失踪
とまぁ。そんな1週間前のことをなおもまだ机に突っ伏しているまま語ったのはなんせまだ先生が来ていないからである。
チャイムはとっくの昔に鳴ったのに。
いや、それは嘘。2、3分ぐらい前。に、しても珍しい。うちの担任は時間も身なりも完全主義者なのだ。
いつも決まってチャイムと同時に教室に入ってきて挨拶をしHRを始める。決まっていつものピシッとアイロンがかけられた半袖カッターシャツとネクタイを着こなしている。ネクタイはネクタイピンで止められて、下はダークスーツ風の黒のズボンを履いている。
そんな彼がまだ来ていないということは何か大きな事件が起きているのではないか?と思っていた矢先に教室の扉が無造作に開け放たれた。突然の出来事に皆一斉に話を中断し音のした方へと目を向ける。
それほど扉は乱暴に開け放たれたれたのだ。
そして、言うまでもないが扉から担任の教師が入ってきた。だが、今日はいつもとは違った。さっきも言ったように。いつもならば髪や身なりには人一倍に気を使う男なのだ。
なのに今日は身に着けている服はいつもと大差ないにして。服がシワシワなのだ。
さらにいえば、ネクタイピンも付けてない
髪型も寝起きのままのようだし。
そんな異様な姿に周りの奴等も気付いたようで数秒の沈黙が教室内を支配する。
そんな教室内の変貌など知ったこちゃないといった感じで担任が教卓に手を置く。
皆は自然と自分の席へと着く。担任はよっぽど急いでいたらしく息を切らし汗も掻いていた。
今日は夏一番の猛暑らしいし無理もない。急いでなくても汗は出てくるだろう。
その分教室はエアコンが効いており快適だ。 担任は所持していたタオルで汗を拭い、呼吸も整えると口を開いた。
「皆に大事な話がある。」
やはりな。と皆が思う。そして担任は皆に聞こえるように大きな声で言った。目も血走ってる。
「保険医の天草美穂先生が失踪した。」
この事件で俺の摩訶不思議な物語が始まることは今段階で知るはずもなかった。