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まいか

作者: 12K
掲載日:2026/01/21

 ざんざ、ざんざ。

 冷たい水に肘のあたりまで沈めて、川底の砂利を掬います。

 浅いザルは目が粗く、米粒より小さな石は落ちていきました。

 ぽた、ぽた。

 滴る水音が聞き取れるくらいに、流れは穏やかで。

 それでいて幅はせいぜい、羽根馬の尾から角の先くらい。深さだって雲母(まいか)の膝に届くかどうかといったところ。

 こんな風に安全でなければ、自分一人に任せてはもらえないだろう。雲母(まいか)は、そう思いました。

 目を、ザルの上に残った石に向けながら。


 石目利(いしみ)の家に生まれた雲母(まいか)は、幼い頃から石を見て育ちました。だからか、石が大好きでした。

 最初に「いし」と言ったことも、家族に嫌と言うほど聞かされ、知っています。雲母(まいか)に負けず劣らず石が好きな兄や姉でさえ、そんなことは無かった、とも聞かされました。

 ただ、石が好きなだけではありません。

 雲母(まいか)は石に愛されていました。生まれついての才能を持っているのです。

 見分ける力でした。石か、そうではないかを。

 これを持つ石目利は、そう多くありません。

 通常は様々な試験をして、見極めます。早くとも数日かかるものでしたし、時には半年以上かかることさえあります。

 それを、僅か数秒で行える。

 雲母(まいか)には、石が光って見えるのでした。

 もちろん、石は光っています。周囲の光を拾い、反射して。

 しかし、そうではないのです。

 雲母(まいか)には、石が内側から光っているように見えたのです。


 ぎぃいいいっ。

 古い、錆びた蝶番がついた戸が、軋むような嫌な音がしました。

 (さらい)の鳴き声です。山向こうの森のねぐらで、一羽鳴いたようでした。

 一羽なら、羽根馬がどうにかしてくれます。

 きっと、二羽や三羽でも何とかなるでしょう。

 しかし、それ以上となるとどうにもなりません。つい最近も(さらい)の大群を見たと、噂になっていました。羽根馬もろとも攫われたっておかしくありません。

 雲母(まいか)は石と道具を背中の袋に収めながら、静かに川から上がりました。岸の茂み近くの木に繋いでいた、羽根馬の背に跨ります。

 とん、とんっ。

 首を二度、優しく叩くと、羽根馬は岸の開けた場所に出ました。

 そして、大きな羽を広げると、高く高く飛び上がります。

 こうすれば、万が一攫(さらい)に見つかっても平気です。(さらい)は獲物を求め、地上近くを飛ぶからです。

「わあ」

 真っ赤な陽が沈んでいきます。毎日見ていると言っても良いのに、雲母(まいか)はいつも感動します。それはたぶん、星も石だからでした。

 雲母(まいか)にとっては、石と陽に違いは無かったのです。

 どちらも美しく輝いています。

 そんな雲母(まいか)の目も、美しく輝いていることを羽根馬は知っていました。

「ひぃいいん」

 いななく羽根馬の心が分かったのか分からないのか、雲母(まいか)は首を優しく撫でます。

 じきに夜が来て、空には無数の星々。

 地上には人々の暮らす灯り。

 滑るように飛ぶ(さらい)達の瞳。

 雲母(まいか)が川から集めた石。

 世界は輝きに満ちていました。

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