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 戦争イベント会場のスタート地点にはすでに人だかりが出来、『邪』メンバーも続々と集結しつつある。

 到着してすぐにパーティ申請を受けたミコトは、少し離れた所に纏まっているパーティメンバーの元へ急ぐ。


「ディナルさん申請ありがとー。みなさんよろしく、回復はお任せよー」

「うむ、まかせた」

「はろぉ、みこちゃん、よろしくぅ」

「よろしく」

「ミコトさんよろしく」


 ディナルと紅秋桜、平吾とトールから大歓迎の空気で迎えられるミコト。

 『邪』ギルドの戦い方は、少数の5人パーティで各々まとまり、戦場を素早く移動、好きなところで暴れまくるという単純明快な物でミコトを入れて5人のメンバーが集まっていた。

 最高ランクの支援職であるミコトはどこのパーティからも引っ張りだこだがそれは彼女の参加したパーティの戦争貢献度の高さが原因だ。

 そもそもミコトが入る前の『邪』ギルドは攻撃力特化の剣士と武闘家のみで、支援職は1人もいなかった。

 実際今日のパーティメンバーもディナルと紅秋桜とトールは剣士で平吾は武闘家だ。

 強さを追い求めすぎたのだと言えば、ちょっとはかっこいいかもしれないが、ただの戦闘馬鹿集団といえる。

 『邪』ギルドへの参加資格はただただ単純に強さで、自薦他薦は問わないが、たろうの厳しい目にかなわなければ『邪』ギルドへの参加は不可能だ。

 それでも『邪』への入団希望者は後を絶たないのだが、そんな中、たろうの最初で最後の勧誘活動によって、ギルドに入ったのがミコトだった。



 人当りのよさを生かし、中堅ギルドの長として、堅実にメンバーを増やし育成、ギルド運営をしていたミコトは悪名とどろく『邪』のギルド長などとは無縁に平和にゲームを楽しんでいた。


「おお、それすごいかっこいいな、ちょっと貸してくれ」


 ある日、鍛冶屋前で強化に成功し浮かれていたミコトに大声で話しかけてきたたろう。

 大振りな飾りのついた派手な両手剣(見た目はいいけど数字は屑)を遊びで緑強化(そんなもったいないことするやつは普通はいない)して、振り回していたミコトは、その声に敏感に反応した。


