10話
遺跡の中は横幅、高さ共に五メートル以上はある広い廊下が続いていた。
三人が歩いていくと道中では先行していた冒険者たちが倒したモンスターが倒れており、辺り一帯に血の匂いが充満していた。その有様にカインは顔をしかめている。
クレもここまで多くのモンスターの山を見るのは初めてなのか、少し気おされながら二人に話しかける。
「……モンスターは倒すだけでその後の処理や素材の剥ぎ取りはしていないんだね」
「奴らの狙いはアーティファクトだけだ。モンスターの討伐報酬ははした金くらいにしか思ってないんだろうよ」
クレも匂いを吸いすぎないように鼻を腕で隠しながら二人の後ろをついていく。
警戒しながら周囲を見わたしていると、動くはずのないモンスターの死体が動き出し、クレが飛び跳ねる。
「ア、アニキ! あそこのモンスター動いたよ!」
トランも視線を送ると、納得したように視線を戻して歩き出す。
「いや、あれは死んだモンスターの剥ぎ取りをやってるやつら……スカベンジャーとか呼ばれてるな」
クレがもう一度モンスターの死体のほうを見てみると小柄な男やフードを被った女性、中には子供もやっているようだった。
「トラン。今回は少し数が多くないかい?」
「……確かに少し多いが、今回は元々冒険者の数が多かったんだ。こんなもんじゃないか?」
「……そうかな?」
カインは難しい顔をしたまま、トランたちと遺跡の中を進んでいく。
遺跡の中は入り組んでおり、三人は何度も道を曲がりながら進んでいった。時折モンスターの死体や人の足跡があったものの、ほかの冒険者には会うことがなかった。
そして三人は遺跡の廊下にポツンと存在する扉を見つけた。その扉は長い時間の中でも朽ち果てておらず役割を全うしている。
「ここ最近に開けられた後はなさそうだな。クレ、行けるか?」
「もちろん!」
クレは得意げに懐から鍵箱を取り出すと、扉に押し当てる。すると鍵箱の中から何かが切り替わるようにカチカチと音がする。クレはその音を聞くと針金を出してピッキングし始めた。
「カイン。俺たちはモンスターや冒険者が来ないか見張るぞ」
トランとカインがクレを囲むように周囲を警戒する。
「ここは……こうかな?」
静かな遺跡にクレのつぶやきと針金の音だけが響く。クレは地面にべったりと腰を下ろし胡坐をかいていて長期戦をするつもりのようだ。
「こうすれば……できた!」
カチっという音が鳴り、クレが解放感からか大きく背伸びをして床に寝転ぶとひんやりとした床が体の熱をじんわりと冷ましていく。
「まだ終わりじゃないぞ。ほら、立て」
「はーい」
トランはクレに手を伸ばすと、クレも寝そべったまま手をつかむ。トランがあきれた表情のまま力任せに引き上げると、クレも観念したのか自分の足で立ち上がる。
「ははっ」
二人のやり取りを見ていたカインは可笑しかったのか思わず笑ってしまう。トランはごまかすように扉の奥を指さすと、ぶっきらぼうに言葉を放つ。
「お前も、笑ってないで行くぞ」
扉の奥は短い通路になっており、その奥に広い部屋があるようだった。通路では久しぶりの客人を招くかのように、三人が足を踏み入れた瞬間に灯りがともる。
部屋の中には生き物の気配がなく、静寂だけがこの空間を満たしていた。
トランが警戒しながら部屋を見わたしてみると透明なガラス張りの棚、紙で書かれた資料、そして大きな箱が置いてあった。
「周囲にモンスターもいないようだし、少し別れて調べるか」
まだ安心しきれないのか、トランは罠の有無を調べるために周囲を慎重に調べ始める。その一方で、クレは大きな箱に興味津々なのか一直線に走り出した。
箱には何の装飾もない真っ白なものであり、その中に入っている価値を測ることはできない。クレは懐から鍵箱を取り出して解除しようと近づく。
「この箱もオイラがいれば……!」
抑えきれない気持ちのまま箱に手を触れると、いきなり部屋の中が揺れ始める。その揺れでバランスを崩したクレはしりもちをつき天井が視界に入る。ゆっくりと天井が開きはじめていたのだ。
異変に気が付いたトランがクレの方向に走り出す。
「くそっ!」
トランはクレを抱きしめながら天井の穴から遠ざかるように飛び込む。
その直後、天井から身長が三メートルはある鎧のようなものが落ちてきて部屋に轟音が響き渡る。
カインも武器を構えて二人に声をかける。
「トラン! それは遺跡のガーディアンだ!」
「言われなくても分かってる! 出口は開きそうか⁉」
カインは振り返って入ってきた扉を見たが、すでにひとりでに閉まり始めていた。クレのピッキングであれば部屋を出ることはできるかもしれないが、その時間をガーディアンはくれないだろう。
カインはガーディアンを見据え、自分の相棒であるアーティファクト、『ミョルニル』を構える。
「だめだ! ここで倒すしかない!」
「……くそっ!」
トランも悪態をつきながらも自分の剣を構える。
すっかり同様してしまったのか、クレは蒼い顔をしてトランのことを見ている。
「ご、ごめんアニキ……。こんなことになるなんて……」
クレの様子がおかしいことに気が付いたのか、トランは一瞬だけクレを横目で見る。
そしてクレを守るように一歩前に出ると、ガーディアンをにらみつけながら剣先を向ける。
「……お前に不用意に遺跡の物を触るなと言わなかった俺の責任もある。それにだ、逆に考えろ。わざわざこの部屋にガーディアンを配置してるんだ。この部屋はあたりだ、くらいは言えるようになれ」
トランはクレににやりと笑いかける。はっとしたクレは立ち上がり、自分を奮い立たせるようにナイフを構えてトランの横に並ぶ。ガーディアンを見る目は鋭く、さっきまでのおびえた雰囲気はどこにもなかった。
「……」
ガーディアンは緩慢な動きで立ち上がると、鎧の関節部分をきしませながらカインをにらんでいた。




