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セクション13:予期せぬ来訪者

 リハーサルは、成功下に終わった。

 ブラストチームは敵戦闘機の攻撃に晒されながらも、対艦ミサイルを発射し離脱するシーケンスを全て成功させた。

『いやー、あっという間に終わっちまったなー! もしかして俺達、最強のチームなんじゃね?』

 編隊が揃って帰路に着く中、バズがそんな事をつぶやく。

 既に編隊は雲の下に出て、真下には海が見える。

『……そうかもね。このチームには航空学園の二大エースが揃っているからね。君達の嵐と魔剣コンビに、我らがミラージュ姫――』

「そうでしょそうでしょ! だってあたし達、最強コンビだもん! ね、ツルギ?」

 ミステールに褒められて思わず声を上げるストーム。

『……』

 だが。

 当のミミはリハーサルを終えてからも喜びの声1つ上げていなかった。

 しかも、ブラストチームやミステールとチーターの編隊よりもかなり後方を飛んでいる。

「……ツルギ?」

 ストームが振り返ったが、ツルギは気付かずにそんなミミ機の飛び方を気にしていた。

『姫様、機体に不調ですか? このままだと遅れちゃいますよ?』

『……大丈夫です、着陸前には追いつきますから』

 寄り添うフィンガーに答える声には、どこか元気がない。

 自分らしい戦いができなかった事を悔やんでいるのだろうかと思い、ツルギは聞いてみた。

「ミミ、普段通りに戦えてなかったみたいだけど――」

『あんた、姫様を責めるつもりなの!?』

「い、いや、別にそういう意味じゃなくて――」

『いくらミスがあったからって、姫様を責めるのは許さないんだから!』

 しかし、フィンガーに遮られ、あえなく失敗。

 余程フィンガーはミミと話して欲しくないらしい。

『まあまあ、リハーサルでうまく行かない事は問題じゃない。大事なのは、そのミスを本番でしない事だ』

『おっしゃる通りっす副会長っ! この反省点を復習すれば、本番でも怖いものなしっすね!』

『そういう事だよ』

 その場をうまくまとめ上げたミステールの言葉に、チーターが声を上げた。

 こうして、話は終わったかに見えたが。

『でも、それは()()()()()()()()()()()()、の話ですよね……?』

 ラームの冷静な一言で、再び場が不穏な空気に包まれてしまった。

 そう、今回のリハーサルでは本番で行う空中給油を行っていない。

 しかもこのメンバーには、空中給油に不安を抱えた者が1名いる。

『そこはどうなんですか、姫様?』

『……!』

 ラームに指摘されたミミが、息を呑む。

 実は、ミミは空中給油を苦手としている。

 給油機と空中でドッキングし、燃料を補給する空中給油は、現代のファイターパイロットには必須の技能だが、ミミはその実力を欠いている。

 それは紛れもない事実であり、誰も反論する事ができない。

『おいシルヴィ、何余計な事言ってんだよ!』

『……確認したい事を聞いただけですけど?』

『それだから「キュクロプス」なんて呼ばれるんだぞ!』

『……兄さん、まさか姫様を庇うつもりですか――?』

『い、いや! 別に下心は何もねえって!』

 バズとラームがそんなやり取りを始めた頃、右手に2本の滑走路が見えてきた。ファインズ基地だ。

「と、とにかく! 話はこのくらいにして、まず着陸しよう」

 ツルギは話を切り上げ、着陸のため無線の周波数を合わせ始める。

 もうこんな時間か、とバズがつぶやいたのを最後に、編隊が静かになる。

「ファインズ管制塔(タワー)、こちらブラスト1。着陸許可を願います」

『こちらファインズ管制塔(タワー)。現在、滑走路31Lへ着陸進入中の機体がある。指示があるまで上空待機せよ』

「了解」

 どうやら先客がいるらしい。

 これ自体は特別珍しい事ではない。空の世界にも交通ルールというものがある。飛行機の着陸は、管制塔からの指示の下、順番に行わなければならないのだ。

「みんな、指示があるまで上空――」

『どけどけどけどけどけぇーっ! 王子様のお通りやあーっ!』

 だが。

 聞いた事もない少女の声が、それを非日常へと変貌させた。

 一体何だ、と思った直後。

『後方から何か来る!』

 ラームの一声で、とっさに振り返る。

 見ると、そこから1つの機影が高速で迫ってくるのが見えた。

『いやっほおおおおおうっ!』

 やけにハイテンションな声を上げて、右側を通り過ぎていく灰色の機影。

