セクション02:王家の真実
「まあ、異性の兄弟って言うのは、元々そんなもんだぜ? 仲がいい方が珍しいくらいだ」
「そやけど、あれはどう見ても度を超えてたで?」
バズの説明は、あっさりと退けられてしまった。
「無理もない。向こうからすれば、ミミ――いや、姫様は王位継承にいちゃもんをつけてきた奴だからな」
代わりに、ツルギが説明した。わかりやすくするために、あえて『姫様』という呼び方を使って。
え、とビクセンがツルギに顔を向ける。
「王位継承権は男に優先されるって話、知ってるだろう? だから第一子でも姫様にはなくて、弟の王子にある。でも姫様は、それを良しとしなかったんだ。女の自分にも、王位を継承する資格はあるはずだって、訴えたんだ」
「……女なのに王家継承権を訴えるなんて――なして?」
「……ストーム。入学式の時ミミがスピーチした事、覚えてるか?」
そこで、隣のストームに話を振る。
「え? そんなの、もう覚えてないよー!」
が。
予想外の返答に、ツルギは危うく倒れそうになった。
それから、あの時ストームはスピーチを真剣に聞いていなかった事を思い出し、彼女に聞いた自分が間違いだったと少し後悔した。
「確か、『私には夢があります。それは、この国の王位を継ぎ、この国を統治する事です』だったっけ……」
代わりに答えたのは、ラームだった。
その言葉こそが、ビクセンへの答えだった。
「つまり、自分から王になろうとしてるっちゅう事?」
「……そうだね。小さい頃から、絵本に出てくるような女王様に憧れていたみたいだし」
咳払いをしてから、ツルギは説明を続ける。
「そういえば、『見た目ばかりで中身のない弟ばかりひいきして』って事も言ってたような――」
「な、中身がないなんて――!」
ラームが思い出した言葉に、信じられないとばかりに声を上げるビクセン。
「少なくとも、自分は王子よりも王としての資質はあるはずだ、とは思っているようだよ」
「なるほど、弟さんへの対抗心って訳か……そりゃ仲が悪くなる訳だ。ま、その気持ち、わからなくもないがな」
バズが腕を組みながらつぶやく。
「王子に限った話じゃない。王家の方だって、掟に背いてまで王位継承を主張する姫様を見て、いい気持ちはしない。そういう意味で、姫様は父さんである国王陛下とも前から仲が悪くて、親子関係は冷え切っていたらしいんだ。だからこの航空学園に入って、自分が王にふさわしい人間である事を証明しようとしているんだ。国王陛下さえうなずかせれば、王になれるからね」
スルーズ王国は、現代では数少ない絶対王政の国。国王が常に絶対的な権限を有している。
そのため、国民に王を選ぶ権利はない。
いくら国民を味方につけた所で、選挙をする事はできない。
現国王が拒否権を発動すれば、それだけで終わり。
だから、ミミは父である国王を自らの力で説き伏せる必要がある。
ある意味、孤独な戦いだ。
ミミは身内に味方がいないまま、強大な権力を有する父と今も戦っているのだ。
「でも、うまく行けるかどうかは、まだわからない。国王陛下が航空学園への入学を許したのも、家から追い出したかったからじゃないかって言われてるそうだし……ある意味これは、スルーズの将来に関わる重大な問題だよ」
「へー、そうなんだー」
さも他人事のように話を聞いているストーム。
「詳しいんだね、ツルギ君。そんな話、テレビでも聞いた事ないけど?」
「そりゃそうだ。何だってツルギは、姫さんに惚れられた男だからな」
「あ――!」
バズとラームのやり取りを聞いて、ツルギは初めて自分が言ってしまった事に気付いた。
王位継承に関するミミと王家の間柄は、マスコミでも報道されていない情報だ。
以前、ミミから直接聞いたそれを、うっかり口走ってしまった。
ストームの視線が、少しだけ気になる。
「心配すんな。こんな話が広まったら大変だって事くらい俺でもわかるさ。そういう訳で、この話はオフレコで頼むな」
バズが言っても、どうも信用できないのは気のせいか。
ともあれ、食堂の奥の席で会話していたのは幸運だった。これなら、耳にしてしまった人もほとんどいないだろう。
一方、ビクセンは少し顔をうつむけて黙っている。
「どうした?」
バズが顔を覗き込んだ時。
「……そんなん、自分勝手なだけやん」
ビクセンは、率直な感想を口にした。
自分勝手。
以前、同じ事を言った事があるツルギは、少しだけ驚いた。
「シーザー様より資質があるなんて勝手に言い出したから、問題起こしてるんちゃう? そもそも、何を根拠にシーザー様より資質があるなんて言うてるんや? ウチには、ただ嫉妬してるようにしか聞こえへんかったけど?」
顔を上げたビクセンの視線は、妙に鋭かった。
再び、内気ではない姿に戻り始めている。
態度の変わりように、ツルギは追いつけない。
「いや、それは――」
「あんな、シーザー様に殴りかかるような人が、シーザー様より資質あるなんて思えへん。シーザー様ならあんな事せえへん」
「あ、あれは、変に挑発的だった向こうにも非があると思うけど……」
「『向こう』っちゅう事は、ツルギは姫様の肩を持つんやね。惚れられたから?」
ビクセンの声が、敵意を帯び始める。
その鋭さに、ツルギは怯んでしまう。
「でも、ウチはシーザー様を信じる。姫様があんな人なら、嫌う理由もわかる気してきたから」
ほなこれで、とビクセンはトレーを持って席を立つ。
もう話す事はない、と言わんばかりに。
最後に。
「エイミー、こんな男と縁切った方いいで。あんただけじゃなくて姫様にも気あるみたいだから、その内浮気されるんちゃう?」
ビクセンはそんな不吉な事を言い残して、一行の前を後にした。
「えっ、ちょっとリューリ!」
戸惑うストームも、まるで無視して。
一方のツルギは、ビクセンの最後の言葉が的確すぎて、何も反論できなかった。
自分はストームだけでなく、ミミにも肩入れしている。
どちらの味方なのかは、今もはっきりしないまま――
「……僕も、そろそろ席を外すよ」
「えっ!? これから一緒にテニスやるんじゃないのツルギ!?」
「ごめん、ストーム。今はその気になれそうにない」
ツルギもまた、力なく車いすを動かしてその場を後にしたのだった。
戸惑うストームを、置いたままで。




