セクション10:ミステールの戦い
『ブラストチーム、アイスチーム、こちらは無人偵察機アルタイルだ。対艦攻撃の命中確認はわらわが行う』
フリスト諸島上空に差しかかった頃、古風な英語を使う少女から通信が入った。
アンネリーゼ・バックハウス。
オルト分校にいる、UAVオペレーターの候補生だ。
今回の戦技テストでは、攻撃の成果確認という形で参加するらしい。
『今日もよろしく、アンネリーゼさん』
『……わらわはただカメラ越しに見るだけだ。期待しても何も起きぬぞ?』
ラームの挨拶に、アンネリーゼはどこか照れているような答えを返した。
以前の騒動でオルト基地に降り立って以来、ラームとは親しくなっているようだ。
『戦闘空域に到達しました。皆さん、作戦開始です! 2機足りない状況ですが、あきらめちゃダメです! がんばってくださいね!』
そして、ピース・アイがいつも通りの声で作戦開始を告げた。
『了解。チーター、位置について』
『了解っす。ミュージックオン』
編隊から離れているチーター機が、早速ケイモン電子戦ポッドによる電波妨害を開始。
いよいよ、本番たる対艦攻撃の始まりだ。
だが、ツルギは武装の準備をする中で、大きくため息をついてしまった。
『そう落ち込むなってツルギ。まだ姫さんには追試っていうチャンスがあるんだからさ』
バズの言葉は慰めにならない。
フィンガーの不参加に加え、ミミが脱落。
護衛機は事実上ミステール機1機のみ。
これで、戦技テストの攻略がますます困難なものになってしまったのだから。
『そうだとも。戦い方次第では、こちらにも勝機がある。そういう訳だから、いざという時は君達も空中戦に手を貸してもらうよ』
「ぼ、僕達が空中戦ですか?」
『大丈夫。格闘戦はやらせないから。視程外なら、君達も手が貸せるだろう?』
「まあ、そうですけど……」
「あたし達も空中戦やっていいの? やった!」
ストームは自分も空中戦ができると知って喜んでいるが、ツルギは真逆だった。
現在の装備のイーグルで、空中戦は不可能ではない。
だが、大型の対艦ミサイルを搭載している関係上、機動力はどうしても落ちてしまう。
そこで、4発搭載している視程外空対空ミサイル、AMRAAMの出番だ。懐に飛び込まれない範囲でなら、これを使って自力で応戦する事ができる。
だが逆に言えば、唯一の護衛もそれに頼らなければならないという事――
「つまり、『自分が守り切れる保証はないから、最低限自分で守れ』という事ですか?」
『……随分とマイナスな言い方だね。君は、私の実力を信用していないのかい?』
「いや、そういう訳ではないですが――」
本質を指摘しても、否定せず冷静に切り返すミステールには、さすがに返す言葉がなくなってしまう。
ミステールはこの状況を、動揺もせず冷静に受け止めている。
本当に成熟した人だな、とツルギは思った。ミミが信頼できるのも納得だ。
『警告! 正面から敵機の接近を確認しました!』
『おっと、お喋りしている時間はないようだね』
2人の議論は、ピース・アイからの報告で遮られた。
シチュエーション・ディスプレイ表示に切り替え、ピース・アイからのレーダー情報を確認する。
正面から向かってくる機影が、確かに映っている。数は4つ。
『4機か……これなら私だけでも対応できる。ブラストチームは発射ポイントへの飛行を続行して』
「りょ、了解!」
「なあんだ、結局副会長がやるのかー」
愚痴るストームを尻目に、ミステール機が加速してブラストチーム編隊の前に出た。
たった1機で、4機の相手をするのは無謀かもしれない。
だが、ミステール機にもまた、視程外空対空ミサイルを搭載している。
それが、胴体下に4発搭載したMICAだ。
『全機ロックオン! ミサイル発射!』
射程に入った途端、4発まとめて模擬発射。
これが実弾ならば、4発のミサイルが一斉に煙を吹きながら飛んでいく様を見る事ができただろう。
