カウンターカントリー
拷問やなんかで水をかけて寝てる人を起こすシーンがある。あれは交感神経っていう人間の元気を司るところを冷たい水が刺激する、だから起きる。
でも気管に入って窒息なんてこともあるから、ふざけてやるのはお勧めしない。どうしても起こしたいならお腹をゴニョゴニョしてあげたらいい。
顔にかかった水を手で拭い、周りを見てみる。
銃や装備品や死体がゴロゴロ転がっている、どうやら作戦は成功したようだ。
クレバスを崩壊させて丸ごと私ごと落ちる。これで敵の目から逃れ、生死不明の状態を作れた。多少の余裕ができたって訳だ。
へぁ〜安心したらお腹が空いてきた、なんか食べよう。
とその前に、水を吸った服は重たい、肩凝っちゃう。
上着を脱いで水分を捻り出してまた着る、しゃっこい...!
まぁそんなことよりお腹空いた、背中に背負ってない荷物を下ろせない。
「さて荷物荷物...頭の上にも乗ってないし...」
眼鏡じゃないんだからと、一人ツッコミを入れる。ビシッと。
ははっ、やってる場合じゃなーい!!!
錨を巻き上げて周囲を散策、荷物を探し出せー!
「『あれ』がないと『権化』倒せないじゃんかー!」
『権化』願いをこの世界に実体化させる魔法
国境を越えないよう願えば不可侵の壁を作り、私の死を願えばあらゆる存在が私を殺しにかかる。対策しなければ、それで死ぬ。
まぁ垂直に落ちたんだから、どうせそこら辺にあるでしょ。
そして3時間経過!!!
ぜぇはぁ、これでぇ、勝ったと思うなよ私の荷物ー!
膝についていた手で腿をビシッと叩き気合いを入れる。
流石に体力の限界だ、肉体の限界といった方が正確か。
腰のホルダーに仕舞っていたデザートイーグルと肩にかけていたAKMを点検。手持ちの弾丸は凍っていて、体もびしゃびしゃ、弾痕から水が入って滲みる。
オールオッケ、これぐらいなんてことない。
荷物を探させていた錨を巻き戻し、その上に乗る。
錨を打ち上げまで、3、2、1、シュート!
雪原スレスレを滑走してこのまま街の中に入る。
街に入る前に改めて情報を整理しておこう。
『目標』
・拠点作り!
・荷物の奪還!!
・狙撃銃の調達!!!
・英雄の原石に接触!!!!
これが直近の目標、このノルマ達成できなかったらクビね。文字通りの。まったく、嫌ではないけど面倒くさい役割だよ。やるけどさ。
速度を緩め、人目の少ない建物の陰に降り立つ。
降雪量が多い街特有のレンガ作りの集合住宅、色彩豊かな歴史的建造物。国土が広いからヴァストスよりも道路が大きいところも魅力的だろう。
ここが目的地、スーパロスの第二都市『グレイヴグラード』だ。
錨から降り、足を大きく広げて立ち、両腕を空に名一杯あげる。体中に冷たい空気を満タンに詰め込み、思いっきり吐く。
「ただいま故郷、相変わらず発展してる」
故郷って言ったら田舎みたいなイメージがあるけど、普通に都市部の方が人口多いんだから、多くの人にとって故郷と言ったらビルと家とチェーン店だ。
しかしちょい待ち、このまま入ったら行政が司法して死刑になる。
私の顔は軍にバレている、変装をしないといけない。
髪型は何色にしようかな〜可愛くするのは当たり前だし。
髪から魔力を抜き、髪色を脱色する。
緑色、黄色、金色、オレンジ、赤、茶色、久しぶりに茶色にしようかな。目の色は変えられないから一旦このまま、後で民家からカラコンを盗んでおこう。着込んでいた防寒着も爆発で燃えたから今の私は薄着、骨格でバレることもないはず。
警戒を最低限に、故郷を思い出しながら道を歩く。
雪ばっか降って空が暗いからか、街の雰囲気が特段と重い。
しかし人通りは多い、歩いている人たちの顔も楽しそうに見える。
...あの頃にあったお店、全然無いな。
銃のお店ピストレット、パン屋さんスィエドッヌィエ、、夜のお店バーバチカ。世間では私みたいのを懐古厨というらしいけど、あえて言おう、昔の方がよかったと。
あの頃のチグハグでなんでもあり感がよかったのに、今はいい子ちゃんの優等生みたいなお店しかない。まるで怖い先生に目をつけられて怯えているみたいな、ね。
「お前が反乱軍どもに物を売りつけたのは事実だ、連行する」
「そんなの知るかよ!どう見分けろって言うんだよ!」
「我々にできて貴様にできないというのは怠慢だろう」
中性的な顔立ちの若い軍人、バッチから見るに階級はおそらく中佐だ。
中佐が街中にいるという物珍しさに惹かれ、声の方に歩みを進めた。
察するに摘発の現場といったところか、その現場を建物の陰から覗き見る。
パン屋か何かの主人と奥さんに手錠をかけ地べたに座らされ、その周りを複数の軍人が取り囲み、中には銃を向けている者もいる。
私はそれを可哀想だなぁと思い、踵を返して建物の間に入る。
あの夫婦にはあそこからの大逆転を期待するとしよう。
ベレッタも無くして、弾もポッケに入っている分しかないから、これはしょうがないこと。大体あそこにいる奴らを倒してどうなる?
それであの夫婦の罪が消えるわけでもない。ただ死体が一つ増えるだけだ。
知らない夫婦のために命を捨てるほど、人ができていない。
後ろで車が去っていく音を聞き、その音から逃げるように走った。




