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セクション06:卑怯です

 翌日。

 遂に、合同戦技テストの当日がやってきた。

 この初日にテストを受けるツルギは、いつものように更衣室で装備を整える。

「これでよし、と」

 ヘルメットや耐Gスーツにおかしな所はないか、改めて確認してから更衣室を出る。

 直後、同じく準備をと整えたばかりのミミが視界に入った。

 こちらに気付いていないのか、顔をうつむけたまま目の前を通り過ぎて行く。

 相変わらず、その足取りは重い。

 ツルギは少し迷ったが、思い切って声をかけてみる事にした。

「ミミ」

 ミミの足が止まる。

 その視線が、肩越しにゆっくりとツルギに向いた。

 視線が合った途端、何を言ったらいいのか、わからなくなってしまうツルギ。

「あ、えっと、その――」

「……な、何か御用ですか?」

 かける言葉に迷っている間に、ミミが疑い深く目を細める。

 あの時の誤解は、未だに解けていない。それが、迷った理由だ。

「……その、体調、大丈夫かなって――」

 とっさに思いついた事を言うツルギ。

 すると、ミミが少しだけ目を開いたような気がしたが、すぐに視線を逸らしてしまい、結局わからなかった。

「ご、ご心配なく。その点につきましては、問題ありませんから」

「そ、そうか」

 そのまま、会話が止まってしまった。

 妙に気まずい空気が、2人を包む。

 このせいもあってか、どうも気の利いた言葉が浮かばない。

 そういえば、ミミと知り合ったばかりの頃もこんな感じだったな、と思い出す。

「……ま、まだ何か御用があるのですか?」

 先に口を開いたのはミミだった。

 どうやら、気まずい空気に耐えられなくなったのは向こうも同じらしい。

「い、いや! もうないよ! じゃ!」

 ツルギは逃げるように、車いすを180度反転させる。

 が、不意にハンドルを握られて、車いすを動かす事ができなくなってしまった。

「……卑怯です、ツルギ」

 つぶやくようなミミの声が、深々と突き刺さる。

 思わず、振り返るツルギ。

 ミミは深く目を伏せていて、表情をうかがい知る事ができない。

「こんな時だけ、私を慰めようとするなんて……」

「な、慰めるなんて、そんな――」

「もう一緒に飛べるのは、()()()()()()()()()()()のに……」

「え……!?」

 ツルギが驚いた直後、ミミは流れるような金髪を翻す。

 なぜか、その時泣いているように見えた気がした。

 ツルギに背を向けて、ミミは廊下を走り去っていく。

「ちょっと――!」

 思わず、車いすを反転させて追おうとしたが、思い止まった。

 今の僕に、ミミを止める資格なんてあるか?

 不意に浮かんだその問いに、答える事ができなかったから。

 はあ、とため息をつき、ツルギは車いすをゆっくりと動かす。

 今の自分のパートナーである、ストームの元へ向かうために。


 外は、どんよりとした厚い雲に覆われている。

 朝の天気予報によると、夕方から夜にかけて強い雨となるらしいが、影響はないとして戦技テストは予定通りの日程で行われるとの事だ。

 広い駐機場(エプロン)にストームの姿はない――と思ったら、近くの格納庫の陰にいた。

 あんな所で何してるんだ、と思いつつツルギは声をかけようと車いすを進めたが、ストームと以外にも誰かいる事に気付き、思わず車いすを止めた。

 フィンガーだ。

 ミミと同じチームなはずの彼女は、なぜかフライトスーツ姿ではなく制服姿。

 いや、それよりも気になったのは。

「何話してるんだ……?」

 ほとんど接点がない2人が、何か話している事。

 離れているので話の内容は聞き取れないが、フィンガーはやけに真剣な表情を、そしてストームは少し動揺しているような表情をしている。

 にやり、と薄笑いを浮かべたフィンガーは、最後に何か言った後、ストームの前から去っていく。

 ぽかんとした様子で、ただ立ちすくんでいるストーム。

「……」

 その様子を見ていると、なぜか見てはいけないものを見てしまったかのような錯覚がする。

 とはいえ、パートナーである以上、黙って通り過ぎる事はできない。

 ツルギはなるべくいつも通りに装い、ストームに近づいた。

「ストーム、こんな所で何してたんだ?」

「へっ!?」

 余程心ここにあらずな状態だったのか、変に裏返った声を出して振り返るストーム。

「フィンガーと話してたみたいだけど――」

「あ――そうだよ、ちょっとだけね」

 なぜか目を逸らしながら答えるストーム。

 いつものストームらしくない。何かを隠しているのだろうか。

 ツルギはもう少し話を聞いてみようとしたが。

「じゃ、行こっ!」

「あっ、ちょっと!」

 ストームは一方的に話を切ると、素早くツルギの背後に回り込み、車いすを押し始めた。

「さっきは、何の話してたんだよ?」

「別にー」

 改めて聞いてみても、はぐらかされるだけ。

 やはり女同士の会話に首を突っ込むのはよくないと考えたツルギは、結局それ以上追及するのを止める事にした。


 かくして、ブラストチームとアイスチームの面々は、駐機してあるミラージュの前に集まった。これから行う戦技テストの作戦会議のためだ。

 向かい合う、ブラストチームの4人とアイスチームの3人――1人足りない。

「みんな、こんな時間にも関わらず集まってくれてありがとう。早速これから作戦を説明――したい所だけど、1つだけ知らせなきゃいけない事がある。フィンガーは、今回の戦技テストを欠席する」

 ミステールの報告に、ブラストチームの誰もが衝撃を受けた――ストームを除いては。

「欠席って、どういう事ですか?」

「昨日背中を思い切り打ってケガをしたらしくてね。未だに痛むという事でドクターストップがかかったんだ」

 ツルギの質問に、あくまでも冷静に答えるミステール。

 背中を打った。

 恐らく、ビクセンに体当たりされた事によるものだろう。

 重力の何倍もの力がかかる状況下では、未だ塞がっていない傷に悪影響を及ぼす可能性がある。それ故のドクターストップなのだろう。

「つまり、私達は1機少ない状態で戦技テストに挑まなきゃならない。とは言っても、目標である船への攻撃さえ成功させれば問題ない。そのためには、何も立ちはだかる敵を殲滅する必要なんてどこにもないって事を、覚えておいて欲しい。じゃ、作戦を説明するけど――」

「1つ質問していいか、副会長?」

 と、バズが急に手を上げた。

「何だい?」

「普通、この場面なら仕切るのは姫さんがするべきだと思うんだが――」

 それは、ツルギもそう言えば、とうなずける質問だった。

 アイスチームのリーダーはミミだ。本来なら2つのチームを率いるのは彼女の役目。中間合同戦技テストの時も、彼女が作戦を説明する立場になっていた。

 だが、今彼女はミステールの右隣に立っているだけで何も発言していない。

 その理由は、何となくではあるが想像がついた。

 今こそ平常を装っているが、まさかミミは説明もできないほど心理的に――

「こう見えても私は最年長なんだけどね。そんな私が仕切るのが不服なのかい?」

「いや、そういう訳じゃなくて……」

 ミステールは冷静に答えている間、ツルギはふと誰かの視線を感じた。

 その正体は、ミステールの左隣に立つチーターだった。

 まるで、何かを気にしているようにちらちらと見ていたが、ツルギと目が合った途端、すぐ気まずそうに視線を外してしまった。

 一体どうしたんだ、とツルギは思ったが。

「では、改めて作戦を説明しよう」

 ミステールが本題に入ったため、それ以上考える事ができなかった。

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