セクション12:海軍登場
ストームがすぐさまエンジンパワーを落とすと同時に、ツルギがフレアを撒く。
アフターバーナーを焚いたままでは、フレアがうまく機能してくれない可能性があるからだ。
とはいえ、出力を落としてしまえばリミッターを解除した意味などなくなる。
旋回であっという間に速度を落としたウィ・ハブ・コントロール号に、ライトニングが追い付いてくる。
「なんのっ!」
出力を落としながらも、ストームは蛇行を繰り返し、前進を続ける。
その間、ツルギはハープーンのセッティングを行う。
レーダーは、既に船を捉えている。射程内に入りさえすればいつでも発射可能だ。
発射に備え、蛇行を止めるウィ・ハブ・コントロール号。
カウントダウンは既に始まっている。
射程に入るまで、あと――
「5、4、3、2、1――今だ!」
「ブラスト1、ミサイル発射――」
ストームが発射ボタンを押そうとした直後、ミサイル警報が鳴り響いた。
明らかに発射の隙を狙った攻撃。
さしもの2人も、ここは回避行動をとらざるを得なかった。
右旋回操作を行うストームと、フレアを散布するツルギ。
それから少し遅れて、ストームはようやく発射ボタンを押した。
右の主翼から投げ出されたハープーンが、エンジンを点火し飛んでいく。このエンジンはジェットエンジンであるため、ノズルから煙は出ない。
「へへん、どうだっ! もうミサイルは撃っちゃったから、あたしの勝ち!」
早くも勝利宣言をするストーム。
「いや――ダメだ」
だが、ツルギはすぐにそれを否定した。
気付いていたのだ。
映っているHUDの画面に、『OFF AXIS』という文字が表示されている事を。
「え?」
『そんな変な方向に撃ってたら、いくら何でも当たらないわねえ……』
フェザーが、ストームの疑問に答えた。
早い話が、目標に対して機首がずれすぎた。
いくらロックオンしていたとしても、直角近くも見当違いの方向に飛ばしていては元も子もない。
「そ、そんなの、まだわからないじゃない! ミサイルが実際に当たるまで――」
『こちらアルタイル。撃ったミサイルが一向に飛んで来ないぞ。一体どこへ撃ったのかね?』
ストームの主張も、アンネリーゼからの報告であえなく否定された。
う、と黙り込んでしまうストーム。
「なら、もう1回やればいいだけ!」
『残念だけど、2度目はないわ!』
ロックオン警報が鳴り響く。
ライトニングは、既にコックピットに座るフェザーの姿がうっすらと見えるほど間合いを詰めていた。
「しまった!」
この状態で機関砲射撃を浴びせられたら、よける事ができない。
さながら、額にピストルを突き付けられた状態。
『じゃあね、青い嵐ちゃん』
ライトニングからの見えない弾丸で、撃墜される覚悟を決めた瞬間。
『――ん!?』
何かに気付いたのか、急にライトニングは急旋回して離脱した。
予期せぬ命拾いに、何だ、とツルギは辺りを見回す。
「ツルギ、正面に何かいる!」
ストームが示した方向。
そこにいたのは、新たにやってきた1機の戦闘機。
機種はシーハリアー。海軍だ。
『いやっほおおおおおうっ! 海軍カレントチーム様のお通りやああっ!』
聞き覚えのある少女の声が、無線で響き渡る。
ビクセンだ。
彼女のシーハリアーは、一瞬でウィ・ハブ・コントロール号の横を通り過ぎた。
「リューリ!」
「海軍!? 援護に来てくれたのか!?」
しかし、戦技テストの途中で乱入とは珍しい。一体どういう風の吹き回しなのだろうか。
そう思っていると。
『こちらロック。勘違いするな。お前達はさっさと撤退しろ。後は僕達海軍が引き受ける』
今度はどこか傲慢な少年の声。シーザー王子だ。『ロック』が彼のTACネームらしい。
すると、新たにもう1機のシーハリアーが姿を現した。
翼下にハープーンとは別の対艦ミサイル――シーイーグルを搭載したそのシーハリアーは、少し離れた先で乱戦を繰り広げているバズ・ラーム機とミステール機の元へと向かっていく。
『ミサイル発射!』
