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セクション14:再会は波乱の始まり

 駐機場は、2機のシーハリアーという予期せぬ来訪に慌ただしくなっていた。

 整備士達はもちろん、話を聞きつけた学園の生徒達も駆けつけ、有名人が来訪したかのごとくシーハリアーの周りに集まっていた。

 とは言っても、王旗が尾翼に描かれた奥の機体にのみだが。

「あっ、あそこだよツルギ!」

「ちょ、ちょっとストーム、そんなに急がなくても――」

 その人ごみの中に、ツルギも向かっていた。駆け足のストームに車いすを押される形で。

 着陸してからというものの、ストームはやけにうきうきしている。

「いた!」

 ストームが、ようやく車いすを止めた。

 彼女が視線を向ける先。

 そこにいたのは。

「管制を無視して駐機場(エプロン)へ直接降りる所か、管制官を驚かすとは、一体どういう神経をしているんだ貴様は!」

「す、すみまへん……」

 フロスティ教官に怒鳴られ、今にも泣き出しそうな顔で謝っている、フライトスーツ姿の少女だった。

 水色の髪をショートカットにしている少女は、同じく水色のヘルメットを脇に抱えている。

 ツルギ達が使うHGU-55とも、ミラージュのパイロットが使うLA100とも違う、イギリス製のMk10ヘルメットだ。先の2つと比べると、外付けバイザーの付け方やマスクの形状にやや無骨な印象を受ける。

