セクション03:夢の正体
「その――テストの時は、ありがとう」
期末テストで助けられているのに、一度も礼を言えてなかったからだ。
「へ!?」
それに少し驚いて、肩を振るわせるビクセン。
「……あの時、勘違いするなと言ったはずだが?」
「それはわかっているさ。でも、君達のフォローがなかったら、僕達は全滅して、戦技テストをパスできなかったかもしれないのは事実だ。だから、礼くらい言わなきゃってずっと思ってたんだ」
2人にとっては意外な言葉だったのか、場が沈黙する。
すると、ふっ、とロックが僅かに笑い。
「そうだな、礼は受け取っておこう。だが、君が敬愛する姫に関しては、ご愁傷様としか言いようがないな」
そんな、嫌味な事を口にした。
「空中給油もできずに退却したんじゃ、助けようにも助けられないからな」
「まあ、そうだけど――」
「しかも、君の余計なお喋りのせいでできなかったそうじゃないか」
「え――」
その指摘に、ぎくり、と胸が高鳴った。
確かにあの時、自分はストームと少しだが話していた。
そのせいで、ミミはできなかったというのか――?
「壁に耳ありとは言うが、口にする言葉には気を付けた方がいいぞ?」
行くよ、とビクセンに呼びかけ、今度こそツルギの前を後にするロック。ビクセンもそれに続く。
その後を、ツルギは追えなかった。
そんな中、2人はうつむきながら戻ってきたミミと顔を合わせた。
「やあフローラ、追試に向けて最後の悪あがきかい?」
「……!」
声をかけられ、顔を上げるミミ。
ロックは彼女を冷たく見下ろし、話を続ける。
「往生際が悪いねえ、あんたも。結果は僕の予想した通りだったろう? それが才能の差だ。一発でパスできた僕達と違って、適性がないって事にいい加減気付いたらどうなんだ?」
「……」
ミミは不満そうににらみ返すだけで、何も反論しない。
ロックの言っている事が、事実だからだろう。
「そうさ。あんたは不器用な女のくせに王族に生まれたってだけで優越感に浸っていたいだけなんだよ。それがあんたの夢の正体だ」
「そ、そんな事――」
ミミは歯噛みする。
それをいい事に、ロックの言葉はさらに過激さを増していく。
「だから掟を捻じ曲げてまで王になんかなろうとするんだ。ビクセンの言った通り、ただの自分勝手さ。少しは身の程を弁えろよ。世界はあんたを中心に回ってなんかいない」
「そんな事――っ!」
ようやく、ミミが反抗した。
右手の拳を、ロックの顔目掛けて振るう。
だがそれは、あえなくロックの手で受け止められてしまった。
そのまま得意げに笑いつつ、ロックは続ける。
「でも僕は違う。子供の頃から王になるための勉強を受けてきた。だからどんな事だってこなせる。あんたとは違うんだよ。本当に選ばれたのは、この僕なのさ!」
拳を乱暴に振り解く。
ミミは姿勢を崩して、僅かに後ずさりした後膝を落とした。
そんな彼女の横を、もう用はないとばかりにロックは通り過ぎる。
直後。
「じゃあね。もう二度と、こんな基地で会う事はないだろう」
そんな言葉を言い残し、乗機であるシーハリアーへと向かっていった。
黙って見ていたビクセンは、少し戸惑いながらもその後をついて行く。
ミミは、その後を追って振り返りはせず、逆に顔をうつむけてしまった。
その肩が、僅かに震えている。
「ミミ……」
思わずツルギは近づこうとしたが、その前にミミは自力で立ち上がった。
そして、顔をうつむけたまま、逃げるようにその場を駆け出して行った。
「あ――」
ツルギの事も気付かずに、その隣を通り過ぎて行く。
結局ツルギは、その後ろ姿を見送る事しかできなかった。
罪悪感を、胸に秘めつつ。
そしてストームは、相変わらずツルギを黙って見つめていた。
駐機場が、再びタービン音に包まれる。
エンジンを始動させたシーハリアーは、整備員達の指示で滑走路へと向かっていく。
そして滑走路に辿り着くと、シーハリアーはほんの少しの助走だけで曇った空へと舞い上がって行った。
* * *
「さて、メンバーが全員揃わなかったのは残念だが、これにて今日の生徒総会を終了する」
前期最後の生徒評議会。
そこに、ミミの姿はなかった。
前期の生徒会メンバーが集まるのはこれが最後のはずだったのだが、肝心の彼女の不在によりどこか物寂しい総会となってしまった。
なぜ彼女がいないのか気になったツルギは、解散後早速ミステールの元へ向かった。
「ミステール先輩」
「ん、どうしたんだいツルギ君? おっと」
直後、ミステールは右手で不器用に回していたペンを机に落としてしまった。
「あの、ミミはどうしたんですか?」
「ああ。姫は、今日のフライト後体調不良を訴えて早退したそうだ」
「早退……」
体調不良で早退、か。
だがツルギは、それを素直に受け入れられなかった。
なぜか、それ以外の理由があるような気がしたのだ。
そう、あの時と同じように――
「彼女も焦っているだろうからね。何とかしてあげたい所だが――」
「そうなったのはあんたのせいよ、ジャップ」
ミステールの言葉を遮るように、フィンガーの声がした。
見ると、生徒会書記の席から立ち上がり、敵意を帯びた眼差しを向ける彼女の姿があった。
「あんたが余計なお喋りさえしなければ、こんな事にはならなかったのよ……わかる? 姫様が落第したのは、他の誰でもなくあんたのせいなのよ!」
ネイルアートが施された彼女の人差し指が、まっすぐツルギに向けられた。




