表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
11/64

セクション06:疑うツルギと疑わないストーム

「いやあ、俺も聞いた時は驚いたよ。まさか姫さんがよそから来た奴とくっつくなんてさ」

「聞いたって、ツルギ君から?」

「違う違う。あいつは間違ってもそんな事自分から吐くような奴じゃねえ。俺が教室に来た時にはもう、みんなこのスキャンダルで盛り上がってたのさ」

 バズがラームと勝手に話を進めている。

 スキャンダル、と言われると今でも少し恥ずかしくなる。

 あんまりバズに話を進ませたくなかったので、ツルギは自ら口を開く。

「つ、つまり――告白された所、誰かに見られてたらしくて、すぐバレちゃったんだ。次の日にはみんなその事知ってて、随分肩身の狭い思いしちゃって……だから僕は、ミミと会う事が気まずくなっちゃって、結局そのまま――」

 そう。

 結局は、当時のツルギに王女と付き合う勇気がなかったのだ。

 それに気付いたツルギは、結局自分はそこまで付き合いたい訳じゃない、ただ告白されたのが嬉しかっただけなんだな、と納得し、自ら身を引いたのである。

「全く、もったいない奴だぜ。俺やユーグは応援してたんだけどな、『ビッグな相手から好かれたんだからもっと堂々としろ』ってさ。まあシャルは『この恋は実りそうにないわね』ってトランプで占ったんだが――」

 バズが補足する。

 ちなみにユーグとシャルは、中等部時代の知り合いで、現在はオルト分校で救難ヘリのパイロット候補生となっている。

「結局その占い通りになっちゃったな」

「それは一人合点って奴じゃねえのか、ツルギ? 今はなんだかんだ言って姫さんと普通に喋れてるじゃねえか」

 バズの鋭い指摘。

 それには、ツルギの胸を鋭く貫く威力があった。

「な、何言ってるんだ、あれは――」

「現に、姫さんにはまだ気があるんだぜ? それなのに別れ話もせずに普通に相手するから、まだ気があるなんて思われるんだ」

「う……」

「お前、実はまだ姫さんに気があるんじゃねえのか?」

「そ、そんな事は――」

「じゃあ、なんで突き放さねえんだ?」

 それには何も反論できない。

 嫌なら私を拒絶して、とあの時ミミは言っていた。

 付き合いたくないなら、その通りに拒絶するのが普通だろう。

 だが、ツルギはそれをしたくなかった。

 ミミ自身は何も悪くない。

 それに――

「そ、それは――」

 口にできなかった。

 それこそ、浮気しているんじゃないかと思われそうで。

「浮気相手って言ったらしいが、果たして本当の浮気相手はどっちなのかなー?」

 違う。そうじゃないんだ。

 僕は、ただ――

 僕は、ただ――?

「もうツルギをいじるのやめてよ、バズ」

 と。

 そこで擁護してくれたのは、意外にもストームであった。

「え?」

「要は、姫様に昔告白されただけでそれ以上にはなってないって事でしょ。ね?」

 ツルギに向けたその顔は、いつもと変わらない笑顔。

 その純粋な目は、自分を疑っていないように見える。

 気のせいだったのか、とは思ったが、ここで彼女の加勢はありがたい。

「そ、そうだよ! ぼ、僕にとって今一番大事な人は、ス、ストームなんだから!」

 ツルギは目を逸らしつつもストームの肩を抱き寄せ、ぎこちなくながらそう言った。

 顔が熱くなっているのが自分でもわかるほど恥ずかしいが、この流れに乗って少し大げさに振る舞わないと場を乗り切れそうにない。そんな気がしたのだ。

「そうだよねー! あたしもツルギが一番っ!」

「わわっ!? ちょ、ちょっと!」

 だが、結果としてストームに横から抱きつかれる事となってしまった。

 車いすのツルギに、逃げる術はない。

 ただでさえ熱くなっている顔が、更に加熱されてしまう。

「ストーム、全然嫉妬してないね……」

「まあ、世の中にはああいう奴もいるって事だな。あの幸せ者め……」

 バズとラームは、そんな2人を少し呆れた様子で見ている。

 無邪気にじゃれついてくるストームと戦いつつ、恥ずかしさを押し殺してあんな事を言ってしまった事を、少しだけ後悔する。

「う、疑ってないのか、僕の事――?」

 ミミのあんな話の後でも抱き着いて来るなんて、やっぱり疑ってないのか。

 ツルギはストームを押し留めつつ、その疑問を口にした。

「うん、疑ってないよ?」

 あっさりと答えるストーム。

 その笑みに、嘘などひとかけらもない。

 ストームは、本当に自分の事を疑っていないのだ。

「だってあたし達は無敵! 怖いものなんてないもんっ!」

「うわあああっ!?」

 再びじゃれついて来るストーム。

 成すがままにじゃれつかれるまま、ツルギは思う。

 どうしてストームは、ここまで純粋無垢なんだ。

 自分が、他の女の子とくっついているかもしれないのに。

 いや、そもそも。

 僕は本当に、ストームの事が好きなんだろうか。

 まだ僕は、ミミの事が好きなのだろうか。

 だから、もしかすると。

 ストームは、付き合えなかったミミの「代わり」に過ぎないんじゃなかろうか――?

「ま、そういう事だフィンガーちゃ――」

 バズは、話を聞いていたであろうフィンガーに声をかけたが、彼女の姿はいつの間にか消えていた。

「あれ、いねえ!? どこ行きやがったあいつ!?」

 食堂中を見回してみても、フィンガーの姿はどこにもない。どうやら、かなり前からいなくなっていたようだった。

 だがこの時、ツルギは知る由もなかった。

 話を半ばまで聞いたフィンガーが、すぐさまミミの元へ飛んで行った事など――

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