運命
瓦作りの2階建ての一軒家。昔さながらの家。
と思わせる家であった。
庭はなくインターホンまで行くための短い階段がある。
俺はそのインターホンを躊躇なく押した。実は結構緊張していたのだが迷っていても仕方ない。
それにここまでの道中色々言うことを考えていたのだ。
数秒の時間が経ちドアが開かれた。ちなみにドアは引き戸式だ。
“ガラガラー”
音とともに40代後半といった女性が「はい?」と言って出てきた。 疲労が見てとれるのはここ最近警察に美穂先生のことで色々聴かれていたのであろう。そして俺も全く同じ事を聴こうとしているので何か申し訳ない。 だがここには聴くために来たのである。
「あの?お、僕。進帝高等学校に所在しております新神風斗というものです。少し聴きたいことがありまして失礼を承知の上でお訪ねねしたのですが。今お時間とかよろしいですかね?」
あらかじめ用意していた言葉を機械的に口にする。
と言うか、俺は自分の名前を今初めて名乗ったような。もうかなりの話にきているのにこんなところで自己紹介になるとわ。
主人公にあるまじき行為だな。まぁ、問題ないけど。 だが、担任の教師が一番という事実は少しむかつくな。いや、かなり。
それはそうと俺の訪問に元々嫌悪していた表情がさっきの俺の言い分に更に酷いものになった。
まかー。というのと娘のことを話すのが嫌。というのが分かった。
俺は目の前の女性の表情を見て何だか切なくなってきた。第一俺は、ただの興味本意でしかないのだ。そんな表情をされてまで聴きたいか?といわれたらそうじゃない。次第に俺はそう考えるようになっていた。
「あっ、あの。もういいです。過酷な質問をして申し訳ありませんでした。美穂先生は僕の恩師なので少しでも力になりたいと思ったのですが。僕じゃ
戦略0ですよね。すいません。」
余計なことを最後に言っちゃったなと思ったが、先生が恩師ってのは本当だし。先生のお陰で人間も悪くないなと少なからず思い直したのだ。感謝しているのは本当だ。余計なことは余計なことだが言わずにはいられなかった。だが、その余計なことで
「ちょと、待ちなさいあなた。」と言われてまさか中まで入れてくれるとは思いもしなかった。
さらに言うと茶までだしてくれているので願ったり叶ったりとはまさにこのことだ。
「で、貴方は何を聞きたいのかしら?」
貴婦人というのに相応しい美穂先生の母親は俺に茶と茶菓子を出しながら言った。
今、俺は客間らしき所で美穂先生の母親と向き合っている。この部屋はいかにも“和”といった部屋である。
俺は出された茶を一口有り難く頂き、この好奇に感謝して道中で思案していた言葉を口にした。
「では。お言葉に甘えさせて頂き質問させて頂きますが美穂先生の過去。6年前に何があったのですか?」
下手な前置きなど何度も警察に事情聴取されているこの女性には面倒なはずだ。よって、俺は単刀直入に目的だけを問いた。
「えっ、・・・?」
俺の容赦ない言葉に貴婦人は戸惑いの顔と驚愕の表情を双方表した。
が、すぐに表情を引き締めて
「何故、貴方がその事を?」と逆に質問された。
俺は自宅捜査隊から聞いた話をそのまま話た。
「そう。あの伝言ね。貴方も聞いていたの。」
「でっ、ですが安心してください。その伝言を知っているのはその自宅捜査隊の教師と俺と極一部の教師だけですから。」
「それと警察の方々ねっ。」
貴婦人は、静かに言った。
「いいわ。どうせ警察の方々にも何度もお話したことですし。お話しましょう。」
「ありがとうございます。」
俺は座布団に胡座をかいていた足を正座に改めて出来る限り深くお辞儀をした。
「いいのよ、そんな。」
と貴婦人は言ってはくれたものの本当は語るに苦痛なはずだ。そんな心情を俺は察し、改めて頭を下げる。
貴婦人は自分の目の前にあったお茶を一口すすぎ語ってくれた。美穂先生の昔話を。
何回か話ているのであろう。語る口はなんとも滑らかだった。 それ以前に俺はその話をそれは息を忘れるぐらい真剣に聞き入っていた。勿論それは比喩であり呼吸はしているに決まっている。
が、ある言葉をある名前を聞いた直後本当に息すら忘れていたかもしれない。
美穂先生の父親が上村巡査の兄だという事実を語る貴婦人の口は実に事務的。機械的だった。
その記事が載っていた新聞に俺はこの地域の書写コンクールで最優秀賞の賞状を授与されている写真が掲載されている。
確か書いた文字は“運命”だった気がする。
あの記事と一緒に掲載された時点で俺の運命は決まっていたのだろうか?
俺がこの事件に深く関わる事。
俺の人生がこの事件で大きく左右される事。
俺の平穏がこの事件で終わりを迎える事は。