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インフライト2

 土砂降りの雨の中、ミミは1人目を伏せて下校していた。

 傘は差していない。

 いや、差す気になれない。

 バケツをひっくり返したように降り注ぐ雨水は、容赦なくミミの制服やケープをずぶ濡れにしていく。

「私……どうしてあんな事を――」

 最後の最後であきらめて、逃げた。

 その言葉が、脳裏から離れない。

 でもそれを、認めたくなかった。

 だから、あんなひどい言葉を返してしまった。

 私って、なんて惨め。

 こうやって、思いきり水を被りたくもなる。

 そうすれば、気持ちが落ち着くような気がしたから。

 だが、効果は全くない。

 むしろ冷たい雨水は、ミミの心を追い詰めるように体温を奪っていく。

 何が『ミラージュ姫』だ。

 これなら、弟に見くびられても文句を言えない。

 何が王位継承だ。

 これでは父を見返せる所か、逆に笑われるだけだ。

 こんなの、受け入れたくない。

 そう思う自分が、余計に惨めに見えてくる――

「姫様!」

 ふと、深刻そうな声がして振り返る。

 フィンガーだ。もちろん、傘を差している。

「こんな時に傘を差さないなんて、どうしたんですか!? 風邪引いちゃいますよ!?」

 そうか。

 こんな土砂降りの中を傘も差さずに歩いていたら、誰だって心配するだろう。

「私の傘に入れてあげますから――」

 何も答えずに、ミミは駆け出した。

 フィンガーの事だ、口で断っても強引に押してくる。そう思ったから。

「姫様!」

 足が水を跳ねる音が、規則正しく響く。

 フィンガーの呼びかけも、やがて強い雨音の中へ消えて行った。


 部屋に戻ったミミは、ずぶ濡れの制服を全て脱ぎ捨て、シャワールームへ入った。

 自虐的に濡れた体を、癒やそうと思ったのかもしれない。

 先程とは真逆の暖かい水が、年頃の女性らしい曲線を描いた裸体を流れて行く。

 冷たくなっていた体は、次第に暖かさを取り戻していく。

 だがそれとは裏腹に、心は冷めたまま。

「どうして、どうして、私は――」

 力なく壁にもたれかかる。

 罪悪感が、ミミの心を傷つけ続ける。

 私って、なんて弱いんだろう。

 たった1つだけの事ができないだけで、足をすくわれるなんて。

 私だって王家の人間なんだから、人並み以上にできるはずって思っていたのに。

 これでは、王家の顔に泥を塗るようなもの。

 けど、受け入れたくない。

 受け入れたくない。

「ツルギ――」

 せめて、やれる所までやってみようとか、思わなかったのか?

 彼のその言葉は、無駄に前向きなストームのものと似ている。

 そう言われたのが悔しかった。

 彼は、完全にストームに感化されたのだろう。

 彼女のあの前向きさに、彼は惚れたのだろう。

 だから、こんな惨めな自分の事なんて、好きにならないだろう。

 もう、届かない。

 もう、追いつけない。

 チーターが言ったように、彼は自分よりもストームの方が大切なのだ。

 候補生としても、恋敵としても、私は負けた。

 受け入れたくない。

 受け入れたくない。

 受け入れたくない――!

「うわああああああああっ!」

 溜めに溜め込んだ感情が、シャワールームに響き渡る。

 足の力が抜け、ぺたんと膝が落ちる。

 泣き叫んだ末、得た結論は。

「こんな事になるなら――王女になんて生まれなければよかった……」

 自分の生まれは、思いの外不幸だったという事だった――

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