まいか
ざんざ、ざんざ。
冷たい水に肘のあたりまで沈めて、川底の砂利を掬います。
浅いザルは目が粗く、米粒より小さな石は落ちていきました。
ぽた、ぽた。
滴る水音が聞き取れるくらいに、流れは穏やかで。
それでいて幅はせいぜい、羽根馬の尾から角の先くらい。深さだって雲母の膝に届くかどうかといったところ。
こんな風に安全でなければ、自分一人に任せてはもらえないだろう。雲母は、そう思いました。
目を、ザルの上に残った石に向けながら。
石目利の家に生まれた雲母は、幼い頃から石を見て育ちました。だからか、石が大好きでした。
最初に「いし」と言ったことも、家族に嫌と言うほど聞かされ、知っています。雲母に負けず劣らず石が好きな兄や姉でさえ、そんなことは無かった、とも聞かされました。
ただ、石が好きなだけではありません。
雲母は石に愛されていました。生まれついての才能を持っているのです。
見分ける力でした。石か、そうではないかを。
これを持つ石目利は、そう多くありません。
通常は様々な試験をして、見極めます。早くとも数日かかるものでしたし、時には半年以上かかることさえあります。
それを、僅か数秒で行える。
雲母には、石が光って見えるのでした。
もちろん、石は光っています。周囲の光を拾い、反射して。
しかし、そうではないのです。
雲母には、石が内側から光っているように見えたのです。
ぎぃいいいっ。
古い、錆びた蝶番がついた戸が、軋むような嫌な音がしました。
攫の鳴き声です。山向こうの森のねぐらで、一羽鳴いたようでした。
一羽なら、羽根馬がどうにかしてくれます。
きっと、二羽や三羽でも何とかなるでしょう。
しかし、それ以上となるとどうにもなりません。つい最近も攫の大群を見たと、噂になっていました。羽根馬もろとも攫われたっておかしくありません。
雲母は石と道具を背中の袋に収めながら、静かに川から上がりました。岸の茂み近くの木に繋いでいた、羽根馬の背に跨ります。
とん、とんっ。
首を二度、優しく叩くと、羽根馬は岸の開けた場所に出ました。
そして、大きな羽を広げると、高く高く飛び上がります。
こうすれば、万が一攫に見つかっても平気です。攫は獲物を求め、地上近くを飛ぶからです。
「わあ」
真っ赤な陽が沈んでいきます。毎日見ていると言っても良いのに、雲母はいつも感動します。それはたぶん、星も石だからでした。
雲母にとっては、石と陽に違いは無かったのです。
どちらも美しく輝いています。
そんな雲母の目も、美しく輝いていることを羽根馬は知っていました。
「ひぃいいん」
いななく羽根馬の心が分かったのか分からないのか、雲母は首を優しく撫でます。
じきに夜が来て、空には無数の星々。
地上には人々の暮らす灯り。
滑るように飛ぶ攫達の瞳。
雲母が川から集めた石。
世界は輝きに満ちていました。




