9話
遺跡調査当日の明け方。ギルドが指定していた王都南門には多くの冒険者と騎士、そして馬車が集まっていた。
朝日に照らされた冒険者たちが影を作り朝の爽やかな空気を風が運ぶなか、トランとクレは周囲を見わたしてカインの姿を探す。
「人ごみでよく見えない……。ねぇアニキ、おんぶしてくれない?」
「子守をしてるようにしか見えないからやらないぞ」
「カインさんを探そうとしてるだけだって! 別にアニキを上から見下ろしてみたいってわけじゃないよ?」
「……ほんとか?」
あれこれと二人が騒ぎ始めると、その声に気が付いたのかカインが気さくに手を上げて二人に近寄っていく。
周囲の冒険者は騎士の鎧をつけたカインが冒険者二人に近寄っていくことに不思議そうな視線を向けている。
「おーい、二人とも!」
「あっ、カインさん! おはよ!」
「うん、おはよう」
トランは周囲の目線が生暖かいことに気が付き、わざとらしく咳ばらいをして話題をそらそうと声をかける。
「それで、今回は馬車で遺跡まで向かうのか」
「ああ。今回向かう遺跡は新しく見つかったものなんだ。まだ本格的に調査されていない場所だからね、遺跡の場所がばれて盗掘されないようにするらしいよ」
トランが馬車ちらりと見る。馬車の中から外が見えないように隙間なく布で覆われている上、その周囲には馬と一緒に騎士が待機している。あれでは外からも中からもお互いに状況が確認できない構造に、ここまでする必要があるのかとトランはため息をついた。
「……本当は建前で、本当はクレちゃんを安全に運ぶためにやっているんだけれど」
カインはトランに顔を近づけるとぼそりとつぶやく。トランはクレが自分の横で不思議そうにこちらを見ているのを確認すると、カインにこう聞き返した。
「……騎士団には話したんだな」
「ごめん、それが一番だと思ったんだ」
「お前がそう判断したんだ。それが最善かもな」
カインはほっとしたように笑顔を浮かべる。トランも小さく笑った後、クレとまた話し始めた。
馬車に乗り数時間程揺られた後、騎士団と冒険者たちは辺り一帯に何もない場所についた。周囲は岩で覆われており馬車が入ってきた道以外では侵入が難しく、すでに騎士団によって調査基地が設立されていた。
騎士団の代表であろう初老の騎士は、馬車から降りた冒険者たちの眼前に立ち声を張り上げる。
「諸君! 今回はよくぞ遺跡調査に志願してくれた! 君たちの勇気に敬意を表する!」
「そんなことよりも、遺跡はどこにあるんだ!」
「そうだ! 俺たちは金を稼ぎに来たんだぜ!」
騎士の言葉に反発するように各所から怒声が上がる。血の気の多くせっかちな冒険者に初老の騎士は人知れずため息を吐いた後、右足を後ろに引いて半身になり右側を指さす。
「そう急くでない。遺跡はあの建物の下……地下にある。諸君らには遺跡内部のモンスターの掃討とアーティファクトの回収をしてもらいたい!」
指を刺した方向にはすでに屋根や壁が設置されており、外からは何があるのかを確認できない。初老の騎士は続けて話す。
「モンスターの素材、アーティファクトは地上に待機している騎士に渡してくれればその場で換金しよう」
初老の騎士は冒険者が今にも飛び出しそうな雰囲気であることに気が付き、急いで言葉を締める。
「諸君らの活躍を期待している! 以上だ!」
「おおおおおお!」
そして我先に宝を得ようと冒険者たちが地下に潜っていく。その場に残ったのはトランたちと、この勢いに気圧されて出遅れた冒険者たちだけだった。
「す、すごい熱気だったね……」
「どいつもアーティファクト狙いだな。モンスターの討伐と比べて優に数十倍を超える報酬がもらえるからな」
「数十倍⁉ じゃ、じゃあオイラたちも早くいかないと!」
「ちょっと待て!」
トランは焦って遺跡に突入しようとするクレの首根っこをつかんで止める。
「ぐえっ!」
「あ、すまん。……それより、俺達にはお前がいるんだ。一番最後でも大丈夫だろ」
「どういうこと?」
トランは周囲に聞き耳を立てている人が居ないか周囲を見わたした後、その辺に落ちていた石で落書きを始める。
トランは下手な絵で破られた壁、きれいな壁、宝箱を書いた。
「遺跡の壁は魔法使いでも破壊できないくらい頑丈だ。しまっている扉も開けることができない。だから基本は朽ちて壊れた壁とか開いている部屋を物色するのが基本だ」
「そうなんだね」
自分の能力を自覚していないのか、とぼけた返事をしながらトランの絵を楽しそうに見ている。
トランはそんなクレの様子にあきれながらも説明を続ける。
「でも俺たちにはお前がいるだろ? お前がいれば閉じてる扉を開けられる。その部屋の物が取り放題ってことだ」
「あっ、そうだよね!」
「……はぁ。ほんとうに気づいてなかったのか」
トランが探索をする前から疲れを覚えていると、後ろからカインが声をかけてきた。
「もう騎士の奴らとの話は良いのか?」
「ああ。少し遺跡調査のすり合わせをしてきたところだ。予定は変わらず、この三人で遺跡に潜るよ」
カインの言葉にクレが活気づく。
「いよいよだね! アニキ、稼ごうね!」
「ああ」
遺跡に続く階段を隠している建物に入ると地面が四角にくりぬかれたようになっており、階段部分のみが地下に続いていた。
クレは地下から冷たい風が吹いているように感じて身震いをした後、自分を奮い立たせるようにこぶしに力を入れて一段ずつ降りていく。
三人が二分ほど階段を降りていると、段差がなくなり遺跡内部が見えてきた。
「なんだか、不思議なところだね……」
遺跡の内部には灯りがともっており、外と変わらないくらい明るい。そして遺跡の壁は白く、時間によって表面が朽ちている以外には傷一つない。
クレが壁をなでてみるとツルツルとしており、触り心地が良い。石に近いように感じていたが、今までの経験では言い表せないものであった。
トランはクレがあちこちを見回っているのを見て小さく笑った後、いつもの調子で声をかける。
「いくぞ。いつまでも浮かれているなよ」
「うん!」
それでもクレはどこかでワクワクを隠し切れないのか、足取りは軽かった。




