来訪
「どうすっかな?合鍵。」
風斗は成宮家の合鍵を片手に酷く悩んでいた。返しに行くにも時間が経っている。
しかし、返さないのも何か・・・。それ以外にも風斗にはやることがあった。退院したら直ぐにやろうとしたことが。
だから。
「うっし!取り敢えず鍵のことは保留にしておこう。」
そう思い、鍵をポケットに仕舞い玄関の扉を開けた。
「えっ?」
「わっ!?ビックリした。」
玄関の扉を開けたそこには白いフリルワンピースを着て髪をロングに伸ばしてた成宮がいた。勿論、髪は黒である。ネクレスを首にぶら下げていて妙に魅力的な格好であった。
そんな成宮が風斗の家のインターホンに手を伸ばそうとしている。
「えーと。なんで?」
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カツカツ。風斗は今、松葉杖をつきながら成宮と二人歩いていた。
「取り敢えず先に合鍵は返しておく。で、聞くが何で成宮が俺の家に?」
成宮が鍵を受け取りながら言う。
「別に。今日、貴方が退院って聞いたからあの時のお礼をしにきただけよ。で、大丈夫なの怪我?」
顔を何故か赤らめる成宮さん。
「あぁ。大丈夫、大丈夫。全治三ヶ月程って言われたけどな。」
「そうっ。悪かったわね。巻き込んじゃって。」
成宮が目を伏せながら呟く。
「いや。いいって。けっこう楽しかったし。それより成宮こそ大丈夫なのか?」
「ええ。まぁね。それよりも新神君は今どこに向かってるの?」
「なぁに。着いたら分かるさ。あの事件に
決着がついたら必ず行こうって思ってた所さっ。」
それからは学校のことやかまいたちについての話等をしながら道中を歩いた。
ピンポーン。
目的地に着いた風斗と成宮はある一軒家のインターホンを押した。
「ここは?」
風斗に付いてきた成宮はこの家が誰の家か分からなかった。
「ここは美穂先生の実家だ。」
そう言い終わったタイミングで扉が開いた。
「はい?」
扉の先から例の貴婦人がで出てきた。
「あら?貴方は。」
「先刻はどうも。」
風斗は頭を下げる。風斗の顔を覚えていたらしく貴婦人はそのまま中に入れてくれた。
「どうしたの?その怪我は?」
前と同じ部屋。客間らしき部屋。そこで貴婦人はお茶を出してくれながら風斗に訪ねた。
「いえ。別に大したことはないんです。自分の不注意で川に落ちたしまって。」
へっへっへっ。と愛想笑いを口に浮かべながら風斗は答える。
「そうなの。これからは気を付けなさいね。それはそうと今日はどんな用なの?こんな可愛らしい彼女も連れてきて。」
「いえ。別に私は新神君とはそんな関係では無いんです。偶々、出会ったもので付いてきただけです。」
成宮は必死に誤解を説く。
「あら。そうなの?」
貴婦人はニヤニヤしながら成宮を眺める。
「すいません。今日はお邪魔してしまい。」成宮は頭を下げた。
「おばさん。」
それまでとは違う声のトーン。真剣に風斗が美穂先生の母親を呼んだ。だから貴婦人も
「はい。何かしら?」
真剣な表情で応える。
「今僕が、言うことを真剣に聞いてください。」
貴婦人がコクリと首を縦に動かす。
緊迫な空気がこの部屋を包み込む。
そして、風斗が床に頭を下げた。
「すいませんでした。貴女の娘さん。天草美穂先生を助けることが出来ませんでした。」
「へっ!?」
貴婦人は口に手を当て目を丸く驚いた。風斗の謝罪はまだ続く。
「天草美穂先生は殺されてしまいました。僕は助けれたかもしれないのに間に合わず。本当に申し訳ございません。」
「どっ・・どうゆうこと?美穂がどうしたの?」
貴婦人は唐突なことに意味が分からず。と言うのと風斗の言ってることを受け入れたくないといった表情を浮かべた。
風斗は一呼吸し言う。
「ですから。美穂先生は死にました。」
風斗の容赦ない一言。
「えっ?」
「みほが?美穂が死んだ?美穂はこの世にいない?」
「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ。私を一人にしないでよーーーーー。」
貴婦人の精神が壊れた。無理もない。夫に娘を早くに喪ったんだ。それも死に際も見れず。精神を維持しろというのは無理がある。
風斗もそれは分かっていた。
しかし、それはいずれバレること。
それなら早い方がまだ精神を治すことができる。
「おばさん!」
風斗は叫んだ。今出せるだけの大音声で。 そして、貴婦人の両肩を掴んで無理矢理自分の方に顔を向けさせる。
「おばさん。分かっています。と言えば嘘になります。僕は大切な人を喪ったことはありませんから。でも、おばさんが今どんなことを思っているのか少しぐらいは分かります。怖いんですよね?自分の大切な人を二人も喪った現在。自分が独り残されたみたいで。分からないんですよね?これから自分がなんの為に生きればいいのか?」
貴婦人の発狂はいつの間にか止んでいた。
だから風斗は静かな優しい声音で言った。
「ですが、大丈夫ですよ。貴女は何も独りじゃないから。少なくとも僕はいます。もし良かったら何時でも呼んで下さい。話聞きますし僕の話も聞いて下さい。お茶菓子持って行きますから。」
そう言い終わりパーカーのポケットから一枚の紙を取り出し、貴婦人に渡した。風斗の
携帯の電話番号が書いてある紙である。
「そう言うことだったら私も。おばさん何か書くもの貸して下さい。」
これまで黙っていた成宮も話に交わった。
「あなた達。」
貴婦人はもういつもの貴婦人に戻っていた。
「ありがとう。」
貴婦人は涙を両目に溜めて二人にお礼を言った。この空間に三人。孤独を知っている者。孤独に慣れた者。そして、孤独になってしまった者が今初めて孤独から脱したのだ。
貴婦人にとっての孤独は短いものだったが
風斗・成宮。以上にそれは大きなものだ。
だから三人の孤独は皆、同等のもの。
風斗は思っていた。どうやら上手くいったようだ。
美穂先生。貴女のお母さんは俺がしっかり守りますから安心してください。
その時どこからともなく声が聞こえた。
ような気がした。
「ありがとう。」と。
そんな言葉に風斗は独り笑い呟いた。
「こちらこそ。」




