セクション03:期末テスト始まる
遂に、期末テストの当日がやってきた。
まず行われるのは、筆記テスト。これまでの勉強の成果が試されるだけあって、生徒の誰もが真剣な眼差しで問題用紙をにらむ。
静かな教室の中で、ひたすら鉛筆が走る音だけが響く。
「……」
ツルギもまた、問題の答えを埋めていく一方、隣のパートナーの事が次第に気になってきていた。
やけに静かだ。
前回のように「うーん」と声に出して悩まないだけまだいいが、逆に静かだと返って気になるのはなぜだろうか。
変な誤解をされないように、そっと横目でストームを流し見た――のだが。
(ね、寝てる……!?)
テストの事を忘れたかのように、堂々と机に伏せて寝ているストームの姿に、目を疑ってしまった。
ツルギでさえ、まだ全問解き終わっていない状態でこの有様。
せっかくこれまで教えてあげた勉強は何だったんだ、とショックを抱いてしまう。
筆記テストでパートナーが落第してしまったら、他人事ではなくなる。
起こしてあげたいとは思うが、テストの解答中に席を立ってそんな事はできない。
どうしたものか、ともどかしさに頭を抱えていると。
「カンニングは、もっとこそこそとやるものじゃないのか?」
突然目の前に現れた気配と共に、そんな冷たい声が。
顔を上げると、冷たい目でこちらを見下ろすフロスティの姿が。
「い、いえ! とんでもありません!」
ツルギは慌てて顔を戻し、テストの回答に戻った。
運よくカンニング判定される事はなかったが、ツルギは時間終了まで寝ているストームの姿が気がかりだった。
筆記テストが終わり、戦技テストの説明のため体育館に生徒達が集まった。
「え? 全部解き終わったから寝てただけだけど?」
そこで、席に座ってから本人に聞いた所、ストームは予想外の答えを返した。
「……へ?」
「出てきた問題、ぜーんぶツルギと一緒に勉強した所だったもん! あたしもびっくりしちゃったくらい、あっという間に解けちゃったんだ! だから残った時間寝てようって決めたの!」
「な、何だ、そうだったのか……」
確かに、教えていたのはツルギが前年度受けたテストの過去問に関する部分だったので、ちゃんと成果は出ていた事になる。
自分の想像はただの杞憂だったのかと知って一安心した一方、いらない心配をしていた自分が恥ずかしくなる。
それでも、念のために聞いてみる。
「でも、僕が全部解き終わる前から寝ちゃってじゃないか。本当に大丈夫なのか?」
「大丈夫大丈夫! これも全部、ツルギのおかげだよ! ありがとツルギ!」
「……!」
ストームはお礼とばかりに、素早く唇を重ね合わせた。
完全な不意打ち。ツルギは抵抗する間もなかった。
「次の戦技テストも、がんばろうね!」
唇を離すと、空色の瞳が曇りなく輝いていた。
そんな瞳で見つめられると、何も文句を言えなくなってしまう。
ストームの隣のラームも含む、周りからの視線が集まっているにも関わらず。
その中には、冷たい視線を送るミミの姿もある。
「あ、ああ……」
ツルギは顔を逸らしつつ、そう答える。
全く、油断も隙もない。気を抜くと人前でもすぐにこうだ。
それより、どうしてストームはこんなにも自分を疑わないんだ。
そんな事を思いながら。
「全員、起立!」
直後、号令が響いた。
下半身不随のツルギを除き、全員が一斉に姿勢を正して立ち上がる。
やがて、ステージに1人の女性が姿を現す。茶色の髪を肩にかかる程度に伸ばしており、年齢はファングやフロスティと同じくらいだろうか。
着席の指示がされ、全員が席に座る。
「はい、皆さん筆記テストお疲れ様でしたー。調子はどうだったかしら? よかった人も悪かった人も、明日から始まる戦技テスト、がんばっていきましょうねー。私は今回の期末戦技テストの試験官を務める、ポーラ・アバークロンビーよ。フェザーって呼んでね」
どこか緩い口調と表情で、女性は説明を始めた。
「では、始めましょう。今回の試験内容は上空援護も含めた対艦攻撃よ。もうリハーサルでしつこーくやってるだろうから手順は省くけど、変わっている所もいくつかあるわ。まず、場所はエリアC付近の海上。間違ってもリハーサルでやった場所に飛んで行かないようにね。次に、対艦ミサイルは実弾を使用、目標には海軍から退役したフリゲート艦を使用するわ」
スクリーンに映し出される地図。
そこに添付されている写真には、かつてスルーズ海軍が使用していたフリゲート艦が映っていた。
旧式化し退役した兵器を訓練の標的にするのは、軍事の世界ではよくある事だ。
「つまり、実際に船を撃って沈めるって事なんだ……! 燃えてくるなあ……!」
ストームは両手をぐっと握りながら話を聞いている。
「そして、ここが大事。攻撃に向かう前に、必ず空中給油を行うわ。さすがに燃料は全員分確保できないから模擬の給油になるけど、制限時間内にできなかったら、その時点でテスト終了、帰ってもらうわ。だからってサボって目標へ特急運転しないように。もし無視して続行しようとしたら、戦技テストの得点は0点だから、覚えておく事!」
空中給油。
リハーサルでは行わなかったそれが、一番の不安要素だ。
何せチームには、空中給油を苦手としている人物が1人いる。
その人物――ミミの様子を見てみると、不安なのか表情が強ばっているのが見えた。
「あ、そうそう。仮想敵機としては試験官の私ももちろん参加するわ。イギリス生まれのとっておきの戦闘機でお相手してあげるから、しっかり準備をしておく事。以上!」
そして、最後に。
フェザーはどこか得意げに、そんな事を言った。