 それを見て、ツルギは彼女がシーハリアーのエビエーターだとわかった。

「ウチ、飛んでる時は、つい興奮してしもうて――」

「興奮とかそういう問題ではないだろう! 貴様は自分の感情すら制御できないのか!」

 だが、どうもおかしい。

 乱暴な着陸をして管制官を驚かした少女にしては、態度も話し方も違いすぎる。共通しているのは訛った英語だけ。

 あんな内気な少女が、あのような過激な物言いやフライトする少女とは思えない。

「まあまあ教官、許してやってください、これでも彼女は凄腕なんですから」

 そこへ、慇懃無礼な少年の声が割って入る。

 現れたのは、金髪碧眼の少年だった。

 着ているフライトスーツも持っているヘルメットも、全て紫。

 水準以上の気品ある顔立ちは、男であるツルギでも「かっこいい」と認められるほどのもので、背後で複数の女子生徒達が興奮気味に後を追って見物しているのもうなずける。

 まさに『貴公子』という言葉がふさわしいその顔立ちは、ツルギが見知ったある人物を連想させた。

「シーザー様……」

 少女が、助けを求めるように少年へ振り返り、小さな声を上げる。

「罰を与えるのなら、僕が代わりに受けますよ。リーダーとして彼女を監督できなかった責任があるでしょう、僕には」

「……何だ、身代わりになるとでも言うのか? なぜ彼女を庇う?」

「僕とてスルーズ家の人間です。人を見る目はありますよ」

 フロスティの冷たい視線にも、臆する事なく答える少年。

 にらみ返すその目からは、抵抗というよりも尊大さが感じ取れる。

 しばし2人の視線が交錯した後。

「……わかった。何らかの罰則は与えよう。だが、いつまでも驕り高ぶらない事だ。海軍分校にも伝えておくぞ」

 それだけ言い残し、フロスティは少年の前から去った。

「シーザー様、すんまへん……ウチ、助けてもろてばかりで――」

「何、君は海軍のホープだからな。未来ある人々の希望を守るのも、王族の務めさ」

「シーザー様……」

 心底申し訳なさそうに謝る少女の頭を、そっと撫でる少年。

 少女は、そんな少年に対し尊敬の眼差しを向けていた。

 一方で、背後にいる女子生徒達は少女に対し悔しそうな様子を見せていた。

 そのやり取りを聞いて、ツルギは確信した。

 この少年の、正体を――

「リューリーッ!」

 と。

 ストームがいきなり、少女に向かって手を振りながら駆け出した。

「……え!? エイミー!?」

「久しぶりっ! 元気にしてたー?」

 駆け寄るや否や、親しそうに声をかけるストーム。

 リューリと呼ばれた少女も、ストームの顔を見て嬉しそうに話し始めた。

「もしかして、さっきまで飛んでたんか?」

「うん! リューリの飛び方凄かったね! あの時と全然変わってない! あーあ、あたしもあんな風に飛べたらなあ……」

「そ、そな言われたら、照れるで……」

 ストームを本名で読んでいる辺り、どうやら結構仲のいい人らしい。

 ツルギはストームの隣へ向かい、話を聞いてみた。

「知り合いなのか?」

「うん! 中等部の時一緒だったリューリだよ! TACネームはビクセン!」

 ストームは笑みを向けつつ少女を紹介した。

「エイミー、その人誰なん?」

「あっ、紹介するね! こっちはツルギ!」

 今度はストームがツルギを紹介する。

 が。

「あたしのだーい好きなパートナーだよ!」

 ツルギに抱き着きながら紹介され、一気に心拍数が上がった。

「こ、こらストームッ!」

「いいじゃない! 隠したってしょうがないでしょ!」

「だ、だからって、こんな所で抱き着くなーっ!」

 何とか引き離そうとするが、ストームは無邪気にじゃれついてくるばかり。

 当の少女――ビクセンまで頬を赤くして驚いており、ますます恥ずかしさで顔が熱さを増していく。

「ほう、君があのツルギか」

 そんな時。

 今度は少年から声をかけられた。

 ストームのじゃれつきが止まった事もあり、ツルギは少年に顔を向けた。

「話は聞いているよ。フローラのお気に入りだってね。でも、こんな幸せそうなカップルに横槍入れるなんて、フローラも残念な奴だねえ……」

 どこか上から目線で語る少年。

 表情こそ笑んでいるが、まるで自分の事をからかっているようにも見えた。

「シーザーッ!」

 そこへ割り込んできたのは、ミミの声。

 見ると、左腕にヘルメットを抱えたまま急ぎ足で間に割って入ってくる。

 同じ金髪碧眼の少年少女が、対峙。

 その顔立ちは、他人とは思えないほど似ていた。

「やあフローラ。どうしたんだいそんなに焦って?」

「なぜここに来たのです……? まさか、ここに喧嘩売りに来た訳ではないでしょうね?」

「はあ? 何訳のわからない事言ってるんだよ? 僕達はちゃんとした目的があって来たんだ。生徒会長のお言葉とはとても思えないねえ」

 明らかに挑発する態度で、ミミに語る少年。

 その様子に、ビクセンが少し戸惑っている。

「……何ですって?」

「前から聞いてなかったかい? 僕達は、今度の期末テストをここで受けるんだ。もちろん、戦技テストもね」

「……え?」

 驚いたのは、ミミだけでなくストームもだった。

 そういえば、とツルギは思い返す。

 今回のテストには、セネット海軍基地の海軍分校からも受験者が参加すると少しだけだが発表されていた事を。

 ツルギ自身もテストの範囲ばかりを気にして、そこの所はあまり気にしていなかった。

「そういう事だから、せいぜいがんばる事だね。ま、どう足掻いても王になれないフローラに負ける気はないけどさ」

「シーザー……言わせておけば――っ!」

 挑発的な物言いに、我慢ならないとばかりに拳を振るうミミ。

 だがそれは、あっさりと左手で止められてしまった。

「ぐ、あ――っ!?」

 そのまま拳を力任せに握られ、苦悶の声を上げるミミ。

 抱えていたヘルメットが、アスファルトに落ちる。

 拳を下ろされる力に抗えない。

 何せ、相手は男。力の差は歴然としている。

「そんな暴力的だから、王に向いてないんだよ」

 にやりと不敵に笑って言い放つと、少年ミミの拳を軽く振り払った。

 そして、行くよビクセン、と声をかけ、ミミに背を向けた。

 ビクセンは少しついて行くかどうか迷った様子を見せたが、ほなまた今度、とストームに軽く挨拶してから、少年の後を追いかけた。

「く――っ、シーザーッ!」

 痛めた拳をさすりつつ、歯噛みするしかないミミ。

 無理もない。

 彼女にとって、あの少年は『宿命のライバル』とも言える存在なのだから。

「……あの人、何者?」

「シーザー・ロイ・スルーズ」

 ストームの疑問に、ツルギが答える。

「スルーズ? って事は――」

「ああ。ミミの弟にして、正当な王位継承者だよ……!」

 遠ざかっていく王子の姿を、じっとにらみながら。


 やや強い風が、ミミの金髪を横から乱暴になびかせる。

 この姉弟の再会から始まる、波乱を予感させるように――


 フライト1:終

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