示していたのだが、しばらくすると何を思い立ったのか、急に男物のコーナーへツルギを連れて行き、独断で男物の服を選び始めた。
「うーん、これなんかかっこよさそうだなあ……あ! これもいいんじゃない?」
「ちょ、ちょっとストーム、これは――」
ツルギの膝の上に、次々と積まれていく服。
それは全て、自分が普段着ている服とは全く趣の異なるカラフルなものばかりだった。ツルギにとっては充分派手なものである。
ある程度集めると満足したのか、ストームはツルギを試着室へ連れて行く。
「じゃあツルギ、試着してみてよ!」
「いや、いいよこんなもの――」
「どうして? 絶対ツルギに似合うと思うよ!」
「だって、こんなもので着飾ったら、正直、恥ずかしい……」
ツルギは、あまり派手なファッションをする事が好きではない。もちろん、身だしなみは人並みに気にする方ではあるが、ファッションは少し地味な方が好みなのだ。
「ツルギは元からかっこいいんだから、こういうの着たらもーっとかっこよくなると思うよ!」
「う……」
そう言うのは卑怯だと、思ってしまった。
こういう時に限って、車いすのハンドルを握られているのがとても歯がゆい。
「ど、どうしても、着なきゃダメか?」
「あたし見てみたいよ、これ着たツルギ! ね? ね?」
「そ、そんなに、言うなら……」
これは、罰ゲームか何かなのだろうか?
観念したツルギは、仕方なくストームの注文を受ける事にした。
まるで雑誌に載っているファッションモデルやテレビに出てくるアイドルのような服をいろいろ着てみたツルギを見る度、ストームはおー、かっこいー、と声を上げて満足そうな顔を見せたが、当のツルギ本人は恥ずかしさのあまり早く終わって欲しいと気が気でなかった。
* * *
ブティックで散々恥ずかしい目に遭ったツルギが次に連れられたのは、喫茶店『カフェ・ブリーズ』。
以前2人で行った事のある店だが、その時はちょっと一悶着ありちゃんと行った訳ではないという事で選んだようだ。
レトロな雰囲気に違わぬ音楽が流れる中、2人はテーブルで向かい合う。
「ねー、なんであれ買わなかったの? 結構似合ってたのに――」
「精神的に無理です、あんなの……は、早く忘れてください……」
恥ずかしさのあまり、テーブルに顔を伏せながら話すツルギ。
まさか、デートでこんな事をされるとは思いもしなかった。やはり、ストームと一緒にいて穏やかさを期待する方が間違っていたようだ。
とはいえ、自分が恥ずかしい思いをしながらもストームはかっこいい、と喜んでくれていたので、どうも憎めない。
それが、逆にストームらしくもあって――
「お客様、ご注文をお伺いしても――」
と。
ウェイトレスの声がして、ツルギは顔を上げた。
その妙に純粋無垢な声は、聞き覚えがあるものだったからだ。
「あれ? もしかして、ツルギさんですか?」
テーブルの前に立つウェイトレスは、白と黒のエプロンドレスを来たメイドだった。
しかし体は子供のように小柄で、ロングヘアーとリボンが特徴的な、人形のように愛らしい容姿をしている。
「――あ!」
「君は――もしかして、ユーリア?」
ストームとツルギがその顔に驚くと。
「やっぱりそうだったんですね! うちの店に来てくれて嬉しいです、お客様!」
ウェイトレス――ユーリア・アーレントは、嬉しそうに笑みを浮かべて挨拶した。




