セクション11:増援は稲妻のごとく
『しまった!』
「チーター、ブレイク!」
とっさに叫んだミステールとツルギであったが、時既に遅かった。
ライトニングから放たれた見えない弾丸は容赦なくチーター機を撃ち抜き、撃墜判定をもぎ取った。
『アイス4、撃墜されました!』
『そんな、やられた……』
潔く離脱していくチーター機を尻目に、一直線に上昇してブラストチーム編隊の上手を取るライトニング。
『あらあら、あっけないわねえ……「空では何が起こるかわからない。片時も油断するな」って教わらなかったかしら?』
緩い口調で、スルーズ空軍空戦10箇条の第9条を語る女性の声。
それは、今回の戦技テストの試験官たるフェザーのものだった。
『くそ、遂においでなすったか!』
『ええ、予告通りにおいでなすったわよ、バズ君。今からあなたが笑ったメイド・イン・UKの超音速戦闘機の力、とくと味わってもらうから覚悟しなさい!』
緩い口調のまま宣戦布告すると、急降下してブラストチームに向かってきた。
『ブレイク!』
とっさのラームの指示で、すぐさま編隊を解くブラストチーム。
名前に恥じぬ稲妻のごとき急降下が、編隊を真っ二つに引き裂く。
『させないよ!』
アイスチーム最後の生き残りとなったミステールが、ライトニングを迎え撃とうとしたが、突如鳴り響いたミサイル警報に遮られる。
とっさに回避運動をしたミステール機の元へやってきたのは、遅れてきた3機のタイガーだった。
その内の2機が、ミステール機に狙いを定めている。
『ち――っ、お前の相手はこっちだって事か!』
さしものミステールも、2対1の状況では防戦に回るしかない。
そして、残った1機はウィ・ハブ・コントロール号に狙いを定めて向かってくる。
鳴り響くロックオン警報。
ツルギはとっさに、フレアを散布した。
「もう1機来る! 応戦するぞストーム!」
「ウィルコ!」
直後、タイガーが真横を通り過ぎた。
一瞬の隙を突かれ、完全に分断された。
しかも、単純な数ではこちらが1機分不利。
ここは、予めされた指示通りに動くしかない。ツルギは急いで空対空戦闘の準備を整える。
ブラストチームは2対2の戦いとなったが、大型対艦ミサイルを搭載している以上、格闘戦は不可能だ。
かと言って、AMRAAMを撃つには肉薄されすぎている。
状況は、完全に教官軍に傾いたと言っていいだろう。
「わかってると思うけど、下手に格闘戦は挑めないからな!」
「それなら――!」
左旋回しながら、ストームがヘルメットのバイザーを下げる。
イーグルにとって、格闘戦を避けられる唯一の装備。それがこのJHMCSと、短距離ミサイルIRIS-Tだ。
この組み合わせなら、敵の背後につかなくとも、ストームが頭を敵へ向けただけでロックオンできる。
左上方に捉えたタイガーを見据えてロックオン。
「ミサイル発射! ばーん!」
見えないミサイルが発射される。
だが、相手もフレアを撒いてかわしてくる。そう簡単には落としてくれないようだ。
「まだまだっ!」
ストームが攻撃に専念する間、ツルギはバズ・ラーム機の状況に目を向けた。
「ラーム! そっちは無事か?」
『う、うん、何とか――』
『ちっ、上昇して振り切ってやる!』
『ダ、ダメです兄さん! そんな事しても――うっ!』
アフターバーナーを点火し、上昇して振り切ろうとするバズ・ラーム機。
パワーに優れるイーグルは、たとえ武装した状態であってもその上昇力を活かせば数世代古い戦闘機を余裕で振り切る事ができる――はずだった。
ライトニングは、その動きにそのままついて行ったが、ほとんど引き離される事なくバズ・ラーム機に追従する。
『な、ついて来てやがる!?』
『残念でしたー、上昇力じゃイーグルにだって負けてないのよ!』
相変わらずの緩い口調で自慢するフェザー。
バズが驚くのも無理はない。
ライトニングが生まれた時代は、ジェット戦闘機の機体性能を極限まで追求していた時期であった。
電子機器の性能がものを言う現代では不必要とされる領域まで達した部分もあり、その機体性能だけ見れば、現代の戦闘機にも勝るとも劣らないと言っても過言ではない。
『くそ、太っちょなくせにいい動きしやがる……あいつ本当に昔の戦闘機なのか?』
『ああ、素晴らしきかなメイド・イン・UK! これだからやめられないのよ!』
加えて機動性もそれなりによく、バズ・ラーム機は完全に翻弄されてしまっている。
緩い旋回を繰り返す機体の中で、ツルギは考える。
このままでは勝ち目がない。
かと言って自衛を優先して対艦ミサイルを捨てれば、その時点で対艦攻撃は阻止された事になり、事実上作戦失敗となる。
対艦攻撃を続行する術は、もはやないに等しいのか。
「今だっ! ミサイル発射! ばーん!」
ストームが何発目かわからないミサイルを発射。
それは見事命中し、ようやく目の前のタイガーを仕留める事ができた。
思いの外時間をかけてしまったのは、こちらが不利な状況で戦っている証拠だ。
『ブラスト1、敵機撃墜! ですがこのままでは――』
「く、何とかここを突破できれば――」
ピース・アイの言う通りだ。
どうする。中止か否かを判断するなら今の内だ。
だが。
「ツルギ、今から強行突破してみる!」
ストームが、あらぬ事を口にした。
「きょ、強行突破!? そんな事できる訳――」
「やってみなきゃわからないでしょ! VMAX、オン!」
ツルギの主張を無視して、ストームはエンジンのリミッターを解除した。
ディスプレイの表示に、音と共に点滅する『VMAX ON』の文字。
スロットルを押し込むと、アフターバーナーがはち切れんばかりに唸りを上げた。
通常以上の加速を始めたウィ・ハブ・コントロール号は、機首を下げると雲の上を這うように一気に空戦の場を離れて行く。
強引な戦法ではあるが、いかにもストームらしいものだった。
向かう先は、もちろん対艦ミサイルの発射ポイント。
「言ったでしょ? もし護衛がいなくなっても、あたしが何とかするって」
「ストーム……」
その言葉に偽りはなかった。
バイザーを上げてこちらに向ける空色の瞳は、あたしに任せてとツルギに告げている。
そう言われたら、何も文句を言えなくなる。
そうか。ストームの腕なら、もしかしたら――
「じゃ、ハープーンの準備して!」
「……ああ、わかった! せめて1発だけでも撃ってやろう!」
言われた通りに、ハープーンのセッティングを始めるツルギ。
ストームは、曲がりなりにも自分の命を預けているパートナーだ。彼女に助けられた戦いもいくつかある。そんな彼女を信じなくてどうするんだ。
このまま行けば、あと数秒で発射ポイントに着ける。なら――
『どさくさに紛れて、あなた達だけ抜け駆けかしら?』
だが。
その目論みは、フェザーに見抜かれていた。
ロックオン警報が鳴る。
いくらVMAXによる加速でも、放たれたミサイルまで振り切る事は不可能だ。
「あっ!?」
「まずい! よけろ!」
慌ててストームに指示した。