 それは、スルーズ空軍にいる機体ではなかった。

 やや太った胴体に、短い主翼。

 エンジンノズルは尾部ではなく、胴体側面にある。それも4つ。

 そのシルエットは、通常の戦闘機のそれとは完全に異なっている。

「あ、あれって――!」

「海軍のシーハリアーだ!」

 イギリス製の戦闘機、シーハリアーFA.62。

 スルーズ海軍が艦上戦闘機として運用している機体だ。

 それは、まっすぐファインズ基地へと高度を下げつつ飛んでいく。

 だが、滑走路に対して斜めに進入している。これでは駐機場(エプロン)へ向かうだけで着陸できない。

『カレント2、コースがずれているぞ。着陸進入の指示に従え』

『はあ? 何言っとるんや空軍はん? ウチのハリアーに滑走路なんていらんで?』

『そういう問題ではない! 君はそれでもパイロット候補生か!』

『それと、ウチは「パイロット」じゃあらへん。「エビエーター」や!』

 訛った英語で話すパイロット――もといエビエーターの少女は、管制官の指示を無視してそのまま進入を続ける。

 ちなみに、エビエーターとは海軍におけるパイロットの呼称である。

 海の世界で「パイロット」と言うと「水先案内人」という意味になってしまうため、混同を避ける意味で「エビエーター」を使用しているのだ。

『行くで!』

 シーハリアーが車輪(ギア)を下げ、減速を始める。

 当然ながら、滑走路に対し斜めに向かっている状態で滑走路に降りる事は不可能だ。

 シーハリアーは滑走路を通り過ぎ、あろう事か駐機場(エプロン)へ進入してくる。

 突然の来訪者に、その場に整備士達は驚いて逃げ始めている。

 そんな整備士達などどこ吹く風で向かう先は、何と管制塔。

『バ、バカ! 管制塔にぶつける気か!』

 管制官も動揺している様子。

 ドタバタと慌ただしい足音が無線で響く。

 低速とはいえ衝突しかねない速さで迫ってくるシーハリアーを前に、管制官も思わず逃げ出していたのだ。

 だが。

『そらっ!』

 シーハリアーは管制塔を前にして一気に機首を左へ向けた。

 左右のノズルが真下に傾く。

 急激な減速。

 その光景は、まさに空中のドリフトだ。

 シーハリアーは管制塔を目前にして、空中で停止した。

 目の前で戦闘機がホバリングしている光景に、管制官達も言葉が出ない。

『覚えとき。ハリアーはどこへでも降りれる戦闘機っちゅう事をな! ほな、さいならー!』

 管制塔に向かって手を振る少女。

 そのまま、シーハリアーはホバリング状態でゆっくりと管制塔から離れて行った。

 そして、駐機場(エプロン)の空いている位置を見つけると、そのまま垂直にどすん、とやや乱暴に降り立った。

 シーハリアーの最大の特徴。

 それは、ホバリングする事で着陸ができる、垂直離着陸――略してVTOL(ブイトール)能力を持つ戦闘機という事だ。

 これにより、シーハリアーは理論上どこへでも着陸する事ができる。それは、軍艦の上からでも運用できるという事であり、まさに艦載機としてうってつけの機体でもあるのだ。

「な、何なんだあれは……?」

 傍若無人すぎるその飛び方に、ツルギは唖然とするしかない。

 あんな飛び方は、ストームでもしない。

 上には上がある、という言葉は、こういう時に使うものなのだろう。

「もしかして――ねえツルギ! 早く降りようよ!」

 と。

 ストームが何かに気付いたのか、急に着陸を催促してきた。

「きっと乗ってるのは、あの子だよ!」

「あの子……?」

 どうやらストームは、シーハリアーのパイロットを知っているらしい。

 スルーズ空軍航空学園では、本校にて海軍のパイロット候補生も育成する。故に、海軍のパイロット候補生と面識がある事は珍しくないのだが――

『こちらカレント1。管制官の皆さん、うちのウィングマンが迷惑をかけて申し訳ありません。自分が代わりにお詫びしますよ』

 と。

 今度は、どこか慇懃無礼な少年の声が無線で流れてきた。

 見ると、滑走路31Lへ普通に進入してくるもう1機のシーハリアーがいた。どうやらこのシーハリアーのエビエーターらしい。

『その声は……!?』

 真っ先にミミが反応した。

 着陸進入するシーハリアーの垂直尾翼には、金色の不死鳥をあしらった旗――スルーズ家の王旗が描かれていた。

『まさか、来たというのですか、シーザー……!?』

 ミミの声色には、今まで聞いた事のない驚きと動揺染まっていた。

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