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王都への旅

 バンケットが終わると、息を吐く間もなく王都への出立の準備が始まった。王子に会う日が近づいていると考えると気が滅入ったが、同時に帰還の日が近づいているのも事実だった。


 真理愛まりあの王都への旅には、用心棒兼御者(ぎょしゃ)のバルドが同行することになった。


「こちらはバルド、閣下に仕える用心棒のようなものです。お嬢様の王都への旅に同行いたします」


 執事のルーベンが紹介してくれた男は、がっしりした体格に精悍な顔つきの青年だった。人間でいえば二、三十代に見えた。


 聞き覚えのある名前だと思って記憶を探った。たしか召喚されてすぐのときにクラウディオが叫んでいた名前がバルドであった気がする。


「改めまして、マリアお嬢さん。俺はバルド。ご紹介の通り用心棒、といっても荒事がなければ何でも屋ですがね。大抵は台所で野菜の皮むき係としてこき使われています。短い間ですが、どうぞよろしく」

「こちらこそよろしくお願いします」


 バルドが差し出した手を握ると、分厚い手のひらの皮膚やたこに驚かされた。日常的に武器を握っている手だ。


「以上が旅の同行者でございまして――」

「それと私も行く」


 横からずいとクラウディオが話に入ってきた。閣下、とルーベンが困り顔でたしなめた。


 クラウディオはすでに使用人に荷物を馬車に運び込ませていた。荷物を運びこんだかわいそうな使用人は、ルーベンと目を合わせずさっと屋敷の中へ戻って行った。


「本来であれば夜の乙女の旅にはもっと多くの伴がいてしかるべきだが、我が屋敷では切り盛りするのにぎりぎりの人数しかいない。余裕と呼べる人員はバルド、それから私だけだ」

「閣下、あなた様は公爵としてのお仕事がございます。どうか考え直してくださいませ」

「すでに引き継ぎは済ませているし、各所に休暇を取ると申し伝えてある。急な仕事があった場合はおまえが処理してくれ、ルーベン」

「閣下、バルドにはあなた様のお世話は無理でございます」

「心配無用だ、私の面倒は私が見る。私も真理愛の護衛として同行する」


 何を言われてもクラウディオは頑として譲らず、ルーベンに睨まれても知らん顔をしていた。


 二人も護衛がつくということは、かなり危険な旅になるのだろうか。真理愛が王都までの道のりの治安について不安を覚えると、バルドが口を挟んだ。


「治安の良い街道を王都に向かってずっと進むだけなので、大した危険はありません。安心してください。閣下もご自分の身はご自分で守れる御方ですので、何かあってもお嬢さんの安全は保障します。それから、お嬢さんは馬車での移動には不慣れと聞いていますが、休憩は多く挟みますのでそっちもご安心を」

「バルド、閣下はご一緒されません」

「いいや、ご一緒する」


 これまでずっと聞き分けの良い主人だったクラウディオが、近ごろ急に意固地になってしまったので、ルーベンはすっかり困り果てている様子だった。


「ルーベン、お前にも話していなかったが、舞踏会の後に殿下から王都へ来るよう内密に言われている。殿下のことだから、他の元老院のお歴々も知らない救世の儀式について教えてくださる腹積もりなのだろう」


 クラウディオが説得の切り札と思しき情報を開示したが、ルーベンはなおも難色を示し、真理愛をちらと見た。


「恐れながら閣下、私めは心配でございます。お嬢様は殿下と婚姻なさる身でございます。閣下は一時的にお嬢様の身を預かるお立場で、王都へ送り届けられた後は他人も同然でございます。それを弁えねばまた舞踏会のときのように牽制されましょう。そうでなくても殿下はあなた様を――」

「当然、殿下には気を付ける。だが、私が行かねば殿下は私を臆病者だと触れ回り、私の評判はさらに落ちるだろう。領民にも示しがつかない。ルーベン、私はおまえが何と言おうと王都へ行く。いいな?」


 そう言いながらも、クラウディオは真理愛に体が触れ合いそうなほど接近していた。それを見たルーベンは眉間の皺を深くする。


 真理愛は居た堪れなくなって、先ほどからずっと視線を足元に向けていた。


 結局、ルーベンは頷いた。


「承知いたしました、閣下。……バルド、閣下のお世話も頼みます」

「はい、可能な範囲で頑張りますよ」


 出立の準備が整うと、屋敷から使用人たちが見送りのために出てきた。真理愛は使用人たち一人一人に別れを告げ、使用人の中でも最も仲良くなったカーラとしっかりと抱擁を交わした。


 御者席にはバルドが座り、立派な客車には真理愛とクラウディオが乗った。二頭立ての立派な馬車で、黒塗りの豪奢な客車には、フォルトゥナ公爵家の紋章が描かれていた。


 真理愛とクラウディオ、バルドは屋敷のひとびとに見送られて、王都へ向けて旅立った。


エヴァルドにされたこと②

クラウディオが元老院の議会に初めて参加した時、毒入りのお茶を疑わずに飲んで生死の境を彷徨った。全治二日。

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