ディスコードコリダー
ガリガリと、金属と石の擦れる音がこの狭い通路に反響して響く。ギャアギャアと、錨に縛っている二人の騒ぎ声が耳をつんざく。
錨に縛り付けているのはさっき捕まえたばかりの新鮮な捕虜。
いささか生きが良すぎてうるさい、本当にうるさい。
「つくづく思うんだが、お前うるさい」
「あぁ〜あ!悪魔の声は聞こえませ〜ん!」
「だからうるさい!声のボリューム考えろ!」
「あ〜あああああ!!!」
「ペーチカパーチカうるっさい!」
引き摺っていた錨を右回り、920rpm(1分間での回転数、洗濯機に匹敵する)でぶん回す。悲鳴すら上げれず意識を脱力させ~る。
まったく、同じ捕虜同士仲良くして欲しいよ。
私が敵の捕虜になったときなんて...
「そこで止まれ!!」
また耳に響く目障りな大声が攻撃してくる。なんかムカついていた。
しっかし上手く囲まれたな。隠し通路を探して歩いたつもりだったのに。
私の前からだけではなく、歩いてきた背後からも敵が現れ囲まれた。
まったく、この通路、魔力の反射の仕方がランダムで索敵ができなかった。
まだまだ気づけていない仕掛けがありそう、下手に動くのは握手。
私は冷静に、正面の敵に手を上げる。
「この程度で私に、スーパーロスの軍隊に勝てるなんて思い上がりはいけないね」
悪手じゃなくて握手、こぶしを握る。そして手を上げた。
倒れた革命軍下っ端のポケットを漁り、自分のカバンに入れる。
よし、弾薬調達できた。カバンだけじゃなくてポッケにもジャランジャランだ。弾薬っていいよね、真鍮でできた薬莢は金色でピカピカだし、ぶつかり合ってカチカチって鳴る音がお金みたいで最高だ。
まぁ悦に浸るのも楽しいけど、そんな暇もない。
ローダーを使ってベレッタ用の9mm弾をマガジンに込めながら私の足下にいる、レジスタンスリーダーのオルガさんに声をかける。
「返事がないからもう一度言おうか、『メドヴェーチ部隊』『ロス部隊』『ヤーブラカ部隊』、私一人倒せないでこれをどう倒すの?」
地下通路の静寂に答えるのは私一人。流石レジスタンスリーダー、仲間を売るくらいなら沈黙を選ぶようだ。
うつ伏せで寝るオルガさんの脇腹につま先を入れる。
「あの〜、オリガ・スミルノフは気絶していると...」
「なに?」
「あっ、なんでもないです」
しかし参ったな、レジスタンス勢力がいると踏まえて踏み込んで来たのに、48人全員銃を装備していて、2分しか保たない。これじゃ特殊部隊を押し止めるどころか、普通の兵士にだって敵わない。敵に敵なしだ。
...頭が痛い。クレバスに落ちた時、水に浸かっていたせいだ。
自分の能力に胡座を掻いて無理をした私のミスが、今になって襲ってきた。
再び足下にいるスミーさんの脇腹を蹴る。
サッカーゴール前で、横パスがきた時にシュートするくらいの勢いで
「ごげぇぇ!」
「寝起きにこんなこと言って申し訳なくないんだけど、あなたのお腹に爆弾を埋め込みました」
「はぁぁ!?うっそでしょ貴方!?」
嘘かもしれないし、そうじゃないかもしれない。
ラプラスの悪魔とは私のこと、スミーさんはそれを暴けない。
私は尊大に大袈裟に重大に言い放った。
「そんじゃ寝るから、余計なことしたら爆破するよ。この地下通路ごと、没陥と」
「私たちは自分の命など惜しくない!」
「それじゃあ君たちを殺してから寝よ」
「有り難く承ります!」
殺さないのは利用したいからだからね、利用できないなら叱るべき処置をする。
お腹を抱えて怯えるスミーを適当に蹴り転がしてから、後ろから迫るナイフを避け逆に相手の後ろに回る。振り返る相手の顔にビンタ、止まっている間にナイフを奪う。
「あとオルガさん、彼に危害を加えるな。しっかりと文化的で最低限度の生活を送らせてあげるんだよ」
「こんな悪魔に人間的な...」
「人間的な?」
「人間的な文化的な生活をさせます!はい!」
「それじゃ頼んだよ」
私のお願いを、オルガさんは快く引き受けてくれた。
ふぅ、安心したせいかな、壊死した両足に力が入らなくて膝が折れる。
心臓を動かすことに集中しないと今すぐ止まってしまいそうだ。
私たちの体は、常に最高の状態に戻るようになっている。
銃弾で撃たれても肉体は再生する、体温がどれだけ下がっても死ぬことはない。だけど限界がある。それを超えてしまえば死ぬのみ。
今はただ、眠たい
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私、Origa Smirnoffは蹴られた腹を押さえながら考えていた。
私の武装した四十人の部下を、拳だけで、二分ちょいで、一発の被弾もなしで、壊滅させた暴の権化が、蹴られた方と逆の脇腹に頭を乗せて寝ていることを、考えていた。
こいつを刺激しないよう、首だけを動かして暴の権化を観察する。
私は驚いた、血の気が引いた。いや、こいつを前にその表現は正しくない。暴の権化は膝から下がなく、指先も炭を触ったようにどす黒い。
だが今なら、殺せる。アレクサンドラ・レヴィタンを殺せる。
今まで手も足も出なかったスーパーロスの軍人、その筆頭を
この暴の少女が締め上げて伸びているそいつを殺せる...!
とそこまで考え、腰につけたPLKに這い寄らせた手を止める。
この暴の権化、銀髪銀眼と約束したからな。
それを破ってこいつを殺すのは、正しくない。
何をもっても揺るがしてはいけないものはある。
「だ、だからアレクサンドラ、ひとまず落ち着こう」
震える拳を握りしめ、銃口に向き合った。
銃口の先に見える悪魔の目と向き合った。
「俺はIsul Alexandra Levitan、スーパーロスの軍人だ」
スーパーロスに入って三度目の気絶、気絶最多王の座まで争う仲のいい二人