敵編隊も、発射に気付いたようだ。散開して回避を試みているのが、画面上で確認できる。
その内外側の2機に、ミサイルの軌跡が重なった。
『敵機2機撃墜を確認しました!』
『おおーっ! さすがは副会長! やるっすねー!』
ピース・アイの報告を聞いて、歓声を上げるチーター。
だが、まだ2機残っている。
ミサイルを回避した2機は、反撃に転じようとミステール機に向かってくる。
その機影が、肉眼でも確認できた。
細長いシルエットを持つその機体は、お馴染みのタイガーだ。
『敵機が2機向かってきます!』
『ありがとう。悪いけど、ムダ弾を使う気はないんでね――!』
ミステールもまた、堂々とこれに応戦する。
胴体下から花火のような火の玉――フレアを撒きながら、編隊に向かって矢のごとく高速で飛び込む。
1機のタイガーと真正面から向かい合うヘッドオンの状況になると。
『ガンファイトで行かせてもらうよ!』
機関砲射撃。
すぐさま機首上げ。
全てが一瞬の出来事だった。
タイガーと上下ですれ違った時には、既に勝敗は決していた。
『撃墜です!』
ピース・アイからの報告と共に、雲の下へと力なく落ちて行くタイガー。
対して、アフターバーナーを点火して上昇していくミステール機。
その光景は、まさに無駄のない流れ切りだった。
上昇して高度を稼いだミステール機は、左旋回して最後のタイガーに狙いを定める。
ミステール機を見失ったのか、その場を旋回して探している。
『もらった!』
位置エネルギーを利用した、猛禽のごとき急降下。
タイガーは、それに気付くのが僅かに遅かった。
『機関砲発射!』
上方から見えない弾丸を浴びせられ、落ちて行くタイガー。
かくして、敵部隊は全てミステール機1機によって退けられてしまった。
『ゲームセット! ウィナー、副会長! 素晴らしいです!』
『ひゃー、さすがっす副会長っ! 射撃はいつも正確っすねー!』
真っ先にピース・アイとチーターが歓声を上げた。
何という実力なのか。もしかしたら、ミミすら上回っているのかもしれない。
その力に、ツルギも含む誰もが目を奪われていた。
『すげえ、あれだけ時間をかけずに落とすなんて……』
『ドッグファイトは無駄に体力を消耗するだけ。空中戦は一撃離脱なんだよ。覚えておいて』
感心しているバズに、ミステールはそんなアドバイスを送った。
彼女の言葉は、古のエース達が揃って口にしている言葉だ。
先程の戦いぶりは、その言葉を教科書通りに証明するものだと言っていいだろう。
『とはいえ、これで終わってくれるといいんだけどね――』
だが、ふとミステールがそんな言葉を口にした直後。
『……あ! 警告! 敵の増援を確認しました!』
ピース・アイから、新たな警告が入った。
「増援? 今度はどこからだ?」
『方位050、下方! かなり接近しています!』
ピース・アイに促されつつ、ディスプレイを確認する。
新たな機影は、右側面にいた。数は同じく4機。
だが、妙な所があった。
『って、先頭の機体、かなり速い……!?』
ピース・アイが驚くのも当然。
リーダー機と思われる先頭の機体が、僚機達を置き去りにするほどの速さで向かってきているのだ。
この速さは、明らかにタイガーのものではない。なら、何だ?
そう思いつつ、右側の雲の下を注視する。
『どこっすか? 全然見えないっすよ?』
チーターがそんな事を言っていると、1機の機影が飛び出してきたのが見えた。
水面を跳ねるイルカのように飛び出してきたその速さに反して、ボディは魚のように太く、主翼はV字を描いている。
あれは――
「ライトニングだ!」
『へ!?』
ツルギの叫びに、声を裏返すチーター。
その無防備な姿を逃すまいと、ライトニングはチーター機の腹に突撃する。
警告音。
それでようやく、チーターは自身が狙われている事に気付いた。
『あ――』




