3話
森には鳥の鳴き声と風に揺れる草の音だけが聞こえている。二人が警戒しながら少し進んでいくと、草が踏み倒されたけもの道を見つけた。
「ウルフの足跡だな」
けもの道には足跡の数が十を超えていて、どれも地面をえぐるように跡が残っている。トランは振り返りクレを見つめて警告する。
「ここから先はウルフの巣だ。自分の身は自分で守れよ」
「待って! オイラの実力を見せるチャンスなんだから任せてよ!」
そういって森の奥に進もうとするトランをクレは回り込んで引き留めると、自分の荷物を漁って物を取り出し始める。
「何かいい考えでもあるのか?」
「ふっふっふ……。アニキの役に立って見せるから!」
しばらく後、クレは足跡を追って森の奥に進むと十を超えるウルフの群れを見つけた。
しかしクレは足を止めることなく群れの前に立つと、クレは大きく息を吸って指をくわえ、次の瞬間には指笛の音が周囲に響き渡る。
「来た来たっ!」
音に反応したウルフたちはクレに向かって一目散に走りだす。クレは背中を向けて走り出すと、来た道を引き返していく。小さなクレの体ではウルフから逃げることはできず、どんどん距離が縮まっていく。
そしてクレの背中にウルフの爪が届く寸前。クレが何かをよけるように地面を蹴り大きくジャンプすると、間近に迫っていたウルフたちが事前に張ってあった紐に引っ掛かり突然釣り上げられる。
「キャン⁉」
今まで逃げていたクレはそのチャンスを逃さず、袖から素早く取り出したナイフを釣り上げられたウルフに投げつける。
「ヒット!」
寸分たがわずウルフの頭に刺さったナイフによってウルフたちは動かなくなり、追いかけてきた他のウルフは足を止めて警戒し始める。
「よくやったクレ!」
木に身を潜めていたトランはその隙を見逃さず、木から飛び降りてウルフを剣で切り下ろす。
トランとクレが背中合わせになり、周囲を警戒する。一瞬の静止の後、ウルフたちは一斉にとびかかる。
「次が来るぞ!」
「任せてよ! ちゃんと役に立って見せるから!」
数体のウルフがとびかかってくるが、クレは事前に張っていた罠を駆使して攻撃を受けないように立ち回る。罠に引っ掛かったウルフにはナイフを使ってとどめをさしていく。
「いい調子……!」
順調にトランに実力を示せていると内心でほくそ笑んでいると、それが油断を呼んだのかぬかるみに足を取られてしまう。
「まずっ……!」
尻もちをつき手に持っていたナイフを落としてしまう。
クレが正面を向くと、眼前にウルフが迫っていた。
鋭い爪で切り裂かれるのかと想像してしまったのか、クレの体がこわばってしまい逃げられない。
「クレっ!」
ウルフの影がトランを覆った瞬間、トランが横から体当たりをかます。そのままウルフと一緒に倒れこみながらも剣で喉を突き刺して仕留める。素早く立ち上がりクレのそばによって手を引っ張り上げる。
「立てるな⁉ もう少しだ、さっさと片づけるぞ!」
「う、うん。もう大丈夫!」
クレは動揺しながらも返事をし、再び戦闘に戻った。
少し後、トランとクレはウルフをすべて倒していた。トランは剣に付いた血を振るい落として鞘に収めると、休むこともなくウルフを日の当たらない場所に運んでまとめ始めた。
「あっ、オイラも……」
クレも手伝っているとウルフを運んでいると、トランの左腕に傷が出来ているのに気が付いた。
「ねえ、その傷ってもしかして、オイラを助けた時の……?」
いつもの元気は鳴りを潜め、小さな声でトランに問いかける。
「ん? 気にするな。こんなのはかすり傷だ」
大した傷ではない、というように表情を変えずに左腕を上げている。クレにもそれを見て少し安心したのか少しだけ肩の力が抜けていた。
「ありがとう、アニキ。……でも、オイラ足引っ張っちゃったよね?」
「いや、むしろ助かった。お前が罠にかけてくれたおかげで戦う数が少なくなったからな」
それに、と言葉を続けながら一か所に集めているウルフを指さす。
「お前が仕留めた奴は傷が小さくて状態の良い素材が取れそうだ」
クレの仕留めたウルフにはナイフの刺し傷だけ、しかしトランが仕留めたものは体を真っ二つにされたものや争った跡があるものなど、状態が悪いものが多い。
クレも状況を見て納得したのか、輝いた目をしながらトランのほうを見る。
「じゃ、じゃあオイラ役に立ったんだよね! これからもパーティ組んでくれるんだよね⁉」
あふれんばかりの気持ちで突撃したクレに引っ付かれ、少し恥ずかしそうに引っぺがすトラン。小さくうなずくと、クレの頭を軽く押さえてこう言った。
「まだまだ危なっかしいからな。成長するまでは面倒を見てやるよ」
「うん! よろしくねアニキ!」
もうすっかりクレの表情はいつも通りの明るいものになっていた。
二人が報告のため村に戻ると、森の入り口あたりで心配そうにうろうろしていた村長がいた。トランが右手を軽く振ると、村長もそれに気が付いてほっとしたような顔を浮かべる。
「村長、ウルフの群れの討伐が済んだぞ」
「もう済んだのですか?」
「ああ。それで、仕留めたウルフなんだが……状態が良いものは村で引き取ってくれて構わない」
村長が驚いたように聞き返す。
「村としては助かりますが……よろしいのですか?」
「ああ。持って帰れる量でもないからな。皮や爪は売るなり使うなりしてくれ」
「ああ……! ありがとうございます……!」
深く頭を下げた後、村長は村の人間を呼ぶため村に向かって足早に歩いて行った。横で一連の動きを見ていたクレは得意げに胸を張っていた。
「さすがアニキ!」
「なんだ?いきなり」
「えへへ、なんでもない!」




