セクション04:とっておきの太っちょ戦闘機
「……で、その試験官とっておきの戦闘機がここにあると?」
「ええ、だから娘・息子達にも見せてあげようって思って」
夕方。
ツルギ達は、ゼノビアの案内で駐機場にやってきていた。
空は曇り始めていて、茜色の空は残念ながら見られない。
それでも、整備士達はせっせとメンテナンス作業を続けている。
「どんな戦闘機なのかな? イギリス製だって言ってたけど――」
「タイガーシャークなんて持ってるヘルヴォルだから、相当なレアものだぜ、きっと」
車いすを押すストームが、バズとそんなやり取りをしている。
そんな時、空からジェットエンジンの音が聞こえてきた。
ふと空を見上げると、2機のミラージュの編隊だった。基地の左側――つまり北西側から滑走路に平行する形で、まっすぐ飛んでくる。
2機共、大型の増加燃料タンク――増漕を主翼から下げており、どうやら実習帰りのようだ。
しかし、2番機には他にも胴体下に何か装備している。
それは、一見すると小さな増漕のように見えるが、あまり見かけない装備だ。
「あれは――」
すると、先頭の編隊が編隊から離れて右旋回。2番機も少し間を開けてから続く。
着陸のための進入方法の1つ、オーバーヘッド・アプローチだ。
あの編隊は、まもなく着陸するのだろう。
「ほら、あれよ」
と、ゼノビアの声でツルギは顔を戻す。
足を止めている彼女が指差す先。
そこにあったのは――
「……え? あれ?」
と、声を裏返すストーム。
他の3人も、見た途端に一瞬、言葉を失った。
その機体は、あまりにもスマートとは言い難いものだったのだ。
ノズルをイーグルのように横ではなく縦に並べた胴体は、まるまると太っている。腹から出っ張っている巨大な燃料タンクが、さらにそれを際立たせている。
その姿は、鳥というより腹に卵を抱えた魚を連想させた。
「あっはははははははは! 何だコイツ!? こんなんで音速超えられるのかよ!?」
途端、バズが腹を抱えて大笑いし始めた。
すぐさま、ラームが指摘する。
「何言ってるんですか兄さん! あれはライトニングです! イギリス初の超音速戦闘機ですよ!」
「超音速戦闘機? 本当かよ! しかも増漕、翼の上に付けるとかありえねーだろ!」
バズは主翼を指差しながら笑い続ける。
見れば、Vの字を描くほどきつく後退した主翼には、本来ぶら下がっているべき増漕が上に乗っかる形でついている。
現代から見れば、あまりにも常軌を逸脱した装備の仕方だ。地上から搭載しにくいのはもちろん、いざという時に投下もできないのだから。
「ひどい言いようね。超音速時代の黎明期に生まれたから、まだ今みたいなスタイルが確立していなかっただけよ。そんな事言ったらイギリス人に殺されるわよ?」
「にしたって、これはないですよゼノビアさん! いやー、こんなの平気で作って乗るイギリス人の顔が見てみたいもんだぜ! ははははは!」
ゼノビアに忠告されても、まだ笑うのを止めないバズ。
すると。
「なら、お見せしてあげましょうか?」
いつの間にかバズの背後に現れた人影が、緩い声を発した。
バズは驚いて振り向く。
そこにいたのは。
「フェ、フェザー教官!?」
「私、生まれも育ちもイギリスですから、文句があるなら受け付けますよ?」
緩い笑みを浮かべている、フェザーであった。
それが、逆に怖く見えるのは気のせいだろうか。
「あ、あの、こんな所で、何してらっしゃったんですか?」
「どこからともなくメイド・イン・UKの戦闘機を見て笑った輩がいたものですから、飛んできただけですよ」
じりっ、と一歩バズに歩み寄るフェザー。
彼女を目の前にして、バズは蛇ににらまれた蛙のごとく硬直してしまっている。
「いえ、それは、とんでもないです……」
「先程、あのスタイルはありえねー、とおっしゃいましたね?」
「あ、はい……」
「あれには合理的な理由があるんですよ? 胴体を細くして空気抵抗を減らせる、というね」
「は、はい」
「後、翼の上の増漕ですが、あれは脚が主翼を占領している関係で他に付ける場所がなかったからなんですよ」
「は、はい」
何も反論できず、フェザーの言葉にうなずく事しかできないバズ。
「全てのものには理由がある、という事を覚えてくださいね」
「いや、それはわかりますが、だからって、ああいう発想はいかがなものかと――」
「あらあら? それだけ発想が独創的という事なんですよ?」
バズの余計な指摘で、さらにフェザーの顔が近づく。
「スルーズ空軍を志すあなたなら知っているでしょう、かつて運用されていたイギリス製の軽輸送機スカイバンを? あれだって貨物を積み込みやすくするために、胴体断面を普通なら丸くする所をきれーいな四角にしてるんですよ? だから空軍でも長く重宝されたのではなくって?」
「そ、そうだったんですか……」
「それがメイド・イン・UKクオリティというものなんです。という訳で、あなたにはこのライトニングという戦闘機がいかに独創的かつ素晴らしいものであったか、1時間半じっくり教えてあげましょうね……!」
すると、フェザーはバズの襟元を掴み、どこかへ連れ出そうと引っ張り始めた。
「そ、それは結構です! お断りします! 自分にだって時間というものが――!」
「教官の命令は絶対よ?」
「し、しかし――!」
2人の姿が、格納庫の陰へと消えて行く。
それを、残った4人はただ唖然と見送るしかなかった。
「……ま、娘・息子達も、このライトニングをなめてかからない方がいいわよ?」
「ですね」
ゼノビアの忠告に、そう答えるしかないツルギ。
「じゃ、もっと近くで見てみよっか! 研究研究!」
「うん」
ストームとラームが、我先にとライトニングの元へ向かっていく。
ツルギもそんな2人の後を追おうとしたが、直後に響き始めたエンジン音で車いすを動かす手を止めた。
先程着陸してきたミラージュが、駐機場へやってきたのだ。
何気なくそれを見ていたツルギであったが、ふとある事に気付いた。
先頭を行く1番機のパイロットのヘルメットは、紫。
しかもその下から、長い金髪が伸びている。
という事は――
「乗ってるのは――ミミなのか?」




