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 大国ブラーゼンの中でも、クノッヘンの街は王都の次に大きな街で、世界最大の冒険者ギルドがあることから、冒険者の街と呼ばれている。

 ジル達は、正門に続く検閲の列に並ぶこと10分、豪華な馬車の効果か、微税に色をつけた賄賂のおかげか、馬車の中を覗かれることもなく、すんなり街へ入ることができた。

 朝のにぎわい始めた通りを、ゆっくり走り宿に向かう。

 金文字でハイスと看板に書かれたその宿は、3階建ての瀟洒な建物で、全室スイートルームという貴族の客も多数利用している、クノッヘン随一の高級宿だ。

 宿の正面で馬車から降りると、宿の人間が飛んできて馬車をあずかり、ナハトが受付に向かう間に、ジルたちは待ち時間なしで、スイートルームに通された。

 さすが高級宿と思わせる品の良い落ち着いた内装の部屋でくつろぎ、軽食をとったジルはさっそく買い物へ出かける。

 奇抜な装備の冒険者やローブ姿の神殿関係者らしい者達があふれる中で、豪奢な異国風の服装に身を包む3人は非常に目立っていた。

 ジルの身長は140センチあるだろうか。顔立ち・全身のバランスは完璧に近く、しかし幼いゆえの甘やかさが絶妙な美しさを醸し出している。

 身に纏う衣装は全体に深い黒で纏められ、鮮烈な赤い花飾りが目立つ絹とレースがふんだんにあしらわれた贅沢なものだ。

 豊かなストレートの黒髪は複雑に結い上げられ、身動きするたびに髪飾りがシャラシャラと美しい音をたてる。

 そして両脇で彼女をエスコートする二人もひどく人目をひく。

 身長185センチほどの青年ナハトは驚くほど小さな顔を真っ黒で艶やかな髪で縁取り、ストイックな露出の少ない黒い衣装に白い肌が映え、優雅で綺麗な所作がさらにその美しさを際立たせている。

 一方、ブラウはナハトと同じくらいの身長だが線が細くひどく華奢だ。

 腰まである綺麗な銀髪を無造作に結び、どこか着崩した感のあるひらひらとした白い衣装をセンスよく纏っている。

 どこか気だるげな動きは気まぐれな猫を連想させ、たまに浮かべる笑顔は背徳的な空気を漂わせている。

 そのどこか遠い異国の物語から飛び出てきたような3人を少し離れた場所から見詰める目があった。


「ジルさん、久しぶりだなぁ……」


 深緑色の高価なローブを身に纏ったその人物、剣煌大地は嬉しげに呟いた。





 この世界に飛ばされる前のゲーム時代ジルがミコトのサブであることは一部の高レベル者達しか知らない事実だった。そしてそれを新たに知ることとなった『蒼天の風』のギルド長、剣煌大地との付き合い方にジルは悩んでいた。

 彼は暑苦しいほど『邪』ギルドを愛するファンだったのだ。


「あの、俺『蒼天の風』のギルド長やってる剣煌大地です。レベルは75です。大地って呼んでくださいっっ!」


 親しくしていた友人から紹介された直立不動状態の剣煌大地が暑苦しく体育会系の空気をまき散らすのをうんざりと眺めていたジルは大地の視線がちらちらとたろうへ向けられるのに気づく。


(またでたよ、たろうファン、たろうさんが好きで『邪』を好きになったやつだこいつ。てか、75て結構強い)


 自他ともに認める露出狂でマイペース、ギルド長としてメンバーのフォローなど細かい仕事は一切できないたろうだが、遊び好きで子供っぽいこの男は周りを盛り上げることにかけては誰よりも上手い。高いレベルと潤沢な資金で常にトップを走る『邪』以外のプレイヤーからも意外と人気のある男だ。

 面倒だなとため息を一つつく。敵対する奴らも面倒だが、こういうファンはもっと面倒なので、ジルはかなりドライに接することにしていた。

 しかしこれ以降、ジルはかなり頻繁に剣煌大地と遭遇するようになる。

 市場で買い物しているだけなのに目の前に現れる剣煌大地。


「ジルさん、レベル78になりました。メンバーも二人増えて、今27人です。俺頑張ってます!」

「あー、すごいですね、大地さん頑張ってください」


 なぜか毎度レベルと大地のギルドの情報の報告を受け、さらりと流す。

 このやり取りを何度も繰り返すうちに大地に慣れたジルは他の高レベル者を紹介してやったり、細々と付き合っていたのだからストーカー行為も意味があるといえた。

 ストーカー行為以外も大地は手を抜くことなく、集団転移事件時には初心者ばかりではあるがギルドも相当人数を抱える大所帯で本人のレベルも90に達し立派に廃人の仲間入りを果たしていた。


「ジルさーん!」


 その暑苦しく面倒な男が大声で自分の名前を呼びながら近づいてくるのをジルはひきつった笑顔で眺めるしかなかった。


(第一村人ならぬ、第一プレイヤーがこいつって……面倒くさい)









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