ロック機が攻撃を開始すると、すぐさま戦闘中だった2機のタイガーが回避に入る。
そして、すぐさま発射主であるロック機へと向かっていく。その隙に、バズ・ラーム機とミステール機は離脱する事ができた。
ロック機も別方向へ離脱を計るが、すぐにタイガーに食いつかれてしまう。
『ロックに手を出すたあ、いい度胸やなあんたぁ!』
そこへ、ビクセン機が加勢してきた。
素早くロック機に気を取られているタイガーの1機の背後を取る。
『くらいな! ミサイル発射!』
すかさず入れたミサイル攻撃。
タイガーは気付くのが遅れて瞬く前に撃墜され、雲下へと消えて行く。
もう1機のタイガーも新手に気付いたらしく、慌てて離脱している。
『いい連携だぞ、ビクセン』
『おーきに、ロック! まだまだ行くで!』
それだけのやり取りを交わすと、ビクセン機は早速次の敵を迎え撃つべく旋回する。
見れば、ビクセン機にはシーイーグルが搭載されていない。搭載しているロック機の護衛に徹するという事だろうか。
『おい、助けてくれるのはありがたいが、無茶するな! 亜音速のシーハリアーじゃ空中戦に無理があるぞ!』
だが、バズの言う通りではある。
シーハリアーは音速を超える事ができない。戦闘機のほぼ全てが音速を出せる現代では、致命的にもなりかねない。
『何言うとるんや? シーハリアーだって、立派な戦闘機や!』
そうは言うものの、案の定、ビクセン機は格闘戦の末背後を取られてしまっている。
この状態では、加速して振り切る事はほぼ不可能だ。
『おい、援護した方がいいんじゃねえのか?』
『いや、その必要はないよ。彼女なら――』
バズをミステールが制止した直後。
『ふんっ、もらうで!』
ビクセン機は、驚くべき機動を行った。
側面のノズルを全て真下――いや、厳密には少し前に向けたのだ。
さらに機首を上げ、戦闘機のものとは思えない急減速が始まった。
言うなれば逆噴射だ。飛んでいる側から見れば、バックしているようにも見えるだろう。
『ぐぅぅぅ――っ!』
当然、急ブレーキをかければ体にかかる負担もまた大きい。
それに耐え抜き、急激に速度を落とした相手を、タイガーは簡単に追い越してしまった。
『今や! 機関砲発射!』
すかさず浴びせる機関砲射撃。
完全に不意を突かれたタイガーは、回避する間もなく撃墜されてしまった。
雲の下へ消えて行く最後のタイガーをよそに、再びノズルを後方に向け加速し始めるビクセン機。
『はあ、はあ、はあ、どやあ……っ! 見たかあ……っ!』
息を切らせながら、得意げに叫ぶビクセン。
何という機動なのか。
普段の彼女の姿からは想像もできない型破りな機動。
シーハリアーの強みを活かした、強引かつハイリスク・ハイリターンな機動。
並みのパイロットではできないそれを、彼女は平然と成したのだ。
『あの子、ヴィフィングを使いこなすなんて……面白いわ! これこそメイド・イン・UKの醍醐味ね!』
そこへ、最後に残ったライトニングが飛来してきた。
フェザーもどうやら、あの機動――ヴィフィングの事を知っているらしい。
『でも、メイド・イン・UK対決なら負けないわよ!』
『望む所や、デブっちょ戦闘機!』
興奮した様子で戦いを挑むフェザーと、それを正面から迎え撃つビクセン。
かくして2機の機動が絡み合い、イギリス製機同士の対決の幕が上がった。
『――アイス3より全機。これより、現空域より撤退する』
だが、それを見届ける暇はない。
せっかく味方が作ってくれたピンチを、無下にする訳にはいかない。ミステールもそう考えていたようだ。
「ええっ? 今ならもう1回攻撃できるんじゃない?」
『撤退するんだ』
「……ウィルコ」
ストームはしぶしぶ承諾すると、ウィ・ハブ・コントロール号を基地へ向かわせた。
他の2機も、それに続く。
『空軍は撤退したか。ふん、この勝負、俺の勝ちだな、フローラ』
その直前。
ロックが、そんな事をつぶやいたような気がした。
かくして、ブラストチームとアイスチームの期末戦技テストは、完全な失敗に終わった。




