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セクション13:無責任

 着陸した時は、空を覆う雲がさらに暗さを増していた。

 空気も湿っぽくなっている辺り、間もなく雨が降るのだろう。

 そんな中、ツルギ達は格納庫内に集まり、フロスティから戦技テストの結果を報告された。

 とはいえ、内容が内容だっただけに、ある程度予想はできている。

 全員が重苦しい表情でフロスティを見つめている事からも、全員同じだという事が容易にわかる。

「残念だが、合格者はブラストチーム全員と、ミステールだけだ」

 フロスティが、失望したような声で単刀直入に報告した。

 ツルギの左隣に立つミミは、何も言わずに顔をうつむけた。

「やった! あたし達合格だよツルギ!」

「とはいえ、合格したからと言って安心するな。この合格は辛勝だ。合格ラインぎりぎりの所だったからな」

 喜ぶ右隣のストームを制止するように、フロスティは話を続ける。

「貴様らが合格できたのは、引き際をしっかりと見極め、撃墜されずに戻ってこられたからだ。任務遂行を強行して撃墜されていたら、問答無用で不合格としていた所だ。実戦で言う無駄死にを選ばずに戻ってきた点で、評価できたという事だ」

「つまり、いいとこ全然ないままやられちゃったアタイは当然不合格って事っすか……」

 肩を落としたチーターのつぶやきを聞いたフロスティは、節目するまでもないと言わんばかりに彼女を一瞥して、もう1人の不合格者に顔を向けた。

「問題は貴様だ、ミミ」

「は、はいっ」

 怯えているように、慌てて顔を上げるミミ。

「空中給油に失敗し、戦わずして不合格。これは、ファイターパイロット候補生として最大の屈辱だぞ。空中給油に失敗して作戦から離脱するなど、あってはならない事だ。空中給油の失敗は、時に作戦の遂行にさえ支障をきたす。実際の戦闘でも、味方の空中給油失敗でたった1機だけで敵地に飛び込む羽目になった例があるんだぞ」

「も、申し訳ありませんでした!」

「教官の俺に謝ってどうする」

「あ……」

 返す言葉を間違えてしまう辺り、ミミは余程動揺しているのだろう。

 それを見ているだけで、ツルギも自分自身の事のように胸が痛くなる。

「ともかく、脱落した奴らは追試だ。言っておくが、追試は最後のチャンスだぞ。落ちたらその時点でこのファインズ分校から出て行ってもらう。三度目はないからな。以上だ」

 フロスティはそう告げて、一同の前を去って行く。

 その途中、ふと思い出したように足を止め。

「悪運は今回も波乱の道へいざなうようだな、『キュクロプス』」

 ラームに横目で視線を送り、薄笑いを浮かべながらそんな事を告げた。

 驚きで目を見開くラーム。

 そんな彼女の反応など興味ないかのように、視線を戻しフロスティは去って行った。

「まあ気にすんなって。けが人が出た訳じゃないんだからさ」

 バズが、ラームの肩にそっと手を置く。

「そ、そうですね」

 すると、ラームもすぐに表情を緩めた。

 いつの間にか彼女に付けられたあだ名、『キュクロプス』。彼女のような隻眼の人間が不幸を呼ぶという古い伝承が発展したものだろう。

 とはいえ、心なしか以前ほど動揺はしていないように見える。以前オルト基地へ下りた時に、何かあったのだろうか。

 だが、問題はそんな事ではない。

「皆さん、申し訳ありませんでした……」

 いつになく弱々しい声で、ミミが一堂に謝った。

 その姿に、普段の王女としての可憐な雰囲気は感じられない。それだけ、彼女が落ち込んでいるという事なのだろう。

「私のせいで、戦技テストを散々な結果にしてしまって――」

「いやいや、あれは仕方ねえよ。切り替えて追試に挑むしかねえさ」

「そうだね。いつまでもくよくよしてはいられないよ、姫」

 バズとミステールに慰められるミミを、黙って見ていたツルギ。

 仕方ない?

 果たしてそれは、本当だろうか。

 確かに、自身の()()()()()()()()()()そう言えるかもしれないが――

「ほら、ツルギも何か言ってやれよ姫さんに」

 バズが催促してきた。

 その機会を利用して、ツルギはミミに問うた。

「ミミ、1つ聞いていいか?」

「……何ですか?」

「あの時――どうして制限時間いっぱいまで粘ろうとしなかったんだ?」

 その問いを聞いて、全員の視線がツルギに集まった。

「制限時間が迫った時、ミミの機体は割と安定しているように見えた。あのまま行けば、空中給油は成功できたように僕には見えたんだけど――どうして途中でやめちゃったんだ? 自信がなかったのか?」

「……」

 ミミは答えない。むしろ、さらに動揺の顔色を濃くしていく。

 ツルギも少し動揺したが、話を続ける。

「その、僕はそれが納得できなかったんだ。最後の最後であきらめて、逃げたようにしか見えなくて。何というか、ミミらしくないよ。せめて、やれる所までやってみようとか、思わなかったのか?」

「……!」

 ミミは何かをこらえるように顔をうつむける。

 そして。

「……私らしさって、何ですか?」

 逆に、ツルギへ問い返した。

「え?」

「私は、ツルギが思っているほど、強い人間ではありません……自分だけわかったような事を言わないでくださいっ!」

 ミミが我慢できないとばかりに、そう叫んだ。

「私だって、あんな事はしたくなかったですよ……でも、今まで1回も成功した事がないんですよ? 悔しいですけど、シーザーの言う通りなんですよ……!」

 言い訳をするように叫び続けるミミの頬を、何かが流れ落ちている。

「た、確かにそれは、そうだけど――」

「じゃあツルギは、今ここで車いすなしで立ってみろって言われて、できるんですか?」

「う……」

「できないでしょう……? なのに、できもしない事を最後までやり続けろなんて――無責任な事言わないでください!」

 自分の下半身不随に例えて言われると、ツルギも反論できない。

「そうだそうだ! 第一、姫様が失敗したのは、あんた達がお喋りしまくってたせいで集中できなかったからじゃないっすか?」

 さらに。

 意外にも、チーターがミミに助太刀した。

「ひ、人を惑わせておいて、自分の罪をなすり付けるなんて、卑怯っすよ! あんた、本当に姫様の事考えて行動したんすか? 結局姫様よりも、そっちの青い嵐の方が大事だって思ってるんじゃないんすか?」

「……っ!?」

 チーターの主張は、ツルギにとって大きな破壊力があった。

 確かにあの時、何気なくストームの問いに答えていたが、もしそれをミミが聞いてしまっていたとしたら――?

「やめないか。ここで口喧嘩しても、姫が合格になる訳じゃないんだ」

 ミステールが間に入り、仲裁する。

 これでようやく、場が静まり帰ったと思うと。

「……失礼しますっ!」

 ミミは、その場を駆け足で立ち去り、格納庫を飛び出してしまった。

「あっ、ちょっと!」

 ツルギの呼び止めも、まるで聞かずに。

「あーあ、見事に逆ギレされちまったな……」

 と、バズ。

「……それにしても、チーターが姫の肩を持つなんて意外だね」

「えっ!? そうっすか!?」

「何だか、言い分がフィンガーみたいに聞こえたから尚更だね」

「そ、そ、そんな事はないっすよ……」

 と、ミステールとチーター。

 そしてストームはというと、なぜか無言でミミが去って行った方向を見つめ続けていた。


 遠くで雷鳴が響き始める。

 やがて強い雨が降り始めるのに、そう時間はかからなかった――


 フライト2:終

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