セクション01:空母は永久に不滅
・フライト1までのあらすじ
期末テストが迫る中、ツルギはミミから生徒会副会長に推薦された。しかしその時、彼女から自分とのはっきりしない関係を指摘され、ツルギは思い悩むようになる。ミミはツルギが初めて告白された相手であり、今の恋人ストームは彼女の代わりなのではないかと。
フィンガーの介入によって、2人の関係はさらにギクシャクしていく。そのまま始まる、期末戦技テストのリハーサル。無事にそれを終えた時、海軍からの来客があった。彼こそ、ミミの弟にして正当なる王位継承者、シーザー・ロイ・スルーズであった……
「そや! スルーズの空母は永久に不滅なんやで!」
夕方の食堂。
フォークをぐっと握りつつ、ビクセンが力説した。
「かの世界大戦の後、海軍はんは広い海や植民地をを守る力としてイギリスから空母を買ったんや。その名も『ランドグリーズ』。ずーっと欲しかった夢の空母。それはそれは頼れる戦力となったんやで。独立戦争中のカイランで抑止力として機能したくらいや。けど空母のコストはどんどん上がっていくばかり。カタパルトを取っ払ってハリアー空母に改装したのも空しく、21世紀に入って、遂に2代目の空母『レギンレイブ』は退役してしもうたんや……しかも、後継になる空母の目途も経たないままで……空母不在の暗黒時代の始まりや。シーハリアー部隊は取り残されてしもうて、イギリスで明日使えるかどうかわからない洋上訓練を続ける日々……いつ解散してもおかしくない状態だったんやで……せやけど! そんな海軍はんの救世主になってくれたのが、スペインから買った新たな空母『サングリーズ』なんや! このサングリーズは――」
「あの、途中で悪いけどビクセン」
まるで物語を語るように続けるビクセンに、向かい側のツルギが首を突っ込む。
「サングリーズは『空母』じゃなくて、『強襲揚陸艦』なんだけど……」
「あ」
そうだった、とばかりに目を見開くビクセン。
「そ、そ、そやけど! 空母も強襲揚陸艦も似たようなもんやないかーっ!」
「実際はかなり違うけど……」
フォークを握ったまま拗ねるように反論するビクセンを見て、隣のラームがつぶやいた。
空母と強襲揚陸艦。
広い甲板で航空機を運用できるのはどちらも同じだが、その目的は全く異なる。
純粋な航空戦力の運用に特化したのが空母なのに対し、強襲揚陸艦は上陸作戦の支援を目的としている。
そのため、強襲揚陸艦は兵員を敵地に上陸させる能力を持ち、航空戦力も上陸作戦を支援できるヘリコプターがメインとなっているのだ。
とはいえ、スルーズ海軍に新たに配備されたサングリーズは、シーハリアーを運用できる軽空母としての性格も有しているとの事なので、ビクセンの言い分もわからなくはないが。
「リューリって本当に空母が好きだね!」
「そ、そや! あの広ーい甲板の上から、力強く飛び立つジェット機……ウチももう少しで、その一部になれるんやで……! ああ、いつか必ずあの上で寝っ転がるんや……!」
ファーストネームで呼ぶ友人ストームを前にして、目をキラキラと輝かせるビクセン。
その姿には、普段の内気さが感じられず、飛んでいる時に近い。
彼女の空母への思いは、本物なのだろう。それを夢としているからには。
「確か、航空学園海軍分校の戦闘機科も、サングリーズ導入が決まるまで寂れていたんだよな?」
ラームの隣に座るバズが、ビクセンに問いかける。
「そや。いつ消えるかわからへん海軍の戦闘機部隊になんて、誰も見向きせえへんから。そもそもなくなるんやないかって思ってた人もおったっぽいしな」
スルーズ空軍航空学園は、海軍や陸軍のパイロットも養成している。
本校の中等部での共通カリキュラムを終えると、海軍・陸軍それぞれの分校へ行って専門的な教育を行う仕組みだ。
ストームとビクセンは、そんな中等部時代の友人だったという。
ちなみに、海軍・陸軍の分校はそれぞれ1つしかない。海軍・陸軍の航空戦力は、空軍に比べると少なく、それに比例したのだ。
「でも、メンツを保てたのはサングリーズ配備のおかげや。それに、シーザー様も来てくださったし――」
シーザー様。
ビクセンからその名前が口に出た直後。
『シーザー王子は、スルーズ空軍航空学園海軍分校にて、日夜戦闘機に乗り訓練に励んでおられます』
テレビから、同じ名前を呼ぶナレーションが聞こえ、一同は食堂のテレビに顔を向けた。
偶然か、映っているテレビ番組では王子の特集が流れていた。
テロップには、『ハリアー王子』という英文。
シーハリアーのコックピットの中から、カメラに向かって見得を切る王子。
彼が乗ったシーハリアーが、軽やかに飛び立っていく光景。
全ては、国を守るための覚悟を養うための試練だと語る、ナレーション。
『戦闘機の操縦は、簡単なものではありません。何せ時に、重力の8倍近くもの力がかかりますからね。並大抵の人間が耐えられるものではありません。ですからパイロットは、日々鍛錬を重ねていかなければならないのです』
爽やかな顔で、王子が受けるインタビュー。
それが、次々と流れていく。
「……なあビクセンちゃん、王子ってどんな人なんだ?」
ふと、バズがそんな事を聞いた。
「シーザー様は、さっきテレビで出てたけど、『ハリアー王子』って呼ばれてて、海軍分校じゃ有名人なんやで。フライトスーツも特注品作ってもらってるんや」
「あれ特注品なのか!? 姫さんにはないのに偉く優遇されてるな……」
王子の特注品だという、紫色のフライトスーツ。
対して姉のミミは、通常の支給品のフライトスーツ。
同じ王家だというのに、この装備の差。
つまり、2人の扱いはそれだけ違っているという事だ。
なぜなら――
「威張ってるように見えるけど、優しい人やで。ウチの実力も認めてくれとるし、いざという時はフォローしてくださるし――」
「そうか……姫さんとあれだけ張り合ってるとこ見ると、そうには見えないんだがな……実は嫌味な奴だったりしねえか?」
ビクセンの目が、少しだけ見開く。
「そ、そんな事ないで!」
急に立ち上がったビクセンに、一同は一瞬驚いた。
「シーザー様は、悪い人ちゃうで! 本当にいい人や! 本当、に――」
だが、反論しながら顔をうつむけ、再び腰を下ろしてしまうビクセン。
自分の主張に、自信を持てていないのだろうか。
「姫様とあんな仲悪いなんて、全然知らんかったけど……」
うつむいたまま、ビクセンは続ける。
どうやら彼女自身も、あの姉弟の仲の悪さは予想外だったらしい。
「なして、シーザー様は姫様と仲悪いんや?」
だからか、逆にそんな質問をしてきた。




