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ホースに乗るスー 

4月28日 『適応』との戦いから5日経過 雪屋スアレス視点


氷の大国スーパーロス。全国民、旅行者の出入国禁止。

理由は異常な降雪と酷寒により安全を確保できないからとのこと。

確かにこの大雪じゃ飛行機も電車も動かせない。


なら当然のことだけど密入国する。今回の密入国に使うのはこのヤクート馬。

筋肉の発熱と長い体毛による保温効果で−50℃の環境に耐えられる。

でも流石の私も乗馬術は心得ていない。なので渋々人を雇った。


「もうすぐ国境に着く。荷物をまとめろ」

「分かりました、少し揺れてしまうかもなので注意を」

「お前みたいなチビがいくら暴れても変わらねぇよ」


雇ったのは68歳のおじさん。身長177cmで体重74kg

奥さんは既に他界しており、一人娘も嫁いで現在は一人暮らし。

また定年退職後は社会との関係も希薄で影響力と知名度も低い。

要するに、いなくなってもいい人間。


「ここで大丈夫です、報酬は指定の場所に」


可能な限り平らな場所を選んで止めてもらう。

7時22分、時間も完璧だ。予定通り暗いうちに都市部に入れる。

体を固定する錨を外し馬から降り、そして荷物を下ろす。

...遂に、着いてしまった。

別れの時だ。二日間の間だったけど、とても楽しい道のりだった。


「君もありがとね、もじゃもじゃくん」

「...嬢ちゃん、お前が只者じゃないのは理解ってる。だからジジイくせぇ説教はしたくないんだが、一つ言わせてくれ。生きろ」

「わざわざ自殺するためにこんな場所来ないですよ。それに私は自分の価値を知っています、その時が来るまで意地汚く足掻き続けますから」

「濁りきった綺麗な目をしているな、お前は」

「ドライアイですかね」


不満感と苛立ちを隠そうともせず顔に出している。

だが無駄だと思ったのか、それ以上は何も言わずおじさんは馬の背を私に向ける。


「では、またいつか」

「二度と会うつもりはない。寒いからとっとと行け」


二日も一緒に旅してたのに最後まで厳しい人だった。

おじさんと馬は後ろを見向きもせずどんどんと離れていく。

...あぁやっぱり無理だ。その背中がとても小さく、哀れに見えて、見てられない。


右胸ポケットからタバコを取り出し、先端に錨を擦り付けて着火。

一息、味は嫌い。でも確実に自分の命が削れていく実感と焦燥感が、どうしようもなく気持ちいい。


最近はホシモチが大のタバコ嫌いで全然吸ってなかった。

隠れて吸ったこともあるけど、その時はかなりキツく文句を言われた。

好きが嫌いを上回るくらいタバコが嫌いらしい。だから禁煙してたのに、一箱買ってしまった。そうでもしないと、耐えられない。


またいつか、なんてあるわけがない。

ここら辺の気温は春にも関わらず−30℃近くもある。

筋肉は萎縮し、感覚も鈍く思考も回らない。それにここに来るまでの間、何体の聖遺体に襲われた? 人一人で、馬に乗った状態で、対処できる質と量じゃなかったことは断言できる。


あぁ気持ち悪い、自分が気持ち悪い。最初から殺すつもりで選んだくせに、後悔してる自分が気持ち悪い。

わざわざ弱い立場にある人を選ぶのがキモい、報酬を払って対等になろうとするのがキモい。極悪人のくせにして聖人を気取ろうとする自分がキモい。

私の全部が全部全部キモい、キツい、嫌い嫌い嫌い。


私は私の全てが嫌いだ。



真っ白な雪に黒い灰が落ちる。

まるで直喩みたいな表現だ、名前に雪なんてあるけど私は灰の方だろう。

…はぁ、一人自虐が止まらない。自分で自分を慰める最低な行為。

そんなに辛いなら速く死んで...


「っっ!あっ...っぃぃ」


応急処置、人差し指と中指を雪の中に突っ込む!

どれだけの間、一人批判に酔っていたのか。

火種に触れて火傷なんてイキリ大学生でもやらない初歩的ミスをしてしまった。

しかも気付かぬ間に根本まで吸ってたから苦味がキツい、ガチで吐く。


「はぁはぁ、やっぱりタバコはダメ絶対だ」


そもそも未成年の喫煙は禁止だし。実年齢がとかの言い訳は社会で通用しない。

もし映像化されたらここは完全にオートだ。嘔吐もしてるし。

キラキラと黒塗りで画面が埋まる事は間違いない。


「でも、なんだか既視感がある...」


昔のことだ、闇堕ちしてたホシモチ。通称クロモチも昔はタバコ吸っていた。でも吸うのが下手でよく灰を太ももに落として悶え転げてた。それを思い出した。

まったく、いてもいなくても喧しいなんて。モルントルンさんの影響が強いのかな、教師なのに教育に悪いなんて恐怖だよ。特に下手なダジャレを言うのは本当にやめてほしい。


「ギリースーツ装着。メイン、サブウェポンよし。行動食とか諸々入った袋もよし。忘れ物もなさそうだし、切り替えて行こう」


やらなきゃいけないからやる。

やると決めたからやり切る。


「フィンブルの冬作戦、行動を開始する」


これは私にしかできない事だから

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