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セクション02:ツルギの憂鬱

「――ルギ君! ツルギ君!」

 不意にした声が、ツルギを現実に引き戻す。

 最初に映ったのは、テーブルの上に開かれたポータブル将棋盤。

「まだ、打たないの?」

 それを挟んだ向かい側には、ラームが座っている。

 その左目は、どこか不満そうにこちらを見つめている。

「公式試合じゃとっくに時間切れになってるんじゃねえのか?」

 そして、その隣に座るバズ。

 ようやく、今はラームと将棋の対局中であった事を思い出した。

「ああ、ごめん。ちょっと別の事考えてた」

 慌てて、ツルギは盤上の状況を確かめ、駒を選んで動かす。

「……あれ、いいの?」

「え?」

 ラームは盤上に手を伸ばしつつ、珍しく確認するように問いかけた。

 はて、何かおかしな動かし方でもしただろうか、と考えてみるが心当たりはない。

 だが、すぐに。

「はい! 王手飛車取り!」

「あーっ!」

 自分が、致命的なミスをしていた事に気付いた。

 ラームが動かした角行は、こちらの王将と飛車をまとめて捉えていた。

 戦局を左右する大駒を失う危機が迫っていた事をすっかり失念していたと気付いても、もはや後の祭りである。

「はっはっは! ツルギが凡ミスとは珍しいなこりゃ!」

 観戦しているバズが大笑いし始める。

「よっぽど別の事考えてたみたいだな? そんな風に経験者だからって余裕ぶっこいてるからいつも勝てねえんだぜ?」

「う……」

 仕方なく、王将への道筋を別の駒で遮る。

 結果、飛車はまんまとラームの手に落ちてしまった。3つ目の大駒を手にし、ラームは僅かながら笑みを浮かべた。

 なんで対局中に物思いにふけってたんだ、と後悔する。

 その隙を、ラームは容赦なく突いてくるというのに。

「はあ、もう将棋じゃラームには勝てないかもな」

「王手飛車取りされたぐらいで弱音吐いちゃダメ。まだ終盤に入ってないでしょ」

 駒を動かしながら、そんなやり取りをする。

 相手であるラームに励まされるとは、本当に情けない。

「あきらめたらそこで試合終了だぜ? 愛しのストームちゃんに嫌われちゃうぞ――って、今はいないのか」

 バズも乗って来るが、思い出したように周りを見回した。

 今、この場――食堂にストームは訳あっていない。

 昼間では貴重な1人の時間を、今こうやって将棋に使っている訳である。

「いや、今は姫さんもいるか――って、どっちにしてもこんなんじゃ嫌われる事に変わりはねえか」

「なんでそこでミミの名前が出てくるんだよ!」

 姫さん、という言葉にツルギは思わず反応してしまった。

 すると、バズがからかうように――いや、明らかにからかうつもりでにらりと笑う。

「で、ツルギ。結局本命はどっちにするんだ?」

 挙句、そんな質問までしてくる始末。

「う、うるさい! 今は対局に集中させてくれ!」

 そんな事を言っていると、急に窓の外からジェットエンジンの音が聞こえてきた。

 ふと窓の外を見る。

 曇り空の下、編隊を組む2機のミラージュが、基地の右側に当たる南東側からオーバーヘッド・アプローチのために進入してきている。

 内1機は、胴体下にバディ・ポッドを装備。

 それだけで、この編隊の主が誰なのかがすぐにわかった。

「おっ、噂をすれば影って奴だな」

 1機ずつ編隊から離脱し、着陸態勢に入っていく。

 気が付けば、ツルギはその後を追うように席から離れていた。

「あっ、ツルギ君!」

「ごめん、ちょっと行ってくる!」

 対局を途中で投げ出してしまう事を謝りつつ、ツルギは食堂を後にした。


     * * *


 期末テストの日程が全て終わり、今学年度の前期が間もなく終わろうとしている。

 それでも、この航空学園ファインズ分校から生徒が乗る戦闘機が飛ばない日はほとんどない。

 航空機の操縦技量というものは低下しやすいため、定期的なフライトは続けなければならない。その関係で、間もなく始まる春休みも実質それほど長くないのだ。

 そんな基地の駐機場(エプロン)に、2機のミラージュが戻ってきた。

 タービン音が支配する空間の中、先頭を行く機体のパイロットのヘルメットは、予想通り紫色だった。

 普段通りに駐機し、エンジン停止。

 静寂が戻った駐機場(エプロン)へ、パイロットが降り立つ姿をツルギは見ようとしたが。

「あっ、ツルギ!」

 不意に、聞き慣れた声が背後からした。

 振り返ると、そこにはいつの間にかストームの姿が。

「ストーム。こんな所で何してるんだ?」

「何って、お見送りだよ!」

「お見送り?」

「ね、リューリ!」

 ストームが振り返る。

 そこには、話を振られて少し驚いている、フライトスーツ姿のビクセンがいた。

「ど、どうも……」

 あまり顔を見たくない、とばかりに顔を背け、挨拶するビクセン。

 そうか。

 期末テストを終えた彼女は、元の海軍分校へ帰らなければならない。今日がその日だったのだ。テスト以来ほとんど会っていなかったため、それを忘れていた。

「今日、帰るんだな。海軍分校へ」

「そ、そやけど……」

 そこで、話が途切れてしまった。

 気まずい空気が漂い、ストームが不思議そうな目をしている。

 王子を慕っているからか、ミミと関係がある自分の事は嫌っているのかもしれない。

 それが、話しにくい理由の1つだが――

「何をしている、ビクセン」

 そこへ、別の声が割って入ってきた。

「シーザー様!」

 割って入って来たのは、やはりフライトスーツを身に着けた王子ロックであった。

 ツルギの姿を見るや否や、ロックは僅かに目を細めた。

 さらに気まずい空気の濃さが増す。

「何だ、君か。悪いけど、今は無駄話をしている時間がないんだ。行くよ」

「は、はい」

 まるで庇うようにビクセンを連れ出すロック。

 そして、背を向けて去ろうとした直後。

「あっ、ちょっと!」

 ツルギは2人を呼び止めた。

 肩越しに、2人の視線が向けられる。

「何だ? 用があるなら手短にしてくれ」

 ロックの鋭い視線に、ツルギは一瞬怯んでしまう。

 だが、そんな事はどうでもいい。

 2人と本当に話しにくい理由。

 それは――

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