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セクション07:悪い想像

 向かい風が、やや強く吹いている。

 轟音が響く中、ブラストチームのイーグル編隊とアイスチームのミラージュ編隊が、ノズルから炎を伸ばし離陸していく。

 2機のイーグルの主翼下には、リハーサルと同じように大型対艦ミサイル・ハープーンが2発ある。だがこれは模擬弾ではなく、実際に発射可能な実弾だ。

 いつにも増して編隊は慎重に上昇し、厚い雲を突き抜け青空へと抜けた。

 その間、ストームは妙に静かだった。

 普段ならアクロバットなりして騒ぐはずなのだが、今日に限ってはやけにおとなしい。

「……なあ、ストーム」

「え、何?」

 ストームは少し驚いた様子で答えた。だが振り向きはしない。

「……妙におとなしいけど、大丈夫か?」

「え、そう? あたしは別に普通だけど?」

 何かをごまかすように答えるストーム。

 以前のように、また熱を隠して操縦でもされたら、たまったものではないと思い、念を押してツルギは言う。

「体調が悪いなら、早めに言ってくれよ」

「大丈夫大丈夫! ちょっと考え事してただけだから!」

 ちょっと考え事、か。

 そんな事をストームが言うのは珍しいな、とツルギは思った。彼女自身、悩みとはほぼ無縁な性格だと思っていた故に。

『どうも! 皆さん、お元気ですか? こちらは24時間いつもあなたを上から見守る早期警戒管制機、ピース・アイです! 今日はいよいよ戦技テストですね――って、あれ?』

 いつものように陽気なピース・アイの声が流れたと思いきや、急にすっとんきょうな声になった。

『あの――どうかしましたか姫様? かなり遅れていますけど?』

 いわれて、ツルギもはたと気付いた。

 イーグル編隊の右上を飛ぶミラージュ編隊の機数は2機。1機足りない。

 まさかと振り返ると、1機だけかなり後方で飛んでいるミラージュがいた。

『……大丈夫です、すぐに追いつきますから』

 その機体に乗るミミが、ぽつりと答えた。

『もしかして、機器に不調ですか?』

『……』

 ミミは黙り込んでしまう。

『今はそっとしておいた方がいいよ、ピース・アイ』

 代わりに、彼女を気遣うミステールが答えた。

 という事は訳ありですか、と一度はつぶやいたピース・アイだったが、詮索はせず、すぐに承諾した。

『わかりました。では、これより給油機への誘導を行います。そのままの進路で飛行を続けてくださいね』

 空気を読んだのか、声のトーンも若干抑えて言った後、ピース・アイが一旦静まった。

 妙にどんよりした空気が、編隊の中で漂う。

「……無理もないか」

 ツルギはそれだけつぶやく。

 直前の練習でも、空中給油を成功できなかったミミ。

 つまり、この先彼女が失敗しリタイアする事は誰の目にも見えているはずだ。

 空中給油機(タンカー)とランデブーした瞬間、彼女の運命は決せられる。

 さながら彼女は、給油機という名の処刑台に向かう囚人だった。

『みんな、悪い想像は止めよう』

 その想像を悟ったのか。

 ミステールが、落ち着いた声で告げた。

『悪い想像っていうのは、すればするほど現実になりやすくなるものだよ。余計な事は考えずに、いつも通りにやればいんだ』

「……うん、そうだよね。考えてもしょうがないもんね」

 ストームがうなずいた。

 確かにその通りだ。悪い想像ばかりしても、いい事は起こらない。

『そ、そんな事言われても――』

『わかったかい、姫』

『は、はい』

 さしものミミも、反論できなかった。

 こうやってフォローができるのは、さすが副会長と言うしかない。

『よーし! 最初の関門、幸先よく突破してやるっ!』

『とは言っても繊細な作業だから、力を入れすぎないようにね』

 早速声を上げて気合を入れるチーターと、それを窘めるミステール。

『聞いたか、ピース・アイちゃん! 出てきていいぞ!』

『え、そうですか? なら、こちらも平常運転に戻らせてもらいます!』

『ああ、俺もいつものピース・アイちゃんのトーク聞ける方が安心できるからな』

『そう言われると、照れちゃいますね……』

 バズとピース・アイも、そんな会話を繰り広げている。

 それを聞いたラームは、1つだけため息をつくと、望遠鏡を覗き込んだ。

『こちらブラスト2、正面に空中給油機(タンカー)発見』

 早速、ラームが報告した。

 正面に見える機影は大型旅客機――ではない。それを改造して作られた、空中給油機KC-30ボイジャーだ。

 尾部に装備された空中給油用のブームが、何よりの証拠。

 それを見ると、いよいよ戦技テストの本番が始まる事を実感できる。

 そして、ミミが脱落する未来も――

「ダメだダメだ」

 首を横に何度も振って、考えるのを止める。

 ここでミステールの言う通りにしないでどうする。

 気休めにしかならないかもしれないけど、不安で動けなくなるよりはよっぽどマシだ。

 もしかしたら、奇跡が起こるかもしれない。

 そんなマンガみたいな展開が本当にあると思ってるのか、と王子は言っていたけど、起きる可能性だってゼロじゃないじゃないか。

 そう考える事にして、ツルギは指示を出した。

「ストーム、行こう」

「ウィルコ!」

 ストームが元気よく答える。

『ではピース・アイよりトライスターへ、団体5機ごあんなーい!』

 ピース・アイの一声で、編隊は早速ランデブーを開始した。相変わらず、ミミ機が遅れたままで。

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