「おおお、わかりますか、この良さがっ。うちのギルドの連中はこんなバカなことしてって言うんですよっ!」

「なんだとっ、こんなかっこいいのに、お前の周りのやつは見る目がないな!」


 鼻息荒く、かっこいい剣(屑アイテム)を褒め称える2人にはもう周りの風景は見えていなかった。


「おおっ! 同志だぁぁっ! 同志よ、この剣を振ってみてくれ」

「うむ、同志よ。たしかに受け取ったぞっ!」


 ここまでのやり取りを全て一般会話(この辺一帯の人間すべてが聞き取れるという一種痛い行為)でやり遂げ、盛り上がる馬鹿2人。

 同士だから、という訳のわからない理由によるたろうからの再三の勧誘に根負けしてミコトが『邪』に移籍するのはそれから1か月後のこと。




『お待たせいたしました。ただいまより戦争イベント、マルスク国vsエシュタ国、開戦です』


「HP残量が半分きったら私の目の届く範囲へ避難ね」


 いつもどおりの指示を飛ばし、戦場に移動を開始するミコト。

 最凶ギルド『邪』の中でも医者を職業とするミコトの入ったパーティメンバー達は、貢献度ランク上位に必ずくいこむ。


 ゲーム内で極少の職業と言われる医者。

 体力・力・一般防御が絶望的に低いと言われる巫女職から医者への道のりは最高のマゾゲーと言われている。

 体力のすくなさ、攻撃力の低さ、モンスターへの防御の低さ、すべてが、狩りでのレベル上げの困難さにつながるからだ。

 レベル30に達すると、巫女職はジョブチェンジが可能となり、選べる職業は2つ。

 自己回復スキルと戦闘に役立つ最強の範囲魔法が人気の仙医と支援特化の範囲回復・常時気力回復スキルと複数名で仕留めるような大物相手には必須の麻痺スキルを持つ医者だ。

 当然、ほとんどの人間がここで仙医を選ぶ。

 そして医者を選んだ人間は、レベル上げの大変さから、キャラの作り直しを選ぶか引退していくのだ。

 その医者を選択したミコトがコツコツ上げに上げたレベルは92で、間違いなく医者の最高レベルといえた。

 レア装備の底上げで回復量が更に半端なく高い彼女のいるパーティメンバーが戦線離脱することは皆無と言ってよい。


「右崖下混戦中、うちの軍ちょい押されてるトールさんと平吾さん行ってあげて。城の防御うすいよ、白くまさん所のやばそうなのが2人向かっているからディナルさんと紅さん押さえにいってあげて」


 通称城攻めと言われるこのイベントは、二国に分かれて互いの城を攻め合い、どちらが先に相手の城を落とすかを競う物だ。

 城を守る者、相手の城を攻撃する者の数のバランスが大事なイベントに置いて、味方の数・戦況・戦力の振り分けをその場その場で判断しメンバーに的確な指示をだすミコト。

 『邪』のメンバーは個別では相当強いが、あくの強いスタンドプレーヤーな彼らは目に入った強そうな敵に単純に飛びつき、城の守りなどは眼中にない。

 それがミコトが入ったことによって見違えるような連携プレイを見せる。


「そろそろ私も前線でますよー」


 戦争も中盤に入るとミコトも敵を容赦なく斬り飛ばしながら先頭で戦う。もちろん、回復作業をこなしながらだ。

 普通の医者は防御重視の装備に身を固め、常に後方に控え、決して前にはでないが、ミコトは医者の弱点である防御・体力・力(攻撃力)の低さをダンジョン産の強力な装備でカバーし、さらにガチャ産のレア武器で攻撃力を高めていた。

 全身を派手な赤装備に包まれたミコトが戦場を駆け抜け、怒涛の勢いで敵城に攻撃をかけていく。

 イベント開始から45分、早くも敵の城が落ちた。


『お疲れ様でした。マルスク国勝利です。プレイヤーの皆様はすみやかに転送箇所まで移動してください』


「勝ったぁー、おつかれさまー」

「みな、ご苦労様」

「おつぅ」

「おつかれさまぁ、完全勝利だわぁ」

「武闘場に行く前に、戦争管理人付近で全員集合」

「りょうかーい」

「ほーい」

「では、解散」


 パーティ解散後、みな散り散りになると、ホッと一息のミコトの後ろに影が忍び寄った。


「ふふふ、ジルちゃん」

「わっ、ちょ、天さん?!」


 ふり向いたミコトの目に、至近距離で弓矢を放つ天獅子が映った。


「なんなんですか、いったい……はぁ……」


 にこにこと自分を見下ろす天獅子の顔を見ながらミコトはため息をもらした。

 今現在、ミコトは地に倒れた状態でおしゃべり中である。


「戦争終わってるから貢献度に反映しませんよ。て、知ってますよね」

「えっと、隙ありって感じ?」

「何から突っ込んだらいいのかわかりません……そもそも今は私ジルじゃありませんよ」


 諦めながらも、否定するミコト。


「それより、ジルちゃん医者なのに貢献ランキング2位だよ。すごいなぁ」


 戦争貢献度のランキング発表画面をみているらしい天獅子。


「天さんのおかげで倒れている私には何も見えませんが……」


 倒れている状態ではできる作業が大幅に減らされる為、ランキングも当然みることができない。

 ムカつく気持ちのまま、ミコトは何も告げずにイベント会場から離脱する。


「ああ、残念。ジルちゃん消えちゃった。あまり遅くなったら舞が怒りそうだし俺もいくかな」


 誰もいない空間に独り言を残して天獅子も姿を消した。








